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第25話 天使と悪魔の決着。
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『――天使バンク認証OK、接続完了しました。預HPを全額引き落としますか?』
「ミカエル様っ!!」
「うん、ありがとうリィン。まったく、いつも手続きが遅いんだから天界の天使役人たちは。まぁいい――これで反撃の準備は整った」
黙示録端末から流れてきたのは、ミカエルが天界で利用しているHP預入サービスの音声アナウンス。
ミカエルはフェルを倒し、フェイトを蘇らせる為だけに自身のHPの過剰分を長年かけてここに預け続けてきた。そして能力で得た対価も全てここにつぎ込んできたのだ。
「ボクの全てを懸けてお前を討つ。それがボクの復讐であり、フェイトの弔いだ」
――売り言葉に買い言葉。
能力の発動と共に、リィンが持つ端末に表示されている残高が超高速で減少していく。
その能力を最大限発揮するために莫大な対価を犠牲にして、ミカエルの槍は加速度的に強化されていく。
「……武器は説得に屈服する。古い哲学者の言葉だ」
「私に説得? 馬鹿にするんじゃないよ!!」
「剣を持つ多くの者が羽ペンを恐れる。世界的に著名な劇作家もこう言ったそうだよ?」
「――私はそんなもの、恐れなどしない!!」
「世界には2つの力しかない。サーベルと精神という2つの力だ。そして最後には必ずサーベルは精神に打ち負けるだろう。……武力で革命を起こした偉人ですらこう言ったそうだけど?」
「知るか知るかっ! 私は天使などに負けはしないっ!!」
イネインはそう言うが、ミカエルの眩いほどに白く輝く長槍を彼女の刃は受け止めきることができず、押し負けるように徐々に後退していく。
世界中で使われてきた歴史と数多の想いが積み重ねられてきた言葉だ。たとえ日本中でかき集めたクロを纏おうが、それとは重みが全く違うのだ。
「そして神が我らに与えし最も偉大な力をその身で感じるがいい。――神の言葉は両刃の剣よりも鋭い。これは新約聖書の言葉……」
「神が授けし……言葉だとっ!?」
「すごい……これがかつて天使長だったミカエル様の本当の力……!!」
ミカエルが言葉を槍に乗せた瞬間、今までで一番大きな光が彼を包み込む。
そして翼の形の光を放つ聖鎧と透明な大盾、そして一本の巨大な十字槍を装備したミカエルが現れた。
「さぁ、これを維持していられる時間も残り少ない。ボクも想い出と決着をつけよう」
「なにを……何が神だ! そんなもので私の守りは破れはしない!!」
刃となった腕を交差し、完全防御の体制をとるイネイン。
ミカエルも覚悟を決め、最後の攻撃を仕掛ける。
「ねぇ、いい加減その身体から出て行ってくれない? 借りた身体の代金と利息はキミの命で返してもらうからさ」
「ぐうぅぅああぁぁっ!!」
――まさに光と影。
どちらが飲み込むかのせめぎ合いが激しい火花となって弾け飛ぶ。
そしてこの天使と悪魔による戦いが遂に決着しようとしていた。
「くそおぉっ、私はこんなところでっ! お前ら天使、全員喰ってやるはずだったのにいぃい!! 至高のっ、悪魔に昇り詰めるこの私がああぁぁあっ!!」
「所詮ハリボテの器にしか憑依できないお前には、魂のある存在には勝てやしない。……さよなら、ボクの親友。生まれ変わったらまた逢おう」
朝に昇ってきた灼熱の太陽が闇を溶かしていくように。
イネインは最大まで強化した腕で必死に防御するが、十字槍によってゆっくり分解されていく。
そしてそのまま……墓地に立つ十字架のように、イネインの胸部にあるフェイトの心臓をズプリと貫いた。
「ひっ、ひあぁぁあっ!! くぞ天使どもおぉぉっ! ごのまま死ねるがあぁっ!!」
「ミカエル様っ!! あぶないっ!!」
右手の刃は折れ、胸部も大穴が開けられたイネインによる、最後の足掻き。
フェイトの心臓を破壊することだけに集中していたミカエルは、イネインの最期の攻撃を避けることができない。彼女はボロボロになった左手で、ミカエルの背中から彼を抱きかかえるかのようにして……自分ごと突き刺した。
「ぐふっ……!!」
「ミカエルさまぁあああっ!!」
グズグズと黒い端切れのように崩れていくイネイン。否、真琴だった身体。
そしてミカエルは力尽きたかのように、ゆっくりと地面へと倒れていく。
リィンはミカエルに駆け寄り、彼の華奢な身体を抱き上げる。
だが、ミカエルはもう腕を上げる余力も残っておらず、虚ろになりかけた瞳で彼女を見つめるだけであった。
「リィン……」
「師匠……なんて無茶をするんですか!! はやく回復をッ!!」
預けてある対価を支払えば、HPを回復できるはず。
そう思い、渡されていた彼の黙示録端末をリィンは見るが……。
「うそでしょうっ……!?」
「こほっ……む、無駄だよリィン……もう残りは無いんだ。……言っただろう、ボクの全てを懸けるって……」
