上 下
15 / 30
第2章 慈悲深き瞳を持つ女

第15話 西門のガーディアン

しおりを挟む

「そうか、ラッグの村でそんなことが……」

 茶髪で無精ヒゲだらけのオッサン――もとい、この西門の門番長さんは悲痛な表情を浮かべながら、俺に向けていた剣を鞘に収めた。

 木剣を持ったボロボロの俺と自律して歩く可愛い(ここ重要)コボルト人形、そして口枷アンド亀甲縛り男(これはマリィがやった)が近寄ってくれば警戒するのも当然だ。

 しかし、事情を話すと彼はすぐに理解を示してくれた。


「先週の晩、西の空が赤く見えていたのはそういう理由だったんだな。すまねぇ、助けに行けなくて……」
「いえ、魔人がやってきたのは突然でしたし。グリッジさんは何も悪くないですよ」

 グリッジと名乗った門番長さんは申し訳なさそうな表情を浮かべた後、俺たちの後ろに目を向けた。

 そこには口を塞がれて身動きが取れなくなっているリゲルの姿があった。

 そのリゲルを見た途端、彼の表情が険しくなる。


「……そいつがこの嬢ちゃんを辱めた馬鹿か」
「はい……そうです」

 怒りを含んだ声で言う彼に俺は頷き返した。すると、隣に立つマリィも俺の腰に抱き着きながら口を開く。


「でもこうして私たちは生き残れたので、幸運だったんだと思います。それにこうして、小さい頃の夢だったフェンとの冒険もできたから!」
「マリィ……」

 満面の笑みで俺を見上げるマリィ。
 その笑顔はあまりにも眩しくて思わず見惚れてしまう。

 あぁ、やっぱり天使だこの子……俺も旅ができて嬉しいよ!


 俺がそんなことを考えていると、グリッジさんは小さな声で「若いって眩しいな……」と呟いていた。


「ともかく、魔人の件は俺の方から上に伝えとくよ。さすがにこの話は軍の方でしっかりと対応を考えないとヤバイ」

「ありがとうございます。助かります」

「気にすんなって。むしろ生きて情報を伝えてくれて助かった。礼を言うべきなのはこっちだよ……っと、そうだ忘れるところだったぜ」

 そう言うと、彼は懐に手を入れて一枚の紙切れとペンを取り出した。

 グリッジさんは手の平の中で何かを殴り書きすると、それを俺に差し出してくる。

「ほれ、これがお前たちの身分証だ」

「え? そんな簡単に貰っちゃっても良いんですか?」

「つっても、一回こっきりしか使えない仮の身分証だけどな。本来なら金を払って発行するところなんだが、今はそれどころじゃないだろ? 今回はこれで勘弁してくれ」

「あ、ありがとうございます!」

 正直に言うとお金はあんまりないので、すごく助かった。

 焼けた村から取ったお金もあるけれど、それはまた別のことに使う予定があるのだ。


 さっそく受け取った紙を見てみると、そこには手書きで俺の名前と年齢が書かれていた。

 年齢は言っていなかったし、おそらく鑑定スキルか何かで確認したのだろう。


「おっと、本命はその裏だぜ」
「裏? ――“ホットドッグ・ナイト”? なんですか、これ」
「この街にある風俗の名前だ」

 ……はい? ふうぞく??


「ちょっとグリッジさん!? フェンには可愛い奥さん(になる予定)の私がいるんだからねっ!?」

 横から覗き込んできたマリィがフサフサの犬耳まで真っ赤にして叫ぶ。

 奥さん……なんて素晴らしい響きなんだ……。


「この体じゃそういうことはできないけど……ひ、必要なら私がフェンの面倒……みるからね?」

 驚く俺を尻目に、彼女はとんでもないことを言い出した。

 だが当のグリッジさんはと言うと、困ったように頭をボリボリと掻いている。


「いや、話は最後まで聞けって。お前らもパルティアで開かれる豊穣祭のことは知ってるだろ?」
「え? あ、はい。豊穣神であるエルダー様に感謝を捧げるお祭り、ですよね?」
「私たちは行ったことないけど、すっごく盛り上がるらしいね!」

