透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

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剣の章

♠6 マイペースな彼

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 唐突に声を掛けられ、振り返るとそこには噂の彼がいた。
 彼は教室の外に居たのか、後ろの出入り口から顔だけ出して廊下側の壁際の席に居る紅莉に声を掛けたようだった。


「ちょ、悠真君! 驚かさないでよ!」
「いや、なんか名前を呼ばれた気がしたから……」

 驚かされたことに腹を立てたのか、紅莉はとぼけた顔の彼をキッと睨みつけた。
 だが当の本人は全く気にした様子はない。


「なぁ、明日って朝九時に河口駅の改札前で良いんだよな?」
「うん。っていうか、それはあんまりここでは言って欲しくなかったな……」

 紅莉のそれは、暗に教室では話し掛けないで、という意味だった。
 だが彼には通じていなかったのか、ニコニコとしたまま「あ、そうだった?」と返す。

 そんなマイペースな彼を見て、紅莉は諦めたように「はぁ……」と溜め息を吐いた。

 もちろん、彼女の本心は違う。悠真に話しかけられて、嬉しくないわけがない。邪魔者クラスメイトさえ居なければ、授業そっちのけで悠真とお喋りを続けたいと思っている。


「(他のどの女子でもなく、自分を選んでもらえた。悠真君が、私を……!!)」


 何とも都合の良い解釈だが、これが紅莉の自尊心をこれでもかと満たしていた。


 そもそも、実は悠真には星奈せいなという交際中の彼女が居る。

 紅莉、悠真、星奈は小学生時代からの腐れ縁とも言えるだろう。
 何の因果か、この一年A組には三人とも揃っているほどだ。

 星奈は悠真と同じく人から好かれ、色気がある。
 距離を置かれやすい清楚系の美人である紅莉と違い、星奈は人懐っこいギャル系の美人だ。

 つまり、紅莉の苦手なタイプである。
 一度凄惨なイジメを経験した結果、過剰なほどに自衛癖がついてしまった。
 だから彼女はできるだけ、教室で悠真と接触をしないように気を使っていた。

 だからこそ――


「え? ごめん、何か気に障ること言っちゃったかな……」
「うぅん。私が……いや、ちょっと考え事してただけだよ」

 明日二人で会うことを、教室で言って欲しくなかったのだ。
 お陰で、数人のクラスメイトたちがこっちを見ている。
 幸いにも、話していた内容までは聞こえてはいなかったようだが。


「ねぇ、なんで紅莉と悠真君があんな親しそうなの?」
「星奈ちゃんが可哀想じゃん。悠真の彼女なのに」

 目敏い女子グループが、紅莉たちを見てわざと聞こえるような声量で会話を始めた。そのグループの中には、悠真の彼女である星奈も居る。


「いーの。アタシは別に気にしてないから」
「あは、さすがじゃん。正妻の余裕ってやつ?」
「妻って、アイツとはそんなんじゃないって。ねぇ、それより見てよコレ~」

 悠真が他の女と話している。そんなことにはまるで興味が無いのか、星奈は別の話題を振り始めた。
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