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最終話 天使たちの新しい朝
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堕天使フェルと悪魔イネインの襲撃から数日が経った。
天界の大罪人であったフェルが消滅したとの情報に、天界の天使たちは歓喜に沸いた。
かつては誰もが敬い憧れた至高の天使だったが、悪魔に魂を売り、そして自身もクロに染まっていった裏切者を天使たちは許さなかった。
ミカエルとリィン、そして現天使長ラファのみがフェルの弔いに参加していた。
墓標となったのは、最後の戦いがあったあの教会。
ラファが人間界に用意した管轄地であったが、今回特別に聖域として準備をしたようだ。
「かつては……とても立派な方でした……」
「……そうだね。師としてはあれ以上の人は居なかったとボクも思うよ」
ステンドグラスから光が差し込む祈祷台に、ミカエルの十字槍を模した十字架を差し込んで墓とした。
そしてその槍を持つのは聖母のような修道服を着た女性像。
モデルはあの真琴という女性だ。
「真琴という人、とてもキレイな人だったんですね。シショーもそう思いません?」
「なんだかキミが言うと意味深に聞こえるんだけど。それってワザとなの?」
「えへへ……な、なんのことでしょう?」
ちょっと照れたように頬をポリポリと掻くリィン。
今の彼女は、マガイモノだったとは思えないほどの純白な身体となった。
服装は他の天使とは違い、漆黒のワンピースを身に纏っている。
真琴からフェイト、そしてリィンへと転生したとは言っても、過去のことは一切覚えていない彼女。
しかし、その想いは間違いなく魂に刻まれているのだろう。
リィンはゆっくりと彼の墓標の前まで歩いていき、目を瞑って鎮魂の祈りを捧げる。
つぅ、と彼女の頬を一筋の白い雫が流れた。
その姿を後ろでラファとミカエルは優しい表情で眺めていた。
「我々天使は、何のためにシロを集めるのか。そんなことを考える者は殆ど居ませんでした。ただ、それが神の思し召しだと信じていたからです。しかし、あの美しいシロの涙を見ると……人々を愛し、言葉で伝えることこそが私たちに求められていたのかもしれませんね」
ラファは祈祷をする少女に何かを感じたのだろう。
しみじみと感じ入るように隣りのミカエルにそう言葉を溢す。
「さぁてね。それこそ、神のみぞ知るってやつなんじゃないの?」
「ふふふ。そうでした。……では私はそろそろ戻りますね。部下にまた仕事をしろとせっつかれてしまいますので」
「天使長サマは大変だねぇ」
「こんなもの、いつでも熨斗をつけてお返ししますよ。……それでは、お元気で。ミカエル先輩。リィンと仲良くお過ごしくださいね」
「あぁ、キミも元気で」
最後まで天使長らしからぬ気安いやり取りで別れを告げ、静かに光となって消えていくラファ。
それを見送ったミカエルはリィンに近付いていく。
「……ラファ様はお帰りに?」
「あぁ。リィンにもよろしくって」
ミカエルとリィンは天界には帰らないことにした。
幾ら裏切者を倒したと言っても、彼らをマガイモノとして迫害してきた天使にとっては今さら快く受け入れることはできないだろう。
いや、もしかしたら歓迎してくれるかもしれないが、ミカエルたちは存外この日本での生活が気に入っていたのだ。
それを天使長に伝え、ここで日本のクロを浄化することで住み続ける許可を得ることに成功した。
「じゃあ、家に戻りましょう! 今日の占いもまだ観ていないんです!」
「相変わらず好きだねぇ。確かに、アイツの様子も心配だから戻ろうか」
2人はお互いに頷くと、家に向かって歩き出す。
そして自然と距離は近付いていき……自分と違う体温を確かめ合う。
互いをもう離さないと魂に刻み付け、未来を見続けていく。
――もう、ミカエルは過去を見返ることは無い。
◇
そんな彼らを、教会の屋根に居た真っ白な鴉が視ていた。
「――はい、こちらブエルです。……様の仰る通り、フェルの転生を確認しました。……はい。分かりました、引き続き誰にも悟られぬよう監視を続けます。天使たちもようやく主の御心に気付き始めたようですね。……はい、ありがとうございます。それでは帰還します」
1匹の鴉は誰に呟くでもなくそう告げると天高く飛び立ち、そして消えていった。
ミカエルとリィンがいつものリビングに戻ると、コーヒーカップを片手にした銀髪で赤眼の少女が出迎える。
「あぁあぁあぁっ!! なんなの2人とも、朝からイチャついて! アタシも混ぜろぉぉお!!」
「うるさい、お前は大人しく座れ」
「えへへ、いいでしょー。それじゃあ、みんなで仲良く朝ご飯を食べよっか!」
