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5話/12話

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「い、いや。聖女だって言っても、裏で何をしているか分からないじゃないか。実は食い意地が張っていたり、金にがめつかったり……日中はグータラ寝てばかりかもしれないだろう。それに噂しか知らないんだし、実際に会ったら大したことが無くて、幻滅するかも――」

 いかに現実の聖女がイメージ通りの人間じゃないか、まくしたてるように説明する。

 だが途中まで言いかけたところで、それまで嬉しそうにしていたウォーレスの顔が急に無表情になった。


「聖女様に幻滅するなんてありえない。……絶対に」
「っ!?」

 彼の黄金色の瞳が、私を鋭く射抜く。まるで獲物を狙う獣のような目だ。

 私はその迫力に圧倒されて何も言えず、ただ黙って彼の瞳を見つめ返すことしかできなかった。

「いくらレイ殿でも、聖女様をそれ以上愚弄ぐろうすることは許さない」
「いや、別に彼女をけなしているわけでは……」
「貴殿にそのつもりがなくともだ。……彼女のことを何も知らないくせに」

 彼はそう言い切ると、席を立った。

「悪いが、今日は帰らせてもらう。……正直、今回のことは非常にショックだったよ」
「あ……」

 引き留める間も無かった。彼は私の顔を見ようともせず、さっさと酒場をあとにしてしまった。

 残された私は、彼の飲みかけのコップに視線を移す。

(……聖女様のこと、何も知らないか)

 私はカウンターにあった酒瓶を手に取り、そのまま口を付けて一気に飲み干した。むせるほどに濃いし、美味しくもない。それでも飲まずにはいられなかったのだ。

(私がその聖女様なんですけどぉぉおお!?)

 ずっとずっと胸の中に抑え込んでいた感情が爆発する。だけど表に出せるはずもなく。

 声にならない叫びは、酒場の喧騒にかき消されていった。

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