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第5話 姫の徒然なるままに
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王国歴834年 若葉の月 3日
今日から日記を再開することにします。
どうせまたすぐに書く内容が無くなると思うけれど……。
領主の妻として、日々の記録だけでもしておきましょう。
王国歴834年 若葉の月 4日
王城から転移してきて数日が経過した。
ようやく辺境での生活に落ち着きが出てきた感じがするわ。
それにしても……。
まさか自分が、城の外に出る日が来るなんてね。
慣れないことだらけで大変な反面、とても充実した日々を送れている気がする。
一緒に暮らす獣人の孤児たちは、とっても可愛い子ばかりだ。
姉ばかりだった私に妹ができたみたいで、つい色々としてあげたくなっちゃう。
あの人はあんまり甘やかすなって私に言うけれど、一番甘やかしているのは自分だって気が付いているのかしら?
王国歴834年 若葉の月 5日
あの人に魔王様のことを打ち明けた。
二人で川に居たときに、話の流れでポロっと出てしまったのだ。
ちょっとだけ恨みがましく「貴方に恩人の命を奪われた」と伝えてみると、彼は驚いた顔をしていた。
それが罪の意識から来るものなのか、それとも別の理由なのか……私には分からなかった。
でも少しだけ、私の心は軽くなったと思う。
もちろん許せたわけではないけれど、これからは堂々と恨むことができるから。
王国歴834年 若葉の月 8日
なぜか村に“温泉”ができた。
自然に湧き出るお風呂らしい。
いったいどうして突然そんなものが?
こうして書いている今も、訳が分からないわ。
でも実際に入ってみると気持ちが良かったし、あまり気にしないことにしよう。
王国歴834年 若葉の月 11日
今度は守護聖獣様が現れた。
おとぎ話に出てくるような、神様の御使いだ。
私も城にあった聖獣像でしか見たことがなかったけれど、実物はとても可愛らしい見た目だった。
本当にこの村はどうなっているの?
王城に住んでいたときは、あれだけ日記に書く内容に悩んでいたのに。
まだ一週間ちょっとしか経っていないのに、退屈だった頃が懐かしく感じるわ。
王国歴834年 若葉の月 16日
村の復興が本格的に始まった。
ようやく思い描いていたような“普通の”領地開拓ね。
魔王様以外に初めて魔族の人と会ったけれど、良い人ばかりだった。
本当に魔族と戦争をする必要があったのかしら。
お父様は魔王様をどうして敵視したの?
いろんな疑問ばかりが浮かんでくる。
あの人にそのことを軽く聞いてみたら、
「魔族も人族も関係ない。同族でも争うのが生き物だ」
「魔王と勇者の戦いは代理戦争だった。犠牲を少なくするために、二人が戦う必要があった」
なんて答えが返ってきた。
そんなの納得がいかないわ。多数を生かすために魔王様は殺されたの?
魔王様の代わりなんて、他に居ないのに。
つい感情的になってしまった私は、あの人に怒鳴ってしまった。
なのにあの人は、少し困ったように笑うだけだった。
王国歴834年 若葉の月 20日
肥料づくりをしていたら、あの人がウンチまみれになった。
ざまぁみろ。
そう思っていたら、私も肥料づくりを手伝うことになってしまった。
でもナバーナ村で出遭ったコッケは、小さくてフワフワで温かかった。
私もあんな可愛い子を飼ってみたいな。
……ウンチの処理は大変だけど、お世話なら頑張れると思うから。
王国歴834年 若葉の月 28日
守護聖獣様から加護をもらえた。
なんと私の魔法を強化してくれた。
ある程度の縛りはあるけれど、本当にすごいことだわ。
可愛いモフモフのマスコット……なんて思っちゃってごめんなさい。
そしてあの人は、配下との絆を深める加護を貰ったらしい。
あまり実感が得られないって言っていたけれど、その真価は驚くべきものだった。
彼の配下になったのは、何も私たち人間や動物だけじゃなかった。
植物や目に見えない小さな動物(あの人いわく“微生物”というらしい)も、加護の範囲に入っていた。
おかげで、本来なら数か月は掛かる堆肥の発酵も、半日で終わってしまった。
あの人は何をしてもトラブルを起こすから、一緒にいて本当に飽きない人だ。
今日は魔族領から持ってきたヘンテコな種を蒔くんだって、張り切っていた。
その植物もきっとおかしくなるんだろうな。
ちょっと不安だけど、今からどうなるのか楽しみだ。
王国歴834年 果果の月 14日
村に盗賊が襲ってきた。
善人を装っていた彼らは私たちを騙し、油断した隙を狙って村を乗っ取ろうとしたのだ。
そこで最初に狙われたのが私だった。
一番、無力だと思われたのだろう。
事実、私は動揺して反抗することができなかった。
そんなところへ、勇者が助けに来てくれた。
その姿はまるで、死んだはずの魔王様のようだった。
……いいえ、私はもう気付いていた。
分かっていて、見ない振りをしていたわ。
勇者の中身は、私が愛した魔王様だ。
――――――――――――……★
最終話の投稿は、本日17:20頃を予定しております。
今日から日記を再開することにします。
どうせまたすぐに書く内容が無くなると思うけれど……。
領主の妻として、日々の記録だけでもしておきましょう。
王国歴834年 若葉の月 4日
王城から転移してきて数日が経過した。
ようやく辺境での生活に落ち着きが出てきた感じがするわ。
それにしても……。
まさか自分が、城の外に出る日が来るなんてね。
慣れないことだらけで大変な反面、とても充実した日々を送れている気がする。
一緒に暮らす獣人の孤児たちは、とっても可愛い子ばかりだ。
姉ばかりだった私に妹ができたみたいで、つい色々としてあげたくなっちゃう。
あの人はあんまり甘やかすなって私に言うけれど、一番甘やかしているのは自分だって気が付いているのかしら?
王国歴834年 若葉の月 5日
あの人に魔王様のことを打ち明けた。
二人で川に居たときに、話の流れでポロっと出てしまったのだ。
ちょっとだけ恨みがましく「貴方に恩人の命を奪われた」と伝えてみると、彼は驚いた顔をしていた。
それが罪の意識から来るものなのか、それとも別の理由なのか……私には分からなかった。
でも少しだけ、私の心は軽くなったと思う。
もちろん許せたわけではないけれど、これからは堂々と恨むことができるから。
王国歴834年 若葉の月 8日
なぜか村に“温泉”ができた。
自然に湧き出るお風呂らしい。
いったいどうして突然そんなものが?
こうして書いている今も、訳が分からないわ。
でも実際に入ってみると気持ちが良かったし、あまり気にしないことにしよう。
王国歴834年 若葉の月 11日
今度は守護聖獣様が現れた。
おとぎ話に出てくるような、神様の御使いだ。
私も城にあった聖獣像でしか見たことがなかったけれど、実物はとても可愛らしい見た目だった。
本当にこの村はどうなっているの?
王城に住んでいたときは、あれだけ日記に書く内容に悩んでいたのに。
まだ一週間ちょっとしか経っていないのに、退屈だった頃が懐かしく感じるわ。
王国歴834年 若葉の月 16日
村の復興が本格的に始まった。
ようやく思い描いていたような“普通の”領地開拓ね。
魔王様以外に初めて魔族の人と会ったけれど、良い人ばかりだった。
本当に魔族と戦争をする必要があったのかしら。
お父様は魔王様をどうして敵視したの?
いろんな疑問ばかりが浮かんでくる。
あの人にそのことを軽く聞いてみたら、
「魔族も人族も関係ない。同族でも争うのが生き物だ」
「魔王と勇者の戦いは代理戦争だった。犠牲を少なくするために、二人が戦う必要があった」
なんて答えが返ってきた。
そんなの納得がいかないわ。多数を生かすために魔王様は殺されたの?
魔王様の代わりなんて、他に居ないのに。
つい感情的になってしまった私は、あの人に怒鳴ってしまった。
なのにあの人は、少し困ったように笑うだけだった。
王国歴834年 若葉の月 20日
肥料づくりをしていたら、あの人がウンチまみれになった。
ざまぁみろ。
そう思っていたら、私も肥料づくりを手伝うことになってしまった。
でもナバーナ村で出遭ったコッケは、小さくてフワフワで温かかった。
私もあんな可愛い子を飼ってみたいな。
……ウンチの処理は大変だけど、お世話なら頑張れると思うから。
王国歴834年 若葉の月 28日
守護聖獣様から加護をもらえた。
なんと私の魔法を強化してくれた。
ある程度の縛りはあるけれど、本当にすごいことだわ。
可愛いモフモフのマスコット……なんて思っちゃってごめんなさい。
そしてあの人は、配下との絆を深める加護を貰ったらしい。
あまり実感が得られないって言っていたけれど、その真価は驚くべきものだった。
彼の配下になったのは、何も私たち人間や動物だけじゃなかった。
植物や目に見えない小さな動物(あの人いわく“微生物”というらしい)も、加護の範囲に入っていた。
おかげで、本来なら数か月は掛かる堆肥の発酵も、半日で終わってしまった。
あの人は何をしてもトラブルを起こすから、一緒にいて本当に飽きない人だ。
今日は魔族領から持ってきたヘンテコな種を蒔くんだって、張り切っていた。
その植物もきっとおかしくなるんだろうな。
ちょっと不安だけど、今からどうなるのか楽しみだ。
王国歴834年 果果の月 14日
村に盗賊が襲ってきた。
善人を装っていた彼らは私たちを騙し、油断した隙を狙って村を乗っ取ろうとしたのだ。
そこで最初に狙われたのが私だった。
一番、無力だと思われたのだろう。
事実、私は動揺して反抗することができなかった。
そんなところへ、勇者が助けに来てくれた。
その姿はまるで、死んだはずの魔王様のようだった。
……いいえ、私はもう気付いていた。
分かっていて、見ない振りをしていたわ。
勇者の中身は、私が愛した魔王様だ。
――――――――――――……★
最終話の投稿は、本日17:20頃を予定しております。
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