 俺たちがそう答えると、グリッジさんはそうだ、と頷いた。

 祭りは明日から行われる予定なのだが、現在は街のどこかしこも準備で慌ただしい状況なのだそうだ。


「巡礼者のみならず、旅人や商人で溢れかえるからな。宿はすでにどこも一杯なんだ」

 うげっ、それは大変だ。

 さすがにこれ以上、野営することになるのはキツい。そろそろちゃんとした屋内でゆっくりと休みたいし、体臭も気になるところだ。途中に会った川で水浴びはしたけれど、それも何日も前になる。

 人形になったとはいえ、マリィも女の子。汚いのは気になるだろうし。


「その紙に書いてある店は俺の妹がやってる店でな。俺の名前を出せば、特別に安く泊まらせてくれるはずだぜ」

 グリッジさんがくれた紙を見るとそこには簡単な地図と共に店の情報が書いてあった。どうやら繁華街の通りに面した場所のようだ。


「何からなにまで、ありがとうございます!」
「ふーん、おじさんって見た目の割に気遣い上手だったんだ……」

 さっきの意趣返しなのか、ボソッと失礼なことを言ったマリィをグリッジさんは横目で睨んだ。しかしそれも一瞬で、すぐに表情を緩めた。


「別に善意だけでやってるんじゃないぜ。おそらく後で軍の担当者がお前らに事情を聞きに行くだろうし、そのときに宿泊先が分かっていれば探す手間が省けるだろ。……それに俺はまだ三十代だぜ? おじさんじゃなくて、お兄さんと呼んでくれ」

 そう言って笑う彼の表情はどこか、悲しみが浮かんでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

♪イキイキさん ~インフィニットコメディー! ミラクルワールド!~ 〈初日 巳よっつの刻(10時30分頃)〉

神棚 望良(かみだな もちよし)
ファンタジー
「♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~」 「みんな、みんな~~~!今日(こお~~~~~~んにち~~~~~~わあ~~~~~~!」 「もしくは~~~、もしくは~~~、今晩(こお~~~~~~んばん~~~~~~わあ~~~~~~!」 「吾輩の名前は~~~~~~、モッチ~~~~~~!さすらいの~~~、駆け出しの~~~、一丁前の~~~、ネコさんだよ~~~~~~!」 「これから~~~、吾輩の物語が始まるよ~~~~~~!みんな、みんな~~~、仲良くしてね~~~~~~!」 「♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~ ♪吾輩(わあがはあい~)は~~~~~~ ♪一丁前(いっちょおうまええ)の~~~~~~ ♪ネコさんなんだもの~~~~~~」

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました

日向 葵
ファンタジー
 現代社会に現れる魔物、鬼を専門に退治する鬼狩りの家に生まれた鬼月諸刃は、家業を捨てて料理人になりたかった。  目的の鬼を倒してしまい、未練をなくした諸刃に鬼狩りを続ける意味はない。じっちゃんの説得を振り切り逃げ出した。  逃げ出した先にいたのは、幼馴染の飛鳥。両親が料理人で、彼女の両親の影響で料理人を目指すようになった。そんな彼女とたわいない日常会話をしながら、料理を教わりに彼女の家に向かう途中、謎の魔法陣が現れる。  が、一分ほどたっても一向に動かない。  待ちくたびれていたら突然はじき出されて落っこちた。  一人変な洞窟のような場所に転移させられた諸刃は、そこでのじゃのじゃ喋るロリ声の妖刀を拾う。 「よし、これで魚でも切るか」 『のじゃああああああああ、な、生臭いのじゃあああああああ』  鬼狩りという稼業から逃げ出した諸刃は、料理人になることが出来るのか。  そして、のじゃロリの包丁としての切れ味はいかに……。  カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

処理中です...