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第3話 私が殺したい男

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「……どうして、私を妻に選んだのですか」

 貴賓室へ向かうと、勇者はソファーで寛いでいた。

 そのあまりにもリラックスした様子に苛立ちを覚えた私は、思わず彼にそんな不躾なことを訊ねてしまった。

 勇者と姫の結婚は、おとぎ話では良くある話だ。邪竜や魔王討伐の褒美に与えられる、みたいな。

 私たちをトロフィーか何かと勘違いしているのか? ――と怒りたくなる気持ちはさておき。この人が、どうして私を選んだのかが知りたかった。

 お姉様を始め、私よりも美しいご令嬢はたくさんいるはず。家柄のことだってそう。誰だって、石ころよりも金ぴかのトロフィーの方が嬉しいに決まっている。


「なんでそんなこと気にしてんの?」

 まるで気にした様子のない勇者は、あっけらかんとそう言った。

「見た目や出自? そんなん関係ないだろ、俺はあんたが良いって思ったんだし」

 出会ったばかりの私に、彼は脂肪でたるんだ顔を震わせながら笑いかけてきた。

 しかも「リディカ姫だって美人じゃん。ミレーユ姫とはまた違ったタイプの」なんて褒め殺しまでしてくる。


 ……正直、そこまで悪い気分はしなかった。私も別に、男性の見た目や貴族の位なんて、微塵も興味が無いから。そもそも魔王様は魔族だし、人族の感性で判断していない。

 でも褒められたところで、油断なんてするものですか。私の大事な人を殺めたことは、何があっても許さない。

 巷での勇者の評判は、最低最悪。魔物に襲われた子供を見捨ててその場を立ち去ったとか、味方ごと魔法で魔物を焼き尽くしたとか。

 目の前の男は、そんな人でなしなのだ。気を許せば私なんて、すぐボロボロにされて魔物のエサにされてしまうだろう。


(だけど……これはもしかしたら、神様が私に与えてくれた復讐のチャンスかもしれないわ)

 勇者の近くにいれば、非力な私でも彼を仕留める隙が生まれるかも。

 外道な存在をこの世から排除することを、この世では正義と呼ぶ。そうよ、勇者が魔王様に対してやったことと同じじゃない。


「……なんだか、以前に聞いていた貴方の印象とはだいぶ違いますね」

「そ、そうか?」

「えぇ。なんだか親しみ深いですし……仲良くなれそうで良かったです」

 そうと決まれば、まずは勇者のふところに入って油断を誘いましょう。人の少ない辺境の村に行けば、きっと機会は巡ってくるはず。

 天国で見ていてくださいね、魔王ウィルクス様。

 必ずや私が、貴方の仇を取ってみせますから。



―――――――――――――――――……★
【お知らせ】
次回の更新は、
9/27(水)12:20頃を予定しております。


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