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「レイ殿、大丈夫ですか? ほら、起きてください」
「……うぅ~ん?」
名を呼ばれながら肩を揺すられた私は、ぼんやりとした意識を覚醒させる。
ランプの灯る薄暗い空間。ガヤガヤと騒がしい声に、アルコールと煙草の匂い。鈍っていた感覚がゆっくりと戻ってきた。
「あれ、ここはどこ……?」
「いつもの酒場ですよ。珍しいですね、貴方がここまで酔うなんて」
私が痛む額を押さえていると、目の前に水の入ったコップがスッと差し出された。
ありがたくそれを飲みながら辺りを見渡せば、ここは私が毎晩のように通っている酒場のカウンター席だった。
少しずつ状況を思い出していると、右隣に座る黒いローブ姿のイケメンが、心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「――っ!?」
「本当に大丈夫ですか? 熟れたトマトみたいに顔が真っ赤ですよ?」
「ち、近い! 顔が近いってばウォーレスさん!!」
目の前にあった顔を、反射的に手で押しのけた。
頭からローブを被っていても、この距離ではそのご尊顔もしっかりと見えてしまう。
びっくりするほどきめ細やかな肌で、それでいて目鼻立ちが整っていて。彼の顔はまるで精巧な人形か芸術品のようだった。
「ヒゲ面のオジサンが、なにを乙女みたいな反応をしてるんですか……俺の顔なんて毎晩この店で見慣れているでしょうに」
「いや、つい無意識で……」
「それに俺のことは『ウォーレス』と。ここでは呼び捨てにしてくださいって言ったじゃないですか」
ウォーレスは少し悲しそうな表情で、私の太い指の隙間からこちらを覗いている。
まるでエサを取り上げられて耳をションボリとさせる犬のようだ。可愛くて、そのまま頭をクシャクシャに撫でてしまいたい衝動に襲われる。
そんな気持ちを必死に抑えていると、辺りで彼を噂する声が聞こえてきた。
「……うぅ~ん?」
名を呼ばれながら肩を揺すられた私は、ぼんやりとした意識を覚醒させる。
ランプの灯る薄暗い空間。ガヤガヤと騒がしい声に、アルコールと煙草の匂い。鈍っていた感覚がゆっくりと戻ってきた。
「あれ、ここはどこ……?」
「いつもの酒場ですよ。珍しいですね、貴方がここまで酔うなんて」
私が痛む額を押さえていると、目の前に水の入ったコップがスッと差し出された。
ありがたくそれを飲みながら辺りを見渡せば、ここは私が毎晩のように通っている酒場のカウンター席だった。
少しずつ状況を思い出していると、右隣に座る黒いローブ姿のイケメンが、心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「――っ!?」
「本当に大丈夫ですか? 熟れたトマトみたいに顔が真っ赤ですよ?」
「ち、近い! 顔が近いってばウォーレスさん!!」
目の前にあった顔を、反射的に手で押しのけた。
頭からローブを被っていても、この距離ではそのご尊顔もしっかりと見えてしまう。
びっくりするほどきめ細やかな肌で、それでいて目鼻立ちが整っていて。彼の顔はまるで精巧な人形か芸術品のようだった。
「ヒゲ面のオジサンが、なにを乙女みたいな反応をしてるんですか……俺の顔なんて毎晩この店で見慣れているでしょうに」
「いや、つい無意識で……」
「それに俺のことは『ウォーレス』と。ここでは呼び捨てにしてくださいって言ったじゃないですか」
ウォーレスは少し悲しそうな表情で、私の太い指の隙間からこちらを覗いている。
まるでエサを取り上げられて耳をションボリとさせる犬のようだ。可愛くて、そのまま頭をクシャクシャに撫でてしまいたい衝動に襲われる。
そんな気持ちを必死に抑えていると、辺りで彼を噂する声が聞こえてきた。
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