家族になる魔法 ~家を召喚できる世界で異端扱いされてきたけれど、偶然訪れた美少年と同棲することになりました~

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第11話 家に帰ろう

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「レーベン、貴方って……」

 ゆっくりと目蓋まぶたを開けると、そこには少しだけ雰囲気の変わった彼が優しい春の風のように微笑んでいた。

「ああ、ありがとうポルテ。ボクが何者か、キミのお陰で記憶が戻ったようだ」

 彼はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
 そこにはもう、盗賊たちが間近に迫っていた。

「へっ、なんだテメェ。大人しく捕まる気になったか?」
「安心しろよ、そっちのお嬢ちゃんも俺たちが責任をもって可愛がってやるからよぉ」

 レーベンはゆっくりと首を振る。
 顔はいつものにこやかな表情だけど、目が笑っていない。
 私も初めて見る顔だけど、あれはきっと相当なお怒りモードだ。

「悪いけど、久しぶりだから手加減が出来ないと思う」

「はぁ?」
「おい、良いからもうさっさと奪っちまおうぜ!」
「っしゃあ!! やっちまえ!!」

 盗賊たちは待ての出来ない獣のように、ギラリと光り輝く刀剣やナイフを持って一気に向かって来る。
 レーベンの挑発に簡単に乗ってしまったせいで、もはや捕まえるという最初の目的もすっかり忘れているようだ。


「レーベン、危ない!!」
「大丈夫。見てて……『ビルド構築せよ』」
「え……!?」

 レーベンは両手を盗賊たちに向かって突き出すと、起動呪文を唱えた。
 でも、彼には家魔法が使えないはず。
 なのに、私の目には驚くべき光景が映っていた。


「ぎゃああああっ!!」
「ひっ!? な、なんだこりゃあ!!」
「た、たっすけてくれぇ~!!」

 それはまるで、生きた大地だった。

 ――土が伸び、壁となる。
 ――川の水と合わさり、硬い石となる。
 ――その石が積み重なり、岩となる。

 盗賊たちはその土や石で、あっという間に身柄を拘束されていく。
 気付けばものの数分で、彼らは一人残らず山となった地面に埋もれて見えなくなってしまった。

 そう、これこそがレーベンの家魔法。
 というより、これはもはや別次元の魔法だった。

「大丈夫かい、ポルテ」
「う、うん……」

 呆然と立ち尽くしていた私を心配して駆け寄り、そっと抱きしめる。

 どうやら彼の家魔法は記憶と共に封印されていたらしい。
 そして彼の家は――

「貴方、この国の……いえ、この大陸の土地神様だったのね」
「そうだったみたいだね」

 レーベンは誤魔化すかのようにハハハ、と目尻の垂れた困り笑いを浮かべる。

 家族の誓いを交わした時、私にも彼の過去を断片的に見ることが出来た。
 この大陸は元々、彼が家魔法で作ったものだったのだ。

 どれほど莫大な力なのか……それこそ、神様のような途方もない力だ。
 家魔法で作られた大地に住み始めたイエ族たちは、レーベンの子どもらしい。
 だからその子孫である私たちも家魔法が使えるようになった。

 ……なんだぁ。
 私が『宿借りヤドカリ』って馬鹿にされてきたけど、みんな宿借りだったんじゃない。


「ボクはその後、子孫たちにこの地の管理を任せて王城の地下で眠りについた。それを盗賊たちが何処かで知ったのか、何故かお宝じゃなくてボクをさらおうとして……」
「きっとお宝の在り処を知っている人間か何かだと勘違いしたのね。まったくはた迷惑な……」

 でもそのお陰で私は彼と出逢えたんだから、ちょっとだけ感謝するけれど。


「おお~い、お前たち!! 無事だったか~!!」
「レーベン、大丈夫よ。彼は王都の門番さん。私が頼んで応援を呼んでもらっていたの」

 南門の門番さんが、衛兵を引き連れて駆けつけてきてくれた。
 もう全部終わっちゃったと話すと、さすがにどよめきが起こった。
 けれど実際に盗賊たちを見て、納得してくれたみたい。

「ご協力に感謝する。そのうち、城からも褒美が出るやもしれん……で、これは一体、誰が?」
「「分かりません、天変地異でも起きたのかもしれません」」

 二人揃って、白々しい嘘でしらばっくれる。
 周りの兵隊さんたちからはジト目で睨まれてしまうが、まさか「彼はこの国の持ち主なんです」なんて言えるわけがない。

「で、銀髪のキミは?」
「ああ、そいつは俺の弟だ」
「……あなた様が言うのなら詮索はしませんが、城にはしっかりと報告してくださいよ?」
「分かってる、任せておけ」

 私に向けてウインクをしながらそう答えたのは、あの門番さん。
 驚くことに、実はこの門番のオジ……お兄さんはお貴族様だった。
 なんでも代々門の管理を任されている、名門の一族らしい。
 家魔法が門と一緒になった家だったせいで、今はあの南門の管理を任されているんだって。

 だから門番さんは見た目以上に、かなりのお偉いさんだった。
 だけど私が彼と家族になったことを察して、この場は庇ってくれたみたい。
 やっぱり門番さんはいつも通り、良い人だった。

「後でちゃんと俺にも説明しろよ?」
「分かった。ありがとう、
「お兄ちゃん!? ……んんっ、しっかり頼むからな」
「ふふっ、了解です」

 兵隊さんがやる敬礼のポーズで答えると、門番さんはクククと笑いながら盗賊を引き摺って王都へと帰っていった。
 今回たくさんお世話になっちゃったから、落ち着いたらお菓子でも差し入れしてお礼をしよう。


「ポルテ……」
「さぁ、帰りましょう、レーベン。私たちのホームに」

 私たちは手を繋ぎ、一緒にお家へと帰る。
 帰る場所は何処だっていい。
 彼といる場所が、私の心のお家なのだから。



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