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第6話 復讐に囚われた男
しおりを挟むクラリスの社交界での評価が急上昇するにつれ、彼女を取り巻く環境も変わっていった。
多くの貴族が彼女に注目し、新たな求婚者が現れる中、一人だけ、それを面白く思わない人物がいた。
――元婚約者、エドワード。
「なぜ王子はクラリス様をお捨てになったのだ?」
「見る目がなかったのでは……」
「彼の部下にはなりたくないものだな」
その悪評はたちまちに広がり、リリアーナの王子に対する言動にも変化が訪れた。
「殿下、わたくし他に好きな人ができましたの」
「……は?」
「可憐なわたくしには、やはりヴォルフ様のような、頼り甲斐のある殿方がお似合いですわ!」
そうして彼はあっさりと振られてしまった。
不敬の極みであるが、誰も彼に同情もしてくれなかった。
そしてそのヴォルフ・グランディール侯爵が、元婚約者であるクラリスに関心を寄せている様子を見たとき、エドワードの胸には嫉妬と怒りが渦巻いた。
その感情の矛先は――
「クラリス……すべてお前のせいだ」
ある日、クラリスが庭園でお茶を楽しんでいたとき、彼は静かにその場に現れた。
「エドワード……?」
クラリスは驚いたが、冷静に彼を見つめた。エドワードの目には焦燥と苛立ちが浮かんでいた。
婚約破棄をした瞬間は、クラリスが泣いてすがる姿を期待していたのに、現実はまるで違った。むしろ彼女は以前よりも輝きを増し、社交界の中心に立っていた。
そして、その隣には、ヴォルフ・グランディール侯爵がいる。
(なぜだ……俺ではなく、あんな男の隣に……)
嫉妬と焦燥が入り混じり、彼は思わず拳を握り締めた。
「俺を裏切ったお前が、なぜ笑顔でいられる?」
「……裏切ったのは貴方でしょう」
クラリスの毅然とした態度に、エドワードの表情が歪んだ。そして次の瞬間、彼は懐から短剣を取り出した。
「お前さえいなければ……!」
鋭い刃が振り下ろされる――その瞬間、クラリスは反射的に結婚情報誌を抱え込んだ。
「……!」
刃は紙を貫くことなく、硬い表紙に阻まれた。
「何……?」
エドワードが動揺した次の瞬間、彼の手を鋭く弾く音が響いた。
「……随分とつまらない真似をするな」
低く冷ややかな声。そこに立っていたのはヴォルフだった。
「ヴォルフ様……!」
クラリスは驚きと安堵の入り混じった表情を浮かべた。
「貴族の誇りを捨て、女性に刃を向けるとは……下劣な真似をする」
ヴォルフの声には怒気が滲んでいた。
彼の青い瞳は冷たく、鋭くエドワードを見据えていた。
まるで、一瞬でも彼が再び刃を振るえば、その場で終わらせると言わんばかりの視線だった。
次の瞬間、エドワードは衛兵に取り押さえられた。
「ぐっ、貴様……!」
「貴族社会において、このような行為は許されるべきではない」
ヴォルフは冷たく言い放ち、エドワードはそのまま連行されていった。
クラリスはゆっくりと息を整えた。
「……助かりましたわ」
「いや、止めるのが遅れてすまなかった。まさか王子がこんな愚かな真似をするとは……」
ヴォルフはそう言いながら、彼女の手元に視線を落とした。
「しかし、そんなもので身を守るとはな……」
クラリスが胸に抱えていたのは、傷ひとつない結婚情報誌だった。
「ふふふっ。私もまさか、この本に命まで救われるとは思いませんでしたわ」
「妙な本を持ち歩いていると思えば、役に立つものだな」
ヴォルフは呆れたように微笑んだ。
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