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第3話 天使、日本に降臨す。
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天使長ラファから辞令を受けたミカエルとリィンはさっそく、シロとクロが混沌渦巻く人間界へと降臨していた。
2人が最初にやってきたのは、高層ビルが建ち並ぶ日本の首都である東京。
多くの人が行き交う渋谷の交差点に、誰にも気付かれることなくポンと現れた。
「んー! 娑婆の空気はやっぱり格別ですねーシショー!!」
アスファルトの道路の上でググーっと背伸びをしながら、受刑者みたいなセリフを発するリィン。
やっと与えられた任務で初めて人間界にやってこれたという喜びに、彼女のテンションはいきなり最高潮のようだ。
しかし、それだけ大声ではしゃげば当然、周りの人の視界に彼女は入るワケで……。
「ねぇ、あの子。見て見て!! すっごい綺麗……」
「わぁっ、すごい! 何かの撮影かなぁ?」
彼女は今、真っ白なワンピースを着て人間に紛れていた。
傍目から見れば、人間離れしたような整った顔をしている美少女モデルのようだろう。
だが彼女の頭髪は左右で綺麗に黒と白に別れているので、一般の人にはいっそう奇異に映っている。
その証拠に街行く人たちの視線は次第に集まってゆき、どの人も彼女の事を珍しいものを見る目で眺めていた。
「あんまり目立つような行為は避けてよ、リィン。それにボクたち天使は呼吸をしないんだから空気の違いなんて分からないだろ?」
そう答えるミカエルだったが、彼自身もここでは相当浮いていた。
なにしろ彼は上から下まで真っ白な姿をしているからだ。
髪が白いのはまぁ、そういうファッションなのだとしても。
彼が来ている純白のワイシャツにスラックス、そして白磁のような靴はかなり目立っている。
「シショー、やっぱり私たち……変じゃないです?」
「……分かってる。ちょっと待ってて」
ミカエルは同じく真っ白な肩掛け鞄から天秤の描かれている端末を取り出した。
天秤の上には槍と盾が乗っている変わったデザインだが、パッと見では人間界でもありふれたスマートフォンにも思える。
「あっ、それって十二天使様だけが支給される黙示録最新版シリーズ! いいなぁ……私たち見習い天使にとっては、いつか手に入れたい憧れのアイテムですよ!?」
天界に棲む天使には階級があり、上から天使長、大天使、天使、見習いと続いていく。
そのランクによって持てる天使用アイテムも変わってくるのである。
通常の人間が善性であるシロに一定値まで染まって死んだとき、まずは見習い天使となって天界にやってくる。
そこから数年かけて天界で修行したり、人間界に降りて善行を行う。
そうして自身を更にシロに染め上げていくことで、段々とランクアップをしていくわけなのだが……。
「私、クロの因子があるからいつまで経っても見習いのままなんですよね。見習いだと人間界に降りる許可も出ないから、全然シロも集められないし……」
彼女の見た目通り、リィンは何故かクロの因子を持って生まれてきてしまった。
通常、彼女ほどのクロの因子を持っていると、まず天使として天界に呼ばれないはずなのだが――。
「神が何故キミをそんな中途半端な天使にしたのかは分からない。だけど、そうなってしまったことをいつまでも悩んでいても仕方がないだろう?」
「シショー……」
クロを嫌悪する天使。そして彼らが棲まう天界では、リィンは迫害に近い扱いを受けていた。
なにしろ、彼女みたいなマガイモノは他に存在していなかったからだ。
だから彼女のクロが周りにどんな影響を及ぼすかも分からないし、階級の低く不安定な天使なんかは生理的に彼女を受け付けなかった。
そんな彼女を見かねた天使長ラファが大天使であったミカエルに相談したのだ。
マガイモノ同士、どうにかならないか、と。
「キミにはキミにしかない特別な能力がある。だから自分を恥じる必要はないよ。何より、ボクが君を必要としているんだからね」
「うっ、シショー。それって口説き文句ですかぁ? あんまりそういうことをホイホイと女の子に言うべきじゃないですよー!」
「うん? こんなこと、長いこと生きてきて言うのは初めてだよ?」
当然でしょ、といった顔でそう答えるミカエル。
ちょっと顔を赤らめながら、リィンは「違うの、そうじゃないの……」と頭を抱える。
立場も年齢も天界では上から数えた方が圧倒的に早い、ミカエルはまさに天上人であるはずなのに……。師匠は偶にこうやって普通とはズレたことを言う。
そんな弟子の悩む様子を気にすることも無く、ミカエルは端末をその細く長い指でスイスイとスワイプしていく。
「ん、コレでいいかな。なんか考えるのも面倒臭いし。リィンも適当でいいよね?」
「はい、もう何でもいいですから……私、早くどこか此処じゃないところに移動したいです……!」
ここに来たときは嬉しさでいっぱいだったのに、すでに疲れた顔で帰りたそうだ。
「分かった。じゃあコレで。頼むよ、釣り合う矛盾」