こうして、新たに加わった少女との新しい天使たちの日常が始まる。
天界の大罪人であったフェルが消滅したとの情報に、天界の天使たちは歓喜に沸いた。
かつては誰もが敬い憧れた至高の天使だったが、悪魔に魂を売り、そして自身もクロに染まっていった裏切者を天使たちは許さなかった。
ミカエルとリィン、そして現天使長ラファのみがフェルの弔いに参加していた。
墓標となったのは、最後の戦いがあったあの教会。
ラファが人間界に用意した管轄地であったが、今回特別に聖域として準備をしたようだ。
「かつては……とても立派な方でした……」
「……そうだね。師としてはあれ以上の人は居なかったとボクも思うよ」
ステンドグラスから光が差し込む祈祷台に、ミカエルの十字槍を模した十字架を差し込んで墓とした。
そしてその槍を持つのは聖母のような修道服を着た女性像。
モデルはあの真琴という女性だ。
「真琴という人、とてもキレイな人だったんですね。シショーもそう思いません?」
「なんだかキミが言うと意味深に聞こえるんだけど。それってワザとなの?」
「えへへ……な、なんのことでしょう?」
ちょっと照れたように頬をポリポリと掻くリィン。
今の彼女は、マガイモノだったとは思えないほどの純白な身体となった。
服装は他の天使とは違い、漆黒のワンピースを身に纏っている。
真琴からフェイト、そしてリィンへと転生したとは言っても、過去のことは一切覚えていない彼女。
しかし、その想いは間違いなく魂に刻まれているのだろう。
リィンはゆっくりと彼の墓標の前まで歩いていき、目を瞑って鎮魂の祈りを捧げる。
つぅ、と彼女の頬を一筋の白い雫が流れた。
その姿を後ろでラファとミカエルは優しい表情で眺めていた。
「我々天使は、何のためにシロを集めるのか。そんなことを考える者は殆ど居ませんでした。ただ、それが神の思し召しだと信じていたからです。しかし、あの美しいシロの涙を見ると……人々を愛し、言葉で伝えることこそが私たちに求められていたのかもしれませんね」
ラファは祈祷をする少女に何かを感じたのだろう。
しみじみと感じ入るように隣りのミカエルにそう言葉を溢す。
「さぁてね。それこそ、神のみぞ知るってやつなんじゃないの?」
「ふふふ。そうでした。……では私はそろそろ戻りますね。部下にまた仕事をしろとせっつかれてしまいますので」
「天使長サマは大変だねぇ」
「こんなもの、いつでも熨斗をつけてお返ししますよ。……それでは、お元気で。ミカエル先輩。リィンと仲良くお過ごしくださいね」
「あぁ、キミも元気で」
最後まで天使長らしからぬ気安いやり取りで別れを告げ、静かに光となって消えていくラファ。
それを見送ったミカエルはリィンに近付いていく。
「……ラファ様はお帰りに?」
「あぁ。リィンにもよろしくって」
ミカエルとリィンは天界には帰らないことにした。
幾ら裏切者を倒したと言っても、彼らをマガイモノとして迫害してきた天使にとっては今さら快く受け入れることはできないだろう。
いや、もしかしたら歓迎してくれるかもしれないが、ミカエルたちは存外この日本での生活が気に入っていたのだ。
それを天使長に伝え、ここで日本のクロを浄化することで住み続ける許可を得ることに成功した。
「じゃあ、家に戻りましょう! 今日の占いもまだ観ていないんです!」
「相変わらず好きだねぇ。確かに、アイツの様子も心配だから戻ろうか」
2人はお互いに頷くと、家に向かって歩き出す。
そして自然と距離は近付いていき……自分と違う体温を確かめ合う。
互いをもう離さないと魂に刻み付け、未来を見続けていく。
――もう、ミカエルは過去を見返ることは無い。
◇
そんな彼らを、教会の屋根に居た真っ白な鴉が視ていた。
「――はい、こちらブエルです。……様の仰る通り、フェルの転生を確認しました。……はい。分かりました、引き続き誰にも悟られぬよう監視を続けます。天使たちもようやく主の御心に気付き始めたようですね。……はい、ありがとうございます。それでは帰還します」
1匹の鴉は誰に呟くでもなくそう告げると天高く飛び立ち、そして消えていった。
ミカエルとリィンがいつものリビングに戻ると、コーヒーカップを片手にした銀髪で赤眼の少女が出迎える。
「あぁあぁあぁっ!! なんなの2人とも、朝からイチャついて! アタシも混ぜろぉぉお!!」
「うるさい、お前は大人しく座れ」
「えへへ、いいでしょー。それじゃあ、みんなで仲良く朝ご飯を食べよっか!」
こうして、新たに加わった少女との新しい天使たちの日常が始まる。
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