15 / 19
新しい家と新しい旦那様?①
しおりを挟む「ようこそ、先輩。ここが僕の家です」
馬車を待たせているからと、リケット男爵のお屋敷から連れ出された私は、王都にあるローグ君の家に来ていた。
貴族のお屋敷に比べると小さいけれど、一般的な平民の家よりはずっと大きい。立派な石造りで、庭も手入れされていて綺麗な花が咲き誇っていた。
「さ、もう日が暮れてきましたし。どうぞ、家に入りましょう」
「いや、私は自分の家に帰るよ!? さすがに男性の家に転がり込むのは……」
両手をブンブンと振りながら断ろうとするも、ローグ君は顔色一つ変えずにこう言った。
「何を言ってるんですか。今日からここが先輩の家ですよ?」
「へ?」
意味がわからず私は目を点にしていたけど、ローグ君が私の手を取った瞬間ハッとした。
「ま、まさか夫婦になるって本気で……?」
「あはは、そんなに気負わないでください。あのときは方便でそう言っただけですから」
「だ、だよね……」
「でも形式上は夫婦ですから。これからはここで一緒に暮らしてもらいます」
ローグ君の言葉に私は頭が真っ白になる。
私の混乱などお構いなしに、彼はニコニコと微笑みながら私を玄関前まで案内した。そして扉を開けながらこう言った。
「おかえりなさい、先輩」
そんな彼の笑顔を見た瞬間、今度は私の顔が真っ赤になった。
「……ただいま、ローグ君」
◇
「そういえば先輩、お腹は空いてませんか?」
ローグ君にそう言われて、私はハッとして気がついた。朝から色々とあったせいで何も食べていないのだ。
私が素直にそう答えると、ローグ君はニッコリと笑ってこう言った。
「よかった! 実は料理を練習していたんです」
「ローグ君が!?」
「はい。是非召し上がってください!」
そう言いながら家の中に入っていく彼に私も続いたのだが……中も凄かった。まるで貴族街の邸宅にいるかのような豪勢な造りだ。
何より目を引くのが、廊下にまで所狭しと置かれた本棚の数々。しかもどの棚にもギッシリと本が並べられていて、パッと見ただけでも千冊以上はある。
「あの……もしかしてこれ全部が魔法薬の本?」
私がそう尋ねるとローグ君はニッコリと笑って頷いた。
「そうですよ。片っ端から目についた本を購入していたら、どんどん置き場が無くなってしまって……」
そう言いながら彼は苦笑いしていた。
きっとここにある本を全て読破するだけでも、気が遠くなるほどの年月を要するに違いない。それでも彼は頑張って勉強をしてきたんだろうなぁ……。
私はローグ君に案内されながら、ダイニングルームに通されたのだが……これまた凄い。
キッチンは最新の設備が備え付けられていて、大きなオーブンや食材庫などが設置されている。しかも魔力式だから魔法が使えなくても簡単に操作できるし、食器洗い用の魔道システムすら備わっていた。
「さぁ、座ってください」
ローグ君に促された席に座ると、彼はテキパキと動き始めた。
「すぐ準備しますね」と言って、冷蔵庫から取り出した食材を次々にカットしては魔法を使って調理していく。その動きはとても手慣れたもので、洗練された技術を感じさせた。
私は感心しながらその様子を眺めていたのだが……ふと我に返った。
(なんでここまで一方的に私は尽くされているの? このままじゃ年上の先輩としての面子が立たないし、ちょっとは私も頑張らないと……)
そこで私はローグ君に提案してみた。
「あの……私に手伝えることは無い?」
10
お気に入りに追加
473
あなたにおすすめの小説
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)
しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。
良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。
人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ?
時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。
ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。
気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。
一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。
他作品で出ているサブキャラのお話。
こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。
このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)?
完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!
妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
双子として生まれたエレナとエレン。
かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。
だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。
エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。
両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。
そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。
療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。
エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。
だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。
自分がニセモノだと知っている。
だから、この1年限りの恋をしよう。
そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。
※※※※※※※※※※※※※
異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。
現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦)
ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

あなたが幸せになるために
月山 歩
恋愛
幼馴染の二人は、お互いに好きだが、王子と平民のため身分差により結婚できない。王子の結婚が迫ると、オーレリアは大好きな王子が、自分のために不貞を働く姿も見たくないから、最後に二人で食事を共にすると姿を消した。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる