【全6話】姉の身代わり婚。相手は、私の愛する人を殺した男でした。

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第2話 姉の本性

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「ふふふ。貴方にはお似合いの相手じゃないの、良かったわね」

「お姉様……」

 勇者の戦勝報告が終わり、私は勇者の物となった。

 初めて着るようなドレスを着させられ、彼に献上する準備をしていたところへミレーユ姉様が嬉しそうに笑いながらやって来た。


「あのクズ勇者も見る目があるわ。自分に相応な相手をキチンと選べるんだもの」

「……そうですね」

 まるで自分のことのように喜ぶミレーユ姉様に、私は力なく笑ってみせる。

 そんな私の態度が気に入らなかったのか、彼女は眉をひそめた。


「なによ……もっと喜んだらいいじゃない!」

 バシンッ!と頬を打たれる。

 突然の凶行に驚き唖然としていると、今度はお腹を思いきり蹴られた。胃の中まで抉り出されそうな衝撃に襲われて、私は床をのたうち回る。

 やがて口の中いっぱいに血の味が広がった。


「あんたみたいなただお父様の血を引くだけの女が、どうして私の城にいるの? 同じ王女というだけで、鳥肌が立ちそうだわ!」

 怒りに任せて私を足蹴にするミレーユ姉様。

 彼女の背後では、侍女がオロオロと所在なさげに佇んでいる。私は痛みで朦朧とする意識の中で、彼女が言った言葉を噛み締める。

(そっか……お姉様は妹であることさえ否定するほど、私のことを嫌いなのね)

 そう理解した瞬間、自分でも抑えきれないほどの悲しみが溢れ出した。


「私は……本当に、誰にも愛されないのですね」

「なによ急に。今さら分かったっていうの?」

 それはもはや八つ当たりだったのだろう。私が何も言い返す気がないことを示すと、ミレーユ姉様は最後にこう言い放った。

「いい気にならないでちょうだい! あんたなんか勇者に玩具のように弄ばれて、辺境の地で死ねばいいのよ!」

 そう、私はこれから、勇者と共に辺境の地へ行くことになる。

 魔族領と人族の国境にある村。魔物が跋扈し、いつ死ぬかも分からないほど危険な土地だ。



「あ、あの……」

「大丈夫です。身支度もこの程度でいいでしょう。私は勇者の待つ貴賓室へ向かいます」

 ミレーユ姉様が部屋から出ていったあと。

 遠慮がちに差し伸べてきた侍女の手を取らず、私は一人で立ち上がる。

 体に走る痛みなんて、心の痛みに比べたらなんてことはない。

 私はこれから、勇者の妻となる。だけど――


「たとえ勇者に体を許そうとも、私は、あの人を愛し続けるでしょう。それが私にできる、ささやかな反抗だとしても」

 ――それが私に残された、唯一の生きる意味だから。


「では、さようなら」

 短い別れの言葉を呟いて、私は部屋の扉へと向かう。その去り際に見えた侍女の顔には、暗い影が落ちているように思えた。



―――――――――――――――――……★
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