『オーダーを承りました。少々お待ちください』
ミカエルが依頼を告げると、リーブラと呼んだ端末から承認の機械音声が流れた。
そして1分も経たないうちに、2人の衣装が一変した。
2人が最初にやってきたのは、高層ビルが建ち並ぶ日本の首都である東京。
多くの人が行き交う渋谷の交差点に、誰にも気付かれることなくポンと現れた。
「んー! 娑婆の空気はやっぱり格別ですねーシショー!!」
アスファルトの道路の上でググーっと背伸びをしながら、受刑者みたいなセリフを発するリィン。
やっと与えられた任務で初めて人間界にやってこれたという喜びに、彼女のテンションはいきなり最高潮のようだ。
しかし、それだけ大声ではしゃげば当然、周りの人の視界に彼女は入るワケで……。
「ねぇ、あの子。見て見て!! すっごい綺麗……」
「わぁっ、すごい! 何かの撮影かなぁ?」
彼女は今、真っ白なワンピースを着て人間に紛れていた。
傍目から見れば、人間離れしたような整った顔をしている美少女モデルのようだろう。
だが彼女の頭髪は左右で綺麗に黒と白に別れているので、一般の人にはいっそう奇異に映っている。
その証拠に街行く人たちの視線は次第に集まってゆき、どの人も彼女の事を珍しいものを見る目で眺めていた。
「あんまり目立つような行為は避けてよ、リィン。それにボクたち天使は呼吸をしないんだから空気の違いなんて分からないだろ?」
そう答えるミカエルだったが、彼自身もここでは相当浮いていた。
なにしろ彼は上から下まで真っ白な姿をしているからだ。
髪が白いのはまぁ、そういうファッションなのだとしても。
彼が来ている純白のワイシャツにスラックス、そして白磁のような靴はかなり目立っている。
「シショー、やっぱり私たち……変じゃないです?」
「……分かってる。ちょっと待ってて」
ミカエルは同じく真っ白な肩掛け鞄から天秤の描かれている端末を取り出した。
天秤の上には槍と盾が乗っている変わったデザインだが、パッと見では人間界でもありふれたスマートフォンにも思える。
「あっ、それって十二天使様だけが支給される黙示録最新版シリーズ! いいなぁ……私たち見習い天使にとっては、いつか手に入れたい憧れのアイテムですよ!?」
天界に棲む天使には階級があり、上から天使長、大天使、天使、見習いと続いていく。
そのランクによって持てる天使用アイテムも変わってくるのである。
通常の人間が善性であるシロに一定値まで染まって死んだとき、まずは見習い天使となって天界にやってくる。
そこから数年かけて天界で修行したり、人間界に降りて善行を行う。
そうして自身を更にシロに染め上げていくことで、段々とランクアップをしていくわけなのだが……。
「私、クロの因子があるからいつまで経っても見習いのままなんですよね。見習いだと人間界に降りる許可も出ないから、全然シロも集められないし……」
彼女の見た目通り、リィンは何故かクロの因子を持って生まれてきてしまった。
通常、彼女ほどのクロの因子を持っていると、まず天使として天界に呼ばれないはずなのだが――。
「神が何故キミをそんな中途半端な天使にしたのかは分からない。だけど、そうなってしまったことをいつまでも悩んでいても仕方がないだろう?」
「シショー……」
クロを嫌悪する天使。そして彼らが棲まう天界では、リィンは迫害に近い扱いを受けていた。
なにしろ、彼女みたいなマガイモノは他に存在していなかったからだ。
だから彼女のクロが周りにどんな影響を及ぼすかも分からないし、階級の低く不安定な天使なんかは生理的に彼女を受け付けなかった。
そんな彼女を見かねた天使長ラファが大天使であったミカエルに相談したのだ。
マガイモノ同士、どうにかならないか、と。
「キミにはキミにしかない特別な能力がある。だから自分を恥じる必要はないよ。何より、ボクが君を必要としているんだからね」
「うっ、シショー。それって口説き文句ですかぁ? あんまりそういうことをホイホイと女の子に言うべきじゃないですよー!」
「うん? こんなこと、長いこと生きてきて言うのは初めてだよ?」
当然でしょ、といった顔でそう答えるミカエル。
ちょっと顔を赤らめながら、リィンは「違うの、そうじゃないの……」と頭を抱える。
立場も年齢も天界では上から数えた方が圧倒的に早い、ミカエルはまさに天上人であるはずなのに……。師匠は偶にこうやって普通とはズレたことを言う。
そんな弟子の悩む様子を気にすることも無く、ミカエルは端末をその細く長い指でスイスイとスワイプしていく。
「ん、コレでいいかな。なんか考えるのも面倒臭いし。リィンも適当でいいよね?」
「はい、もう何でもいいですから……私、早くどこか此処じゃないところに移動したいです……!」
ここに来たときは嬉しさでいっぱいだったのに、すでに疲れた顔で帰りたそうだ。
「分かった。じゃあコレで。頼むよ、釣り合う矛盾」
『オーダーを承りました。少々お待ちください』
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