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第28話 もう一人の、転生者。
しおりを挟む開発者の一人? タカヒロが?
「――そう。ハイスクール・クライシスというゲームは、僕が大学生のときに友人たちと作ったゲームなんだ」
タカヒロは懐かしむように目を細め、どこか遠くを見つめていた。まるで昔の出来事を語るかのように。
わざわざこんな嘘を作ってまで言う必要はないと思うが……衝撃的過ぎて言葉が出てこない。
「っていっても、僕はただの発起人……言い出しっぺってだけなんだけどね。当時の僕はTRPGにハマっていてさ。それが転じて、大学を卒業する前にホンモノのゲームを作ろうぜって。プログラミングやシナリオ作りが得意な友達に無茶振りして、僕をモデルにゲームを作ってもらったんだ」
コイツ、若気の至りって怖いね~なんて軽く言っているが……。
「……それ、マジで言ってんのか?」
「あはは、やっぱりそう簡単には信じてもらえないよね。でも本当だよ。ほら、スマホで撮った写真とかもあるけど、見てみる?」
タカヒロがポケットから取り出したスマートフォンには、確かにゲームの画面が映っていた。
だがそれは、俺の記憶にあるものとは全く違うものだった。
「これは……」
「そう、マコっちゃんがプレイしていたものとは違うでしょ? 当時僕らが作ったものは、今で言うところのただのギャルゲーだったんだ。ひたすらイケメンの僕を美少女たちがチヤホヤしてくれるってシナリオの。だから、性描写やグロい描写は全部カットしてあるんだよ」
……つまり、あのクソみたいなバッドエンドも存在しないってことか。
だがどうして主人公たちが殺されるようなシナリオになっちまったんだ?
「本当はもっと色々話したいことはあるけれど。まずはこの苦しんでいるトワちゃんを助けないとだね」
タカヒロは床でいまだ蹲り続けているトワりんを見下ろしながら、そんなことを呟いた。
「そうだ! トワりんに何をしたんだ!? お前が黒幕じゃないのなら、トワりんに手を出す必要は無いはずだろ!!」
「手を出すって、僕は彼女の思考を少し弄っただけだよ」
「――なっ!? てめぇ何てことを!! この外道っ、クズ野郎!!」
「マコっちゃんだって同じことをしたでしょうに……」
うっ、それはそうだけど。アレは仕方がなかったというか。そもそもお前が死んだことを偽装しなきゃ、トワりんだって心が不安定にならなかったんだぞ。
俺が恨みがましい視線を送ると、タカヒロは頬を掻きながら口を開いた。
「アレも不可抗力だったんだって。それに僕がトワちゃんを洗脳したのだって、僕の味方になってもらわないと、この先で非常に危険で面倒な女になるだけで」
おい、面倒な女ってなんだよ。人の彼女の悪口言うとブチ殺すぞ。
「うーん、沙月ちゃん。スースースプレーを出してくれる? この場は取り合えず眠らせておこう」
「オッケー。はい、どうぞ」
「ありがとう……ゴメンね、トワちゃん」
沙月姉ちゃんは肩から掛けていたウサギの鞄から制汗剤サイズのスプレーを取り出し、タカヒロに手渡す。それをタカヒロがトワりんに向かって吹きかけると、彼女は一度だけビクッと痙攣してから床に崩れ落ちた。
「ふぅ、ひとまずはこれで大丈夫かな。マコっちゃんも安心したでしょ?」
「…………」
半ば発狂状態だったトワりんは、床で大人しくスヤスヤと寝息を立て始めている。
アレは俺も以前彼女に使ったことのある、危険性は無い睡眠導入スプレーだ。
……というか、俺が持っているのも沙月姉ちゃんから貰ったアイテムなのだから、安全なのは最初から分かっていたが。
「姉ちゃんもなんでコイツなんかと……」
しかし……なんつーか、コイツが黒幕だった方がよかったんじゃねぇかなぁ。目の前にいる男を消せばそれで終わりなんだし。ずっと裏でコソコソしていたのに、なんでタカヒロはこのタイミングで出てきたんだ?
いや、コイツはタカヒロであって、タカヒロはないんだっけ?
見た目はゲームのキャラであるタカヒロだけど、実際の中身は別人ってことなんだろ? いや、実際のモデルにしたって言うんだから、ほぼタカヒロなのか?
うぅん、状況がややこし過ぎるぞ。
「俺はもう何をどうすればいいのか、まったく分からなくなってきたぞ……」
今までずっとタカヒロ殺しの黒幕を追っていたのに、情報屋は殺されるわ、タカヒロが殺されていなかったで、現状はもうメチャクチャなのだ。
味方だと思っていた沙月姉ちゃんは何故かタカヒロと共謀してるし、トワりんは危険人物だって言われるし。
俺は誰を信じたらいいのか、まるで分からなくなっていた。
「あはは、混乱する気持ちも分かるよ。僕もこの世界に飛ばされたときは、何も信じられなかったもん。だけど今はマコっちゃんを信じるしかないんだ。だからマコっちゃんも僕を信じて!」
「あのなぁ……人のことをロープでグルグル巻きにしておいて良く言うぜ」
「それは不可抗力ってことで!」
タカヒロの緊張感のなさになんだか全身の力が抜けてしまった。ともかく俺たちを害するのはもう分かった。大人しく話を聞くのはここまでで良いだろう。
「……? マコっちゃん、何を……」
「――アイテム、起動」
俺は指先に仕込んでおいたアイテムを使用し、手首を拘束していたロープを切断した。
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