30 / 33
第30話 黒幕と、狂気と。
しおりを挟む「ふっ。いつかはこうなる日が来ると思っていたよ」
学校の理事長室にある革張りの大きな椅子に腰掛け、男が余裕たっぷりに笑みを浮かべている。
男の名は磯崎玄間。俺が愛する人の父親は、この事件の黒幕だった。
タカヒロからこのゲーム転生の真相を聞かされた俺は、単身で彼に会いに来ていた。
道中で誰かに邪魔されることもなく、すんなりと理事長室に来れたということは、おそらく俺が来ることを予想していたんだろう。
「お前がタカヒロを殺そうとした理由。それは学生時代に一人の女性を巡ったトラブルだった――それは本当なんだな?」
俺は確認するように問いかけるが、彼は動じない。
まるですべてを見透かすような眼差しを向けてくるだけだ。
「ああ、そうだとも。私は彼女のことを誰よりも愛していた。あんなチャラチャラした男なんかよりも、よっぽどね」
やはり本当だったか。
玄間は大学時代、同じサークルに所属していたトワりん……兎羽さんを好きになった。
だが当時のトワりんには既に恋人がおり、それがタカヒロだった。
トワりんの彼氏であるタカヒロは、当時人気のあったアイドルだった。
そんな彼と付き合うトワりんを妬ましく思った玄間は、二人の間に割って入ろうとする。
だがタカヒロはトワりんを守るために、玄間を徹底的に拒絶。
逆恨みした玄間は卒業記念で製作途中だったハイスクール・クライシスを勝手に改変し、タカヒロをモデルとしていた主人公を殺すシナリオにしてしまった。
「彼女は私を選んではくれなかった。何故なんだ? この天才的な頭脳をもってしても、未だに分からないんだ。どうしてよりもよって、彼女はタカヒロのようなクズ野郎共を……」
玄間の顔には怒りと憎しみが入り交じり、醜悪な表情になっている。
タカヒロは卒業と同時に兎羽さんと別れたらしい。理由は定かではないが、散々振り回された玄間は面白くなかっただろう。
「どうせ君は知っているんだろ? 私がどんな思いでこのゲームを作ったか。そしてどんな気持ちで君たちを操っていたか」
「……」
「……黙っているということは、そういうことなんだろう?」
「……あぁ。全部知ってる」
玄間がゲームの世界を作り上げた動機は嫉妬心と独占欲。
自分が手に入らないならいっそ、世界をまるごと自分で作ってしまえば。ついでに恨みのある人間を自分が作り出した世界で永遠に苦しませればいい。
そう考えた結果、彼はゲームの世界に人間を送り込む方法を考え付いた。
「お前はタカヒロをこのグッドエンディングのない世界に閉じ込め、何度もニューゲームを繰り返させた。それこそ何百回も、何千回も。お前はタカヒロが苦しみを味わう姿を見て、愉悦に浸りたかったんだ!」
「そうさ! その通りだよ! 君の言う通り、私はあのクズを痛めつけてやりたいと思ってこのゲームを作り上げたんだ!!」
玄間は狂喜に満ちた笑顔を見せる。
「でもそれだけじゃない。私は自分の手で直接、彼をぶち殺したかったんだよぉ!!」
玄間は立ち上がると、机の上にあった高級そうなワイングラスを掴み取り、中の液体ごと床に叩きつけた。
ガラスが砕け散る音が部屋に響き渡る。俺は玄間から放たれた狂気を感じ取り、一歩後ずさってしまった。
これが本当の殺意というものなのか。こんなにも禍々しい感情を初めて感じ取った。
「なのに……アイツは生きることを諦めなかった。私が何度殺しても、必ず蘇ってきた。……なぜだ!? あれほどまでに私の兎羽を穢してくれた憎き相手を、なぜ生かしておく必要がある!! あんな奴は生きている価値なんてないんだぞ!!」
玄間は完全に我を忘れていた。
今まで冷静沈着な態度を取っていた彼が、今では別人のように荒々しくなっている。
「しかもアイツは兎羽の正体に気が付かなかったのか、まるで興味を示さなかった。私が恋していた時は散々邪魔してきたのに、この世界ではまるで無関心だ。攻略に関係ないからか? そんなふざけたことがあってたまるか!!」
彼の言葉からは怨念が伝わってきた。自分の愛した人に手を出されなくても怒りを覚えるなんて、相当イカれてる。
それほどまでに強い愛情をトワりんに向けていたのだろう。
だがそれでも、俺の答えは変わらない。
「それはタカヒロだって、分かっているからじゃないのか? この世界のトワりんと現実世界の兎羽さんは別物なんてことを」
「……ははっ、ははははは! あははははっ!!」
俺の言葉を聞いた玄間は、先程までの興奮状態が嘘だったかのように、一気に笑い出した。
「私が生み出した兎羽は完ぺきだ。容姿はもちろんのこと、性格も完璧に再現している。それにキミが兎羽を別人だと言える立場には無いよ」
「そりゃあ当たり前だろう。現実世界の兎羽さんなんて……」
言いかけて、自分の頭にノイズが掛かる。なんだ? 頭が痛い。
思い出そうとすると、何かが頭の中でフラッシュバックする。
なんだこれ、記憶が混濁してる。頭痛のせいで思考回路もおかしくなりそうだ。
「ははは! プロテクトのおかげで思い出せないだろう? だがそろそろ真実を教えてやる頃合いか。どうしてお前がこの世界に居るのかを――」
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる