天使ミカエルは見返らない~天界から追放された半悪魔の女弟子と一緒に現代日本で暮らします〜

ぽんぽこ@書籍発売中!!

文字の大きさ
上 下
27 / 29

第25話 天使と悪魔の決着。

しおりを挟む
『――天使バンク認証OK、接続完了しました。預HPを全額引き落としますか?』

「ミカエル様っ!!」
「うん、ありがとうリィン。まったく、いつも手続きが遅いんだから天界の天使役人たちは。まぁいい――これで反撃の準備は整った」

 黙示録端末から流れてきたのは、ミカエルが天界で利用しているHP預入サービスの音声アナウンス。

 ミカエルはフェルを倒し、フェイトを蘇らせる為だけに自身のHPの過剰分を長年かけてここに預け続けてきた。そして能力で得た対価も全てここにつぎ込んできたのだ。

「ボクの全てを懸けてお前を討つ。それがボクの復讐であり、フェイトの弔いだ」


 ――売り言葉に買い言葉。

 能力の発動と共に、リィンが持つ端末に表示されている残高が超高速で減少していく。
 その能力を最大限発揮するために莫大な対価を犠牲にして、ミカエルの槍は加速度的に強化されていく。

「……武器は説得に屈服する。古い哲学者の言葉だ」
「私に説得? 馬鹿にするんじゃないよ!!」

「剣を持つ多くの者が羽ペンを恐れる。世界的に著名な劇作家もこう言ったそうだよ?」
「――私はそんなもの、恐れなどしない!!」

「世界には2つの力しかない。サーベルと精神という2つの力だ。そして最後には必ずサーベルは精神に打ち負けるだろう。……武力で革命を起こした偉人ですらこう言ったそうだけど?」
「知るか知るかっ! 私は天使などに負けはしないっ!!」


 イネインはそう言うが、ミカエルの眩いほどに白く輝く長槍を彼女の刃は受け止めきることができず、押し負けるように徐々に後退していく。
 世界中で使われてきた歴史と数多の想いが積み重ねられてきた言葉だ。たとえ日本中でかき集めたクロを纏おうが、それとは重みが全く違うのだ。

「そして神が我らに与えし最も偉大な力をその身で感じるがいい。――神の言葉は両刃の剣よりも鋭い。これは新約聖書の言葉……」
「神が授けし……言葉だとっ!?」
「すごい……これがかつて天使長だったミカエル様の本当の力……!!」

 ミカエルが言葉を槍に乗せた瞬間、今までで一番大きな光が彼を包み込む。
 そして翼の形の光を放つ聖鎧と透明な大盾、そして一本の巨大な十字槍を装備したミカエルが現れた。

「さぁ、これを維持していられる時間も残り少ない。ボクも想い出と決着をつけよう」
「なにを……何が神だ! そんなもので私の守りは破れはしない!!」

 刃となった腕を交差し、完全防御の体制をとるイネイン。
 ミカエルも覚悟を決め、最後の攻撃を仕掛ける。

「ねぇ、いい加減その身体から出て行ってくれない? 借りた身体の代金と利息はキミの命で返してもらうからさ」
「ぐうぅぅああぁぁっ!!」

 ――まさに光と影。
 どちらが飲み込むかのせめぎ合いが激しい火花となって弾け飛ぶ。
 そしてこの天使と悪魔による戦いが遂に決着しようとしていた。

「くそおぉっ、私はこんなところでっ! お前ら天使、全員喰ってやるはずだったのにいぃい!! 至高のっ、悪魔に昇り詰めるこの私がああぁぁあっ!!」
「所詮ハリボテの器にしか憑依できないお前には、魂のある存在には勝てやしない。……さよなら、ボクの親友。生まれ変わったらまた逢おう」

 朝に昇ってきた灼熱の太陽が闇を溶かしていくように。
 イネインは最大まで強化した腕で必死に防御するが、十字槍によってゆっくり分解されていく。
 そしてそのまま……墓地に立つ十字架のように、イネインの胸部にあるフェイトの心臓をズプリと貫いた。


「ひっ、ひあぁぁあっ!! くぞ天使どもおぉぉっ! ごのまま死ねるがあぁっ!!」
「ミカエル様っ!! あぶないっ!!」


 右手の刃は折れ、胸部も大穴が開けられたイネインによる、最後の足掻き。
 フェイトの心臓を破壊することだけに集中していたミカエルは、イネインの最期の攻撃を避けることができない。彼女はボロボロになった左手で、ミカエルの背中から彼を抱きかかえるかのようにして……自分ごと突き刺した。

「ぐふっ……!!」
「ミカエルさまぁあああっ!!」

 グズグズと黒い端切れのように崩れていくイネイン。否、真琴だった身体。
 そしてミカエルは力尽きたかのように、ゆっくりと地面へと倒れていく。

 リィンはミカエルに駆け寄り、彼の華奢な身体を抱き上げる。
 だが、ミカエルはもう腕を上げる余力も残っておらず、虚ろになりかけた瞳で彼女を見つめるだけであった。

「リィン……」
「師匠……なんて無茶をするんですか!! はやく回復をッ!!」

 預けてある対価を支払えば、HPを回復できるはず。
 そう思い、渡されていた彼の黙示録端末をリィンは見るが……。

「うそでしょうっ……!?」
「こほっ……む、無駄だよリィン……もう残りは無いんだ。……言っただろう、ボクの全てを懸けるって……」



 無情にも、画面に表示されているミカエルの残余HPは急速にゼロに近付いていた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セイントガールズ・オルタナティブ

早見羽流
ファンタジー
西暦2222年。魔王の操る魔物の侵略を受ける日本には、魔物に対抗する魔導士を育成する『魔導高専』という学校がいくつも存在していた。 魔力に恵まれない家系ながら、突然変異的に優れた魔力を持つ一匹狼の少女、井川佐紀(いかわさき)はその中で唯一の女子校『征華女子魔導高専』に入学する。姉妹(スール)制を導入し、姉妹の関係を重んじる征華女子で、佐紀に目をつけたのは3年生のアンナ=カトリーン・フェルトマイアー、異世界出身で勇者の血を引くという変わった先輩だった。 征華の寮で仲間たちや先輩達と過ごすうちに、佐紀の心に少しづつ変化が現れる。でもそれはアンナも同じで……? 終末感漂う世界で、少女たちが戦いながら成長していく物語。 素敵な表紙イラストは、つむりまい様(Twitter→@my_my_tsumuri)より

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...