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新進気鋭な男爵様のオモテとウラ②
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「……わかりました。できる限りのことはします」
「ありがとう! 助かるよ!」
シャーレ様は私の返事に安心したのか、ほっと胸を撫でおろしながら微笑んだ。
「貴重な素材を使ってもらう代わりと言っては何だけど、ディアナのお母様に声を掛けているんだ」
「私の母にですか……?」
「あぁ、是非ともこの屋敷に住んでほしい」
田舎に住む私の母を、このお屋敷に住ませる? どういう手段で呼んだのかは分からないけど、そんなことが可能なのかしら。
そもそも私のお母さんは平民なのに……大丈夫かしら? そう不安に思ったけれど、シャーレ様はこう続けた。
「もちろん、相応の待遇をもってお迎えするつもりだ」
ふむ……それなら良いのかしら?
「わかりました、ありがとうございます」
「うん。ではさっそく研究をお願いするよ」
「はい!」
よし、と気合いを入れてみたものの……魔力硬化症の症状は人それぞれだから、まず最初にどの症状か見極める必要がある。
ローグ君のお母様のように、四肢の石化だけであれば問題は無いんだけど。
「まずはその方に会わせていただけますか? どんな症状か確認したいので……」
「え? あぁ、いや。彼女は今、この屋敷には居ないんだ」
彼女? シャーレ様のお母様かしら。もしくは姉妹?
そういえば結婚式では、シャーレ様のご家族を見なかったわね。
「そういうことでしたら早速、治療薬の調合をしますね。おそらく私の腕でも今日中に完成できると思いますが……」
「本当かい!?」
「えぇ。材料さえあれば。ここにあるものは使っても?」
「もちろんだ! 必要なものがあればなんでも言ってくれ!」
彼は少年のように瞳を輝かせながら、そう答えた。その嬉しそうな顔を見て、私は思わず尋ねた。
「シャーレ様は、その方が本当に大切なんですね」
「……そうだね。私にとっては掛け替えのない人だ」
彼はどこか懐かしいものを思い出すように空を見上げたあと、私に向かってこう言った。
「では頼んだよ、ディアナ」
そう言って私の肩に手を置く彼を見て、私も微笑みながら頷いた。
「ふふ、わかりました。任せてください」
◇
「あー……もうこんな時間かぁ」
作業に没頭していたらすっかり遅くなってしまった。窓の外を見ればすっかり夜の帳が落ちており、満天に星が輝いていた。
仕事と違って、久々に自分の好きなようにやる作業は本当に楽しかった。私は大きく伸びをしたあと、自分の部屋に戻ろうと研究室を出たのだが――。
「あれ? どうやって行くんだっけ?」
えーっと……困ったな、屋敷の中が広すぎて分からなくなっちゃった。いつもはメイドさんが案内してくれていたんだけど。
どうにか思い出そうにも、もう疲れで頭が思うように働かないのよね。そう言えば私、昔っから方向音痴だったっけ……そんな事を考えながら廊下を歩いていると――。
「誰かの話し声……誰かいるのかしら?」
部屋の中から、誰かが会話しているのが聞こえてきた。こっそりと扉を開けて覗いてみると、そこに見知った顔を見つけた。
「ありがとう! 助かるよ!」
シャーレ様は私の返事に安心したのか、ほっと胸を撫でおろしながら微笑んだ。
「貴重な素材を使ってもらう代わりと言っては何だけど、ディアナのお母様に声を掛けているんだ」
「私の母にですか……?」
「あぁ、是非ともこの屋敷に住んでほしい」
田舎に住む私の母を、このお屋敷に住ませる? どういう手段で呼んだのかは分からないけど、そんなことが可能なのかしら。
そもそも私のお母さんは平民なのに……大丈夫かしら? そう不安に思ったけれど、シャーレ様はこう続けた。
「もちろん、相応の待遇をもってお迎えするつもりだ」
ふむ……それなら良いのかしら?
「わかりました、ありがとうございます」
「うん。ではさっそく研究をお願いするよ」
「はい!」
よし、と気合いを入れてみたものの……魔力硬化症の症状は人それぞれだから、まず最初にどの症状か見極める必要がある。
ローグ君のお母様のように、四肢の石化だけであれば問題は無いんだけど。
「まずはその方に会わせていただけますか? どんな症状か確認したいので……」
「え? あぁ、いや。彼女は今、この屋敷には居ないんだ」
彼女? シャーレ様のお母様かしら。もしくは姉妹?
そういえば結婚式では、シャーレ様のご家族を見なかったわね。
「そういうことでしたら早速、治療薬の調合をしますね。おそらく私の腕でも今日中に完成できると思いますが……」
「本当かい!?」
「えぇ。材料さえあれば。ここにあるものは使っても?」
「もちろんだ! 必要なものがあればなんでも言ってくれ!」
彼は少年のように瞳を輝かせながら、そう答えた。その嬉しそうな顔を見て、私は思わず尋ねた。
「シャーレ様は、その方が本当に大切なんですね」
「……そうだね。私にとっては掛け替えのない人だ」
彼はどこか懐かしいものを思い出すように空を見上げたあと、私に向かってこう言った。
「では頼んだよ、ディアナ」
そう言って私の肩に手を置く彼を見て、私も微笑みながら頷いた。
「ふふ、わかりました。任せてください」
◇
「あー……もうこんな時間かぁ」
作業に没頭していたらすっかり遅くなってしまった。窓の外を見ればすっかり夜の帳が落ちており、満天に星が輝いていた。
仕事と違って、久々に自分の好きなようにやる作業は本当に楽しかった。私は大きく伸びをしたあと、自分の部屋に戻ろうと研究室を出たのだが――。
「あれ? どうやって行くんだっけ?」
えーっと……困ったな、屋敷の中が広すぎて分からなくなっちゃった。いつもはメイドさんが案内してくれていたんだけど。
どうにか思い出そうにも、もう疲れで頭が思うように働かないのよね。そう言えば私、昔っから方向音痴だったっけ……そんな事を考えながら廊下を歩いていると――。
「誰かの話し声……誰かいるのかしら?」
部屋の中から、誰かが会話しているのが聞こえてきた。こっそりと扉を開けて覗いてみると、そこに見知った顔を見つけた。
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