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第9話 ストーキングは、教師のたしなみ。
しおりを挟む「し、死ぬかと思った……」
「はぁ、はぁ……拙もまさかここまで追い込まれるとは思わなかったにゃ」
莉子の忍術でロッカーからの脱出を図った俺たちだったが、恐るべきことにトワりんは再び俺を探しに来ようとしていた。
そのまま校内を全力で逃げ続け、ドッペルゲンガーを駆使することでなんとか自宅までたどり着くことができた。プロの暗殺者である莉子を追い込むトワりんのストーキング技術、マジでおそるべし。
今は息を整えながら、リビングにあるソファーでぐったりとしている。
もう当分動きたくない……が、その前に。
俺は莉子と向かい合うようにして座ると、まず最初に疑問をぶつけることにした。
「ところで、どうして莉子は俺の家に上がっているんだ?」
考えてみれば、トワりんが追っているのは俺だ。
助けてもらっておいてなんだが、別に俺と一緒に逃げる必要はなかったんじゃないか?そう思って質問したのだが、彼女は何やら呆れたような表情でため息をついた。
「ちょっと御主人様、それ本気で言ってるのかにゃ……?」
「えっと……どういうことだ?」
「御主人様の困ってる顔が面白すぎるからだにゃ。情けなく鼻水垂らしながら逃げ惑う姿を思い出すだけで、拙はご飯三倍はイケるにゃ」
こ、こいつ……!!人が命の危機に晒されていたっていうのに、楽しんでたのか!? しかし彼女は俺が文句を言うより先に、さらに言葉を続けた。
「ま、半分は冗談にゃ」
「いや、半分は本気だったのかよ」
「御主人様の家の場所を確認しておきたかったのにゃ。そうすれば万が一、御主人様が狙われたときに拙が助けに向かえるからにゃ」
「莉子……お前、俺のことを心配して……!!」
どうやら彼女なりに、俺を助けてくれた理由があるようだ。まぁ、そこまでして俺のことを気にかけてくれる理由は分からないけど。
すると莉子は、真剣な眼差しで俺を見つめてきた。
何か大切なことを言おうとしているようだったが、その前にリビングのドアがガチャリと開かれた。
「あれー? マコトが女の子連れ込んでるー!!」
「ね、姉ちゃん!? どうして家にいるんだよ!!」
とつぜん現れたのは、俺の実姉である沙月姉ちゃんだった。
「なによ、アタシが自分の家に居たらいけないっていうのー?」
「そ、そんなことはないけど。このところ家に全然帰ってこなかったから、少し驚いたというか……」
「ん~、確かにここ最近は大事な実験が重なっていたからね。今日はたまたま休みがとれたから、家の様子を見にきたのよ」
くそっ。よりによってこんなときに帰ってくるとは、なんてタイミングの悪い……。
大手医薬品メーカーの研究所で働いている沙月姉ちゃんはいつも多忙で、月のほとんどを研究所で寝泊まりしている。加えて俺の両親は共働きをしているから夜が遅い。だからてっきりこの時間は、家に誰もいないと思ったのに。
俺はやや恨めし気に沙月姉ちゃんを睨む。だが姉ちゃんは俺を無視して、隣に座っている莉子を見てニヤッと口角を上げた。
なんだ……? 嫌な予感がするぞ。
そして次の瞬間、沙月姉ちゃんがとんでもないことを言い出した。
「それで、その子のお名前は?彼女さんなんでしょ?」
「……は?」
「へぇ~、マコトも隅に置けないわねぇ。ほら、お姉ちゃんに紹介しなさいよ!」
そう言って、姉ちゃんはソファーに座っている俺の横腹を肘でグリグリと押してきた。
や、止めてくれ! 今はそれどころじゃないんだって!! 俺はなんとか抵抗しようとするが、沙月姉ちゃんの力が強くて押し負けてしまう。
そしてそのまま、沙月姉ちゃんはぐいぐいと顔を近づけてくる。
「あ、あのっ、拙は御主人様に命を救っていただいた者で……えっと、莉子と申しますです」
莉子も慌てて自己紹介する。
しかし、姉ちゃんは莉子のことなんか見ていなかった。
莉子が挨拶を終えると同時に、姉ちゃんは俺の顔へと視線を向ける。
その瞳には、なぜか侮蔑の感情が滲んでいた。
「なんでそんなゴミを見るような……って待て。莉子、お前いま、俺のことを御主人様って言わなかったか!?」
「あっ、ごめんにゃ。つい普段の癖で……」
「おいバカ! 普段とか余計なことを言うな!」
この状況でさらに誤解を生むようなことを言うんじゃない!!
「へぇ……しばらく見ない間に、アタシの可愛い弟は随分と高尚なご趣味をお持ちになったようで」
「ち、違うんだよ姉ちゃん!!」
やばい、これ絶対勘違いされてる!! 別に変な意味の御主人様なんかじゃないんだって! ただ、ちょっと特殊な事情があって、それで仕方なくそう呼んでもらっているだけで……。
「誤解だ! これは莉子が勝手に言っているだけで、別に俺が望んでいるわけじゃなくてだな―――!!」
必死になって誤解を解こうとするが、姉ちゃんはまったく聞いていなかった。
「女に責任を押し付けるなんてサイテー。あとでお母さんたちに告げ口しとこっと」
「俺の人生終わったぁああ!!!」
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