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ヘリオス王国編

第27話 海ゴリラからの依頼

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「お話は分かりました。アキラ様たちの活動を評価いたしまして、コーブル原石からカッパーランクへ昇格とさせていただきます。正直、シルバーランクでも良い規模のご活躍でしたが……残念ながらランクの一足飛びはできない規則ですので、ご了承下さい」

「えぇ、私達はそれで十分よ」

「報酬もたっくさん貰えたです! これで美味しいものが買えるですぅ!」

 冒険者機関にて。
 担当してくれた受付のソルティーナさんが、新しい冒険者証をこちらに渡してくれた。

 漁港ひとつを救ったんだし、新人のくせに最短で○○ランクに!? みたいなお約束展開を期待していたんだけど、どうやらそれは無理らしい。

 まぁ機関はお役所仕事だから、そんなイレギュラーを許すと色々と不都合が起きてしまうんだろうな。

 俺がそんな事を考えている横で、トゥーリオのオッサンがソルティーナさんに話し掛けていた。

「あぁ、そう言えばオレっちが渡航船組合として依頼していた件はどうなってる?」

「ご依頼されていた件については、まだです。依頼を受ける方がいらっしゃらないので、このまま取り止めになる可能性もございます」

 冒険者機関に依頼?
 ゴリラみたいな見てくれのオッサンが冒険者に何を依頼するんだ? バナナの採取でもさせるのか?

「いえ、その程度の依頼でしたら私どもも楽なのですが」

「……ソルティーナさん、また俺の心を読むのは止めてくれません?」

「いいえ、読心スキルがあった方が会話がスムーズなのでやめるつもりはありませんわ」

 ソルティーナさんの説明によると、トゥーリオのオッサンの依頼とは、新たな食材もしくは調理法の発見だという。


「でもなんで渡航船組合が食材の調達なんて依頼するんだ? 農業とか食品組合辺りがするもんなんじゃないの?」

「んー、まぁ普通はそう思うよなぁ。……実は船乗りに深く関わる、ある食品について悩みがあってよぉ」

「悩み?」

 ――船乗りに欠かせない食品。長期間船の上で過ごす彼らには避けられぬ奇病がある。……そう、この世界でもビタミンC不足による壊血病があったのだ。

 この世界には治療魔法があるだろうと思うかもしれないが、それによって一時的に症状を抑えることができても、根本的な栄養不足に対しての治療にはならない。


「昔は、長距離渡航する船乗りが良く壊血病に掛かってよぉ。そんな時代に――「そこへ女神が、救世主ハイラントをこの地へ送ってくださったのです」お、おいソルティーナ?」

 トゥーリオさんとの会話の途中から、ソルティーナさんが食い気味に割り込んできた。しかも何のスイッチが入ってしまったのか、その勢いは止まらない。

「なんと救世主様は、すぐさま原因を突き止めになり、素晴らしい秘策を授けてくださったのですよ! どうですか、救世主様こそ真なる勇者だと思いませんか? ねぇ、ねぇ!!」

 な、なんだ?
 急に興奮で頬を赤く染めて、俺たちに訴えかけ始めたぞ!?
 ヤバい宗教をやっている人みたいに怖い!

「あ、ボクはその救世主って人を見たかもです! この建物に彫像があったですよね?」

「えぇ、その通りでございます。彼の名は"シューマッ"。あぁ、なんて神々しくも尊い美名でしょう」

 ……俺は突っ込まないぞ。
 あの人は元の世界ではまだご存命のハズだし、ましてや全裸でもない。


「彼が見つけた食材は、彼の名前を貰って魔葉マッパと名付けられました。それがコチラです」
「……キャベツ?」
「いいえ、魔葉です。

 ドンッ!と目の前のテーブル置かれたのは、地球で言うキャベツだった。しかも見た目がそのまんまキャベツだ。

「いや、ちがう!? 何だこの足!?」

 見た目はたしかにキャベツなのだが、よく見れば四本の手足が生えていた。……なんかバレーボールのイメージキャラクター、バ〇君みたいだな。


「コレは野生では成熟すると、自分で畑から飛び出して逃げます」
「え? 逃げ……?」
「それも、並の冒険者じゃ追いつけないほどに凄く足が速いんですよ!!」

 なんだそのキモイ生態は。
 野菜っていうよりかは、もはやそれってモンスターなんじゃ……。

「それってどうやって収穫するんだ? 普通の農家じゃ太刀打ちできないと思うんだが」
「そうなんです! そこでシューマッパ様の登場です! なんと彼が、たった数年の間にこの魔葉を品種改良してくださったのです。いやぁ、なんというスピード! 神速!!」

 品種改良ってF1種代表的な雑品種ってこと? ……って農家しか分からんネタだろコレ!
 っていうか魔葉マッパってネーミングはどうにかならんかったの? 下ネタじゃなくて、"シューフランス語でキャベツ"の方にあやかろうよ! 不名誉過ぎるよ!!


「そして長年の研究の末に、船旅でも長期保存出来る、栄養豊富なザワークラウトを開発してくださったのです」


 あぁ、たしかシューマッ〇さんってドイツの人だもんね。そしてドイツといえば、ザワークラウトだ。

「ザワークラウトってなんです?」
「ん? そうか、リタは知らないか」

 ザワークラウトっていうのは、キャベツを塩で揉み込んで乳酸発酵させたドイツ版のお漬物のことだ。ドイツ料理なんかでは付け合わせとしてよく出てくる。お店で腸詰を食べるときとかに、見たことがある人もいるかもしれない。


「でもなぁ……俺ら船乗りはずっと船の上だろ? アレをずーっと食うってのも……飽きちまったっていうか。なんか酸っぱいし」

 トゥーリオさんの言うことも分かる。漬物として食べる分には美味しいんだけど、ちょっと飽きる。でもドイツ人はずっと食べてるんだし、慣れれば平気だぜ?

 ちなみにドイツ人相手にクラウトって呼ぶと、"キャベツ野郎"っていう意味の悪口になるから要注意だ。日本人に納豆野郎、韓国人にキムチ野郎って言ってるような感じで。


「だけどよぉ……」

「おいおい、いつまでもウダウダと言ってんじゃねぇぞ、このクソゴリラ!! ザワークラウトはなぁ! 海に出る男たちが無事に帰ってくるように、清くうら若い乙女たちが願いを込めつつ丹精込めて作ってんだぞ!」

 それも、ソルティーナさんが今着ているような民族衣装ディアンドルの可憐な少女たちがだ。そんな貴重なモンを、味がどうこう言ってワガママいうんじゃねぇ!!

「ちょ、ちょっと!? あたかも私がザワークラウトを作っているかのように言わないで欲「俺はなぁ! 日本各地でやるドイツのビール祭に毎年通うくらい、ドイツビールにソーセージ、ザワークラウトと! なによりも民族衣装のお姉さんを愛してるんだよ! 分かったか! 分かったら謝罪しろ!!」

「え、なに? アキラが急にキレはじめたわ」
「しかもキレるポイントがアホ過ぎて、よく分かんないです……」

 いや、マジで可愛いんだよドイツの民族衣装。知らん人は一回見てみてほしい。できれば実物で。マジ可愛いから。
 

「お、おう。アキラの熱意は分かったけどよ。いや、後半は全然言っている意味が分からなかったが……取り敢えず、そこの姉ちゃん達がお前にヤバいくらい引いてるからその辺にしようぜ、な?」


 テーブルに身体を乗り上げてフーフー言っている俺を、白けた目で見る女性陣。
 しかし女性には分かるまい、あの民族衣装から溢れる胸の素晴らしさと、長いスカートの清楚さのギャップが!!

「最低ね」
「サイテーですぅ」
「今ほど読心したくないと思ったことは無いですね」



 ◆◆◇◇

「まぁそういうワケでよぉ。船乗り達の士気向上の為にも、何か良い案はねぇもんかなぁと思って依頼を掛けていたんだ」

「なんでそこで俺を見るんだよ……」

 いいじゃん、味変したいならザワークラウトに塩でもかけて食べなよ。

「なんで塩漬け魔葉に更に塩かけて食わなきゃならねぇんだよ! 頼むよ、アキラウト~! なにか出してよぉ~」

「某国民的猫型ロボット風に俺の悪口を言うんじゃねぇよ!」

 アイデアはあるけど、こんなオッサンに頼まれてもやる気でないんだよなー。報酬次第では教えてやってもいいけど……。

「そういえば組合長の娘さんも一緒に依頼されてましたよね? たしか素敵な殿方に、自分が作った美味しい魔葉マッパを食べて欲しい、と」

「――やりましょう!!!」

 おいおい、モノホンの美少女が作ったクラウトだと!?
 それが喰えるならなんだってやるぜ!!


「お、おい。オレっちの娘はまだ3歳で……」

「しかもこの海ゴリラの娘よね」

「ゴリラ娘ですぅ」

「しーっ。お三方、アキラさんには黙っておきましょう」

 ソルティーナさんたちがコソコソと何かを喋っていたが、やる気になった俺はもう止まらないぜ!

 こうして結局俺たちは、トゥーリオさんの依頼を受けることになり、またもや寄り道をすることが決定したのであった。
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