12 / 87
剣の章
♠12 救いの女神
しおりを挟む
「悠真君、起きて……」
「ん、うん……」
悠真は聞き覚えのある女性の声に導かれるようにして、ゆっくりと覚醒していく。
「あ、かり……?」
街灯の明かりが眩しい。逆光で顔は良く見えないが、視線の先に居るのは……間違いない。心配そうな表情でこちらを見下ろしている、幼馴染の紅莉だった。
「あ、てて……ここは?」
どれだけの間、気絶していたのだろうか。
すっかり日は落ち、空は真っ暗になっていた。
クラクラする頭を抑えながら、上半身を起き上がらせる。
視界には、砂場やゾウの遊具などがあった。どうやらここは公園のようだ。それに、どれも見覚えもある。
「第一公園か……」
学校の帰り道の途中にある公園だ。そこにあるベンチで、自分は寝かされていたようだった。
それも、紅莉の膝の上で。
「大丈夫? どこか痛む?」
「え? あ、いや大丈夫。ありがとう」
紅莉はベンチに腰掛けたまま、隣りでぼうっとしている悠真の頭を撫でた。
その手は子供をあやす母のように、優しい。
不意に訪れた安心感に思わず目を細める悠真だったが、急にサッと青褪めた。自身に起こったことを思い出したのだ。
「そ、そうだ。アイツはどこに行った……!?」
「落ち着いて、悠真君!」
「居たんだよ! あの、得体のしれない女が! アイツ、俺のことを捕まえて……」
悠真はベンチから立ち上がると、怯えたようにキョロキョロと周りを見渡す。
「アイツ、本を寄越せって言ったんだ……」
あの女が見せた、何の光の灯っていない、深淵のような黒い瞳で覗き込まれた記憶が脳裏に甦る。
何が目的なのかも分からず、逃げることもできず。
ただ蛇に睨まれた蛙のように、捕食されるのをただ待つしかできなかったあのシーンが、何度もフラッシュバックするのだ。
悠真は耐え切れず、その場で頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
ここに紅莉が居てくれなければ、とうに彼は発狂していたかもしれない。
「大丈夫だよ、悠真君。ソレ、たぶんもう来ないと思うから」
「紅莉……あの女を知っているのか!?」
悠真が紅莉の方を見上げると、彼女はこくりと頷いた。
「なんなんだ、アイツは? なんだかまるで、口裂け女みたいな奴だったぞ!!」
「――ッ。っぷ、ぷふふふっ」
通り魔の目撃情報かと思いきや、悠真の口から出てきた『口裂け女』に紅莉は噴き出してしまった。
笑う場面ではないのだが、笑ってはいけないと思うほど、沸々と笑いがこみ上げてくるのだ。
その様子を見て、悠真は自分がいかに突拍子もないことを言ったのか気付いて赤面する。
「あぁ、いや。ゴメンね悠真君。そうだよね、まるで都市伝説か怪談みたいだもんね……」
「た、頼むよ紅莉。どういうことなのか、説明してくれ……」
もういっぱいいっぱいになってしまった悠真は、潤んだ目で懇願する。
それは、すっかり弱り切った想い人の姿だ。
紅莉は身悶えしそうな快感に必死で耐えながら、事情について話し始めた。
「ん、うん……」
悠真は聞き覚えのある女性の声に導かれるようにして、ゆっくりと覚醒していく。
「あ、かり……?」
街灯の明かりが眩しい。逆光で顔は良く見えないが、視線の先に居るのは……間違いない。心配そうな表情でこちらを見下ろしている、幼馴染の紅莉だった。
「あ、てて……ここは?」
どれだけの間、気絶していたのだろうか。
すっかり日は落ち、空は真っ暗になっていた。
クラクラする頭を抑えながら、上半身を起き上がらせる。
視界には、砂場やゾウの遊具などがあった。どうやらここは公園のようだ。それに、どれも見覚えもある。
「第一公園か……」
学校の帰り道の途中にある公園だ。そこにあるベンチで、自分は寝かされていたようだった。
それも、紅莉の膝の上で。
「大丈夫? どこか痛む?」
「え? あ、いや大丈夫。ありがとう」
紅莉はベンチに腰掛けたまま、隣りでぼうっとしている悠真の頭を撫でた。
その手は子供をあやす母のように、優しい。
不意に訪れた安心感に思わず目を細める悠真だったが、急にサッと青褪めた。自身に起こったことを思い出したのだ。
「そ、そうだ。アイツはどこに行った……!?」
「落ち着いて、悠真君!」
「居たんだよ! あの、得体のしれない女が! アイツ、俺のことを捕まえて……」
悠真はベンチから立ち上がると、怯えたようにキョロキョロと周りを見渡す。
「アイツ、本を寄越せって言ったんだ……」
あの女が見せた、何の光の灯っていない、深淵のような黒い瞳で覗き込まれた記憶が脳裏に甦る。
何が目的なのかも分からず、逃げることもできず。
ただ蛇に睨まれた蛙のように、捕食されるのをただ待つしかできなかったあのシーンが、何度もフラッシュバックするのだ。
悠真は耐え切れず、その場で頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
ここに紅莉が居てくれなければ、とうに彼は発狂していたかもしれない。
「大丈夫だよ、悠真君。ソレ、たぶんもう来ないと思うから」
「紅莉……あの女を知っているのか!?」
悠真が紅莉の方を見上げると、彼女はこくりと頷いた。
「なんなんだ、アイツは? なんだかまるで、口裂け女みたいな奴だったぞ!!」
「――ッ。っぷ、ぷふふふっ」
通り魔の目撃情報かと思いきや、悠真の口から出てきた『口裂け女』に紅莉は噴き出してしまった。
笑う場面ではないのだが、笑ってはいけないと思うほど、沸々と笑いがこみ上げてくるのだ。
その様子を見て、悠真は自分がいかに突拍子もないことを言ったのか気付いて赤面する。
「あぁ、いや。ゴメンね悠真君。そうだよね、まるで都市伝説か怪談みたいだもんね……」
「た、頼むよ紅莉。どういうことなのか、説明してくれ……」
もういっぱいいっぱいになってしまった悠真は、潤んだ目で懇願する。
それは、すっかり弱り切った想い人の姿だ。
紅莉は身悶えしそうな快感に必死で耐えながら、事情について話し始めた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ゴーストバスター幽野怜
蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。
山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。
そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。
肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性――
悲しい呪いをかけられている同級生――
一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊――
そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王!
ゴーストバスターVS悪霊達
笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける!
現代ホラーバトル、いざ開幕!!
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる