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3-10 魔王様とのお祭りデート

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 孤児院に二人で作ったお菓子を届け、その足で女神祭へとやって来た。

 昨日は倒れてしまったせいで自由に回れなかったモナと、そもそもどこかに行っていてこの場に居なかったウル。
 この二人はこの祭りの人の多さに、あらためて圧倒されていた。

「魔王討伐のお陰で、例年より人が集まっているらしいわよ」
「ふふふ。ある意味、俺のお陰って事か。……そんな顔をしないでよ。平和なのは良いことじゃないか」

 モナが意地悪を言うと、ウルは嫌味で返してきた。
 自分の手にかかれば、この平和など簡単に崩せると言わんばかりの不敵な笑み。
 だけどここ最近ずっと一緒に居たモナには、彼の表情には邪気など全く無いのが分かる。

「さぁ、悪い魔王がもう出ないように、この祭りの良さを十分に味わってもらうわよ!」
「ほぉ? そこまで言うのなら我を満足させてみよ。さぁ、我が眷属よ。祭りを案内をするのだ!」
「あははっ。はいはい、分かったわよ」

 この聖女と魔王、ノリノリである。
 ひとしきり笑い合ったあと、二人はさっそく最初に目についた屋台へと向かうことにした。


「おじさん、これは何の串焼きなの?」
「おっ、お目が高いね姉ちゃん! これはファットラットの肉だ」

 ジュウジュウと食欲をそそる音を立てながら、いくつもの串を焼いている屋台。
 モナは香ばしい匂いをさせている目の前の串を指差して、店主にいったい何を焼いているのか尋ねた。

 串には日本の焼き鳥のように、多種多様な部位が刺してあるのが分かる。
 熱を出す魔道具が普及しているお陰で、こういった屋台でも出来立ての食べ物が出来るようになっているのだ。特にこのような手軽に食べられる串焼きは、この王都でも名物の一つとなっている。


「へぇ~、なんだか聞いたことが無い肉ね。じゃあコッチは?」
「へへへっ。コッチは無限インフィニティヘビスネークの肉だ。ちいっとばかしお高いが、味と効果はバッチシだぜ」
「味は分かるけど……効果?」
「あぁ……そっちの兄ちゃん、チョイと耳を貸してみな」
「俺? あ、あぁ……」

 ニヤっと口のはしを上げた店主は器用に串をコンロの上で転がしながら、ウルにコソコソと小声で何かを喋っている。最初は怪訝な表情を浮かべていたウルも、途中から店主と同じような、悪戯を思いついた男の子のような顔になった。

「これはな……で、食べると……なワケよ。どうだい、食ってみないか?」
「……ほぅ。面白い。いいだろう、その無限ヘビとやらの肉を二本貰おうか」
「へへっ、まいどあり!!」

 ニヤリとした屋台の店主から二人はそれぞれ無限ヘビの串焼きを受け取った。

 ヘビと言っても、見た目はぶつ切りにしたウナギのかば焼きにしか見えない。さらには醤油の様な調味料を使っているのか、少し焦げた香ばしい匂いが余計に食欲をそそってくる。
 さっきスコーンを食べたばかりだというのに、こうして見ているだけでグゥとお腹が可愛く鳴った。

 前世でもウナギが大好きで、夏は必ず月一レベルで食べていたモナ。ヘビというゲテモノ素材に遠慮して食べない、という選択肢は食欲の前にきれいサッパリ消え去っていた。

「い、いただきます……はふっ、はふはふっ。あちちち……」
「……どうだ?」

(――美味しい!!)

 外の皮はパリパリ。身はややタンパクだが程よく脂が乗っていて、それが醤油の香ばしさと相まって絶妙な味わいをみせている。
 他にも何かの香辛料が入っているのか、山椒のようなスッとした後味でしつこさもない。
 これならあと一本と言わず、いくらでも食べられそうだ。

 それにヘビと言っていたが、味はもうウナギのソレである。コッチの世界ではもうウナギは食べられないと思っていたモナにとっては、これは大発見だと言っても過言ではないだろう。

 あっという間に一本を食べきってしまった。
 少し寂しく思いつつ、ふと隣を見てみると、手に持ったままひと口も付けていない男が立っていた。


「この串焼きすっごく美味しいわよ、ウル! 貴方も食べてみなさいよ!」
「モナがあれだけ美味しそうに食べていたなら大丈夫か。あむっ……うん、確かにこれは……」

 モナとは違って、最初は少しおっかなびっくりでほんの小さくかじる。

 だがそのひと口で美味しいと分かると、ムシャムシャと食べていく。どうやら彼も、このウナギのかば焼きもどきを気に入ったようだ。

「むぐむぐ。ねぇ、そういえばさっき、屋台のおじさんと何を話していたの?」
「あぁ、この串焼きを食べるととある効能があるんだって」

 いつの間にか購入していたお代わりのヘビ串を両手に持って、嬉しそうに頬張っているモナ。これだけ美味しいのなら、値段が張るのも分かる。

 だが店主の言う何かの効果がある、というのが気になった。ウナギと同じく、滋養強壮でもしてくれるのだろうか?

「へぇ……どんな効果が?」
「性欲向上。無限に性行為が出来るほど、絶倫になるらしい」
「ぶふぁ」

 まさかのマムシに近い方の効果だった。
 予想外の効果に、モナは思わず口の中のモノを吹き出しそうになる。

「な、ななななんてモノを食べさせるのよっ!!」
「あはははっ。所詮は眉唾モノらしいから、それが本当かは分からないよ。ただ、無限ヘビはモンスター素材だから、何か不思議な効果はあるかもしれないよって言ってた」

 効果の如何いかんは分からないが、モナは取り敢えず効果が出ないことを祈る。
 これ以上、この男に開発されてしまっては困る。



 もうこの串焼きの効果は忘れることにしたモナは、逃げるようにして次の屋台へと移る。
 今度は昨日も見た、魔法の的当て屋だ。

「やぁどうだいお二人さん。やっていかないかい」

 五十代ぐらいのおじさんが、近づいてきたモナたちに愛想良く話し掛けてきた。
 鼻の下にチョビ髭の生えたダンディな店主は、武骨な職人のような指で自分の店の目玉をクイクイっと指している。

 そちらを見てみると、子どもたちが大はしゃぎで銃のようなものを持って遊んでいる。その銃は魔法の射出機のようで、子どもたちはそれを使って的となっている人形や木製の工芸品にパンパンと当てていく。
 どうやら射的の要領で棚から的を落とすと、それが景品として貰えるらしい。

「どう、ウル。こういうのは試したことがある?」
「いや、無いけど……魔法をこんな事に使うなんて」
「へへっ、そこの聖女様がこういう遊びはどうだって、去年、教えてくれたんだよ。なぁモナ様?」
「えへへ。本当に実現できるとは思わなかったけどね!」

 去年の女神祭の時、家族で屋台巡りをしていたモナが暇そうにしているこの屋台の店主を見て、相談を受けたのだ。何となく前世の時の射的を思い出して、魔法でも再現できないか、と言ってみたのである。

 この店主はそれを一年かけて魔法を撃つ銃を開発したらしい。彼は聖女のお陰だと言うが、アイデアをあげたら実現してしまうこの店主も凄い。

「でも本当に良かったのかい? アイデア料は、屋台を孤児院のガキんちょ達に手伝わせるってだけで」

 モナと話している店主の隣りでは、孤児院から派遣されたであろう少年少女たちが落ちた景品を拾って客に手渡したり、店先で声を張り上げて呼び込みをしたりと一生懸命に働いている。
 幼い彼らには少し大変そうだが、働けばお小遣いを貰えるとあって、どの子たちも真剣な表情だ。

 そんな彼らを見て、モナは自分の判断が正しかったのだと確信していた。

「うん、少しでもお小遣いになれば、この子たちも喜ぶから」

 結果としては自分の手柄となったとはいえ、飽くまでも前世の知識でアドバイスしたに過ぎない。だからそのお礼は、何か自分以外の為に使いたかったのだ。

 だがそんな事情を知らないウルは、モナが考えた遊びと知って興味を示したようだった。


「へぇ……モナがこの魔道具を考えたのか。じゃあ俺もやってみようかな」
「おっ、やるかい勇者様。それじゃあ大人専用はコッチだ」

 子ども用とは少しフォルム異なる魔法銃を手渡されたウルは、さっそく狙いを定めパンパン、とリズムよく的を撃っていく。彼は銃なんてモノを扱うのは初めてのはずなのに、なんと狙いをひとつ違わず当てている。
 次々と景品はコテン、と棚から落ちていき、見事ゲットと相成った。

「す、すげぇ……」
「ね、ねぇおじさん。アレって、ワザと少し狙いが外れるようになっているのよね?」
「あぁ、聖女様に言われた通り、大人用は弾が少し曲がるようになってるはずだぜ。なのに勇者様、全部当てちまった」


 魔王は魔法と名の付くものであれば何でも得意なのだろうか。

 ウルは討ち終わった後の魔法銃を手馴れた手つきでクルクルと回しながら、景品を子どもたちから受け取っていた。心なしか子どもたちから尊敬の眼差しを受けて、彼も嬉しそうな顔をしている。


「はい、モナ。プレゼント」
「えっ? 私にくれるの? あ、ありがとう……」

 魔法銃に込められていた十発を全て当てたウルはゲットした景品の中から二つだけ選んで、残りは店主に返却していた。
 そのうちのひとつをモナに渡したようだ。

「うふふ、かわいい」
「モナの髪の色と同じだろ? 俺はこっち」
「わぁ、銀色のウサギさんね」


 モナの手のひらには、小さな黒色をしたウサギの人形がちょこんと乗っている。

 これは王都周辺でも見られるホーンラビットというツノウサギのモンスターだ。モンスターといっても子どもでも掴まえられるほど強さで、食肉にも使えるので人気がある。

 この人形も見た目も可愛らしく、赤色の小粒の石で作られた瞳がキラリと光っていた。


 そしてウルの手にもよく似た銀色のホーンラビットがある。つまりは色違いの人形ということだ。



 なんだか付き合いたてのカップルみたいで、むず痒くなるような恥ずかしさもあるが、ここは異世界だ。
 モナは魔王様がくれた可愛らしいプレゼントを、いつまでも嬉しそうに見つめていた。



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