無情にも、画面に表示されているミカエルの残余HPは急速にゼロに近付いていた。
「ミカエル様っ!!」
「うん、ありがとうリィン。まったく、いつも手続きが遅いんだから天界の天使役人たちは。まぁいい――これで反撃の準備は整った」
黙示録端末から流れてきたのは、ミカエルが天界で利用しているHP預入サービスの音声アナウンス。
ミカエルはフェルを倒し、フェイトを蘇らせる為だけに自身のHPの過剰分を長年かけてここに預け続けてきた。そして能力で得た対価も全てここにつぎ込んできたのだ。
「ボクの全てを懸けてお前を討つ。それがボクの復讐であり、フェイトの弔いだ」
――売り言葉に買い言葉。
能力の発動と共に、リィンが持つ端末に表示されている残高が超高速で減少していく。
その能力を最大限発揮するために莫大な対価を犠牲にして、ミカエルの槍は加速度的に強化されていく。
「……武器は説得に屈服する。古い哲学者の言葉だ」
「私に説得? 馬鹿にするんじゃないよ!!」
「剣を持つ多くの者が羽ペンを恐れる。世界的に著名な劇作家もこう言ったそうだよ?」
「――私はそんなもの、恐れなどしない!!」
「世界には2つの力しかない。サーベルと精神という2つの力だ。そして最後には必ずサーベルは精神に打ち負けるだろう。……武力で革命を起こした偉人ですらこう言ったそうだけど?」
「知るか知るかっ! 私は天使などに負けはしないっ!!」
イネインはそう言うが、ミカエルの眩いほどに白く輝く長槍を彼女の刃は受け止めきることができず、押し負けるように徐々に後退していく。
世界中で使われてきた歴史と数多の想いが積み重ねられてきた言葉だ。たとえ日本中でかき集めたクロを纏おうが、それとは重みが全く違うのだ。
「そして神が我らに与えし最も偉大な力をその身で感じるがいい。――神の言葉は両刃の剣よりも鋭い。これは新約聖書の言葉……」
「神が授けし……言葉だとっ!?」
「すごい……これがかつて天使長だったミカエル様の本当の力……!!」
ミカエルが言葉を槍に乗せた瞬間、今までで一番大きな光が彼を包み込む。
そして翼の形の光を放つ聖鎧と透明な大盾、そして一本の巨大な十字槍を装備したミカエルが現れた。
「さぁ、これを維持していられる時間も残り少ない。ボクも想い出と決着をつけよう」
「なにを……何が神だ! そんなもので私の守りは破れはしない!!」
刃となった腕を交差し、完全防御の体制をとるイネイン。
ミカエルも覚悟を決め、最後の攻撃を仕掛ける。
「ねぇ、いい加減その身体から出て行ってくれない? 借りた身体の代金と利息はキミの命で返してもらうからさ」
「ぐうぅぅああぁぁっ!!」
――まさに光と影。
どちらが飲み込むかのせめぎ合いが激しい火花となって弾け飛ぶ。
そしてこの天使と悪魔による戦いが遂に決着しようとしていた。
「くそおぉっ、私はこんなところでっ! お前ら天使、全員喰ってやるはずだったのにいぃい!! 至高のっ、悪魔に昇り詰めるこの私がああぁぁあっ!!」
「所詮ハリボテの器にしか憑依できないお前には、魂のある存在には勝てやしない。……さよなら、ボクの親友。生まれ変わったらまた逢おう」
朝に昇ってきた灼熱の太陽が闇を溶かしていくように。
イネインは最大まで強化した腕で必死に防御するが、十字槍によってゆっくり分解されていく。
そしてそのまま……墓地に立つ十字架のように、イネインの胸部にあるフェイトの心臓をズプリと貫いた。
「ひっ、ひあぁぁあっ!! くぞ天使どもおぉぉっ! ごのまま死ねるがあぁっ!!」
「ミカエル様っ!! あぶないっ!!」
右手の刃は折れ、胸部も大穴が開けられたイネインによる、最後の足掻き。
フェイトの心臓を破壊することだけに集中していたミカエルは、イネインの最期の攻撃を避けることができない。彼女はボロボロになった左手で、ミカエルの背中から彼を抱きかかえるかのようにして……自分ごと突き刺した。
「ぐふっ……!!」
「ミカエルさまぁあああっ!!」
グズグズと黒い端切れのように崩れていくイネイン。否、真琴だった身体。
そしてミカエルは力尽きたかのように、ゆっくりと地面へと倒れていく。
リィンはミカエルに駆け寄り、彼の華奢な身体を抱き上げる。
だが、ミカエルはもう腕を上げる余力も残っておらず、虚ろになりかけた瞳で彼女を見つめるだけであった。
「リィン……」
「師匠……なんて無茶をするんですか!! はやく回復をッ!!」
預けてある対価を支払えば、HPを回復できるはず。
そう思い、渡されていた彼の黙示録端末をリィンは見るが……。
「うそでしょうっ……!?」
「こほっ……む、無駄だよリィン……もう残りは無いんだ。……言っただろう、ボクの全てを懸けるって……」
無情にも、画面に表示されているミカエルの残余HPは急速にゼロに近付いていた。
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