上 下
1 / 12

1話/12話

しおりを挟む
「レイ殿、大丈夫ですか? ほら、起きてください」
「……うぅ~ん?」

 名を呼ばれながら肩を揺すられた私は、ぼんやりとした意識を覚醒させる。

 ランプのともる薄暗い空間。ガヤガヤと騒がしい声に、アルコールと煙草の匂い。にぶっていた感覚がゆっくりと戻ってきた。


「あれ、ここはどこ……?」
「いつもの酒場ですよ。珍しいですね、貴方がここまで酔うなんて」

 私が痛む額を押さえていると、目の前に水の入ったコップがスッと差し出された。

 ありがたくそれを飲みながら辺りを見渡せば、ここは私が毎晩のように通っている酒場のカウンター席だった。

 少しずつ状況を思い出していると、右隣に座る黒いローブ姿のイケメンが、心配そうに私の顔を覗き込んできた。


「――っ!?」
「本当に大丈夫ですか? 熟れたトマトみたいに顔が真っ赤ですよ?」
「ち、近い! 顔が近いってばウォーレスさん!!」

 目の前にあった顔を、反射的に手で押しのけた。
 頭からローブを被っていても、この距離ではそのご尊顔もしっかりと見えてしまう。

 びっくりするほどきめ細やかな肌で、それでいて目鼻立ちが整っていて。彼の顔はまるで精巧な人形か芸術品のようだった。


「ヒゲ面のオジサンが、なにを乙女みたいな反応をしてるんですか……俺の顔なんて毎晩この店で見慣れているでしょうに」
「いや、つい無意識で……」
「それに俺のことは『ウォーレス』と。ここでは呼び捨てにしてくださいって言ったじゃないですか」

 ウォーレスは少し悲しそうな表情で、私の太い指の隙間からこちらを覗いている。
 まるでエサを取り上げられて耳をションボリとさせる犬のようだ。可愛くて、そのまま頭をクシャクシャに撫でてしまいたい衝動に襲われる。

 そんな気持ちを必死に抑えていると、辺りで彼を噂する声が聞こえてきた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

腹黒聖女ですが、追放先で出逢った王子が尊過ぎて私が浄化されそうです。今更私が必要と言われたって、もう遅い。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「二度と俺にその面(つら)を見せるな」 瘴気を浄化する目的で派遣されていた聖女アイラ。 彼女はズキア王国のモーンド王子に見初められ婚約者とされていたがある日突然、婚約破棄をされてしまう。 理由は『浄化をしなかったから』。だがそれには正当な理由があった。 腹黒なアイラは内心で悪態を吐きながら母国へ帰ることに。 だが途中で立ち寄った国の王子に見つかってしまい、スカウトされる。 彼に対しても素直な態度をとれないアイラだが、何枚も上手な彼に徐々に絆されていき―― 表紙イラスト/ノーコピライトガール様より

【完結】「まずは……手前ぇよりも上位の存在に犯されて来い。話はそれからだ」

月白ヤトヒコ
ファンタジー
よその部署のヘルプという一仕事を終えて帰ろうとしたら、突然魔法陣が現れてどこぞの城へと『女神の化身』として召喚されたわたし。 すると、いきなり「お前が女神の化身か。まあまあの顔だな。お前をわたしの妻にしてやる。子を産ませてやることを光栄に思うがいい。今夜は初夜だ。この娘を磨き上げろ」とか傲慢な国王(顔は美形)に言われたので、城に火を付けて逃亡……したけど捕まった。 なにが不満だと聞かれたので、「まずは……手前ぇよりも上位の存在に犯されて来い。話はそれからだ」と言ってやりました。 誘拐召喚に怒ってないワケねぇだろっ!? さあ、手前ぇが体験してみろ! ※タイトルがアレでBLタグは一応付けていますが、ギャグみたいなものです。

婚約破棄された令嬢は変人公爵に嫁がされる ~新婚生活を嘲笑いにきた? 夫がかわゆすぎて今それどころじゃないんですが!!

杓子ねこ
恋愛
侯爵令嬢テオドシーネは、王太子の婚約者として花嫁修業に励んできた。 しかしその努力が裏目に出てしまい、王太子ピエトロに浮気され、浮気相手への嫌がらせを理由に婚約破棄された挙句、変人と名高いクイア公爵のもとへ嫁がされることに。 対面した当主シエルフィリードは馬のかぶりものをして、噂どおりの奇人……と思ったら、馬の下から出てきたのは超絶美少年? でもあなたかなり年上のはずですよね? 年下にしか見えませんが? どうして涙ぐんでるんですか? え、王太子殿下が新婚生活を嘲笑いにきた? 公爵様がかわゆすぎていまそれどころじゃないんですが!! 恋を知らなかった生真面目令嬢がきゅんきゅんしながら引きこもり公爵を育成するお話です。 本編11話+番外編。 ※「小説家になろう」でも掲載しています。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~

キョウキョウ
恋愛
ユリアンカは第一王子アーベルトに婚約破棄を告げられた。理由はイジメを行ったから。 事実を確認するためにユリアンカは質問を繰り返すが、イジメられたと証言するニアミーナの言葉だけ信じるアーベルト。 イジメは事実だとして、ユリアンカは捕まりそうになる どうやら、問答無用で処刑するつもりのようだ。 当然、ユリアンカは逃げ出す。そして彼女は、急いで創造主のもとへ向かった。 どうやら私は、婚約破棄を告げられたらしい。しかも、婚約相手の愛人をイジメていたそうだ。 そんな嘘で貶めようとしてくる彼ら。 報告を聞いた私は、王国から出ていくことに決めた。 こんな時のために用意しておいた天空の楽園を動かして、好き勝手に生きる。

私、パーティー追放されちゃいました

菜花
ファンタジー
異世界にふとしたはずみで来てしまった少女。幸いにもチート能力があったのでそれを頼りに拾ってもらった人達と働いていたら……。「調子に乗りやがって。お前といるの苦痛なんだよ」 カクヨムにも同じ話があります。

婚約破棄されることは事前に知っていました~悪役令嬢が選んだのは~

haaaaaaaaa
恋愛
伯爵令嬢のレイシャルは事前にある計画を知ることになる。それは、産まれた時から婚約者だったスザン王子から『婚約破棄』を言い渡されるということだった。 真面目なレイシャルは、愛がなくてもスザン王子と結婚することはこの国のためと信じていた。しかし、王子がその気ならば私もこの国を見捨て好きに生きてやるとレイシャルも新たな計画を立てることに・・・ ※のんびり更新中

処理中です...