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第2話 姉の本性
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「ふふふ。貴方にはお似合いの相手じゃないの、良かったわね」
「お姉様……」
勇者の戦勝報告が終わり、私は勇者の物となった。
初めて着るようなドレスを着させられ、彼に献上する準備をしていたところへミレーユ姉様が嬉しそうに笑いながらやって来た。
「あのクズ勇者も見る目があるわ。自分に相応な相手をキチンと選べるんだもの」
「……そうですね」
まるで自分のことのように喜ぶミレーユ姉様に、私は力なく笑ってみせる。
そんな私の態度が気に入らなかったのか、彼女は眉をひそめた。
「なによ……もっと喜んだらいいじゃない!」
バシンッ!と頬を打たれる。
突然の凶行に驚き唖然としていると、今度はお腹を思いきり蹴られた。胃の中まで抉り出されそうな衝撃に襲われて、私は床をのたうち回る。
やがて口の中いっぱいに血の味が広がった。
「あんたみたいなただお父様の血を引くだけの女が、どうして私の城にいるの? 同じ王女というだけで、鳥肌が立ちそうだわ!」
怒りに任せて私を足蹴にするミレーユ姉様。
彼女の背後では、侍女がオロオロと所在なさげに佇んでいる。私は痛みで朦朧とする意識の中で、彼女が言った言葉を噛み締める。
(そっか……お姉様は妹であることさえ否定するほど、私のことを嫌いなのね)
そう理解した瞬間、自分でも抑えきれないほどの悲しみが溢れ出した。
「私は……本当に、誰にも愛されないのですね」
「なによ急に。今さら分かったっていうの?」
それはもはや八つ当たりだったのだろう。私が何も言い返す気がないことを示すと、ミレーユ姉様は最後にこう言い放った。
「いい気にならないでちょうだい! あんたなんか勇者に玩具のように弄ばれて、辺境の地で死ねばいいのよ!」
そう、私はこれから、勇者と共に辺境の地へ行くことになる。
魔族領と人族の国境にある村。魔物が跋扈し、いつ死ぬかも分からないほど危険な土地だ。
「あ、あの……」
「大丈夫です。身支度もこの程度でいいでしょう。私は勇者の待つ貴賓室へ向かいます」
ミレーユ姉様が部屋から出ていったあと。
遠慮がちに差し伸べてきた侍女の手を取らず、私は一人で立ち上がる。
体に走る痛みなんて、心の痛みに比べたらなんてことはない。
私はこれから、勇者の妻となる。だけど――
「たとえ勇者に体を許そうとも、私は、あの人を愛し続けるでしょう。それが私にできる、ささやかな反抗だとしても」
――それが私に残された、唯一の生きる意味だから。
「では、さようなら」
短い別れの言葉を呟いて、私は部屋の扉へと向かう。その去り際に見えた侍女の顔には、暗い影が落ちているように思えた。
―――――――――――――――――……★
【お知らせ】
次回の更新は、
9/27(水)7:20頃を予定しております。
「お姉様……」
勇者の戦勝報告が終わり、私は勇者の物となった。
初めて着るようなドレスを着させられ、彼に献上する準備をしていたところへミレーユ姉様が嬉しそうに笑いながらやって来た。
「あのクズ勇者も見る目があるわ。自分に相応な相手をキチンと選べるんだもの」
「……そうですね」
まるで自分のことのように喜ぶミレーユ姉様に、私は力なく笑ってみせる。
そんな私の態度が気に入らなかったのか、彼女は眉をひそめた。
「なによ……もっと喜んだらいいじゃない!」
バシンッ!と頬を打たれる。
突然の凶行に驚き唖然としていると、今度はお腹を思いきり蹴られた。胃の中まで抉り出されそうな衝撃に襲われて、私は床をのたうち回る。
やがて口の中いっぱいに血の味が広がった。
「あんたみたいなただお父様の血を引くだけの女が、どうして私の城にいるの? 同じ王女というだけで、鳥肌が立ちそうだわ!」
怒りに任せて私を足蹴にするミレーユ姉様。
彼女の背後では、侍女がオロオロと所在なさげに佇んでいる。私は痛みで朦朧とする意識の中で、彼女が言った言葉を噛み締める。
(そっか……お姉様は妹であることさえ否定するほど、私のことを嫌いなのね)
そう理解した瞬間、自分でも抑えきれないほどの悲しみが溢れ出した。
「私は……本当に、誰にも愛されないのですね」
「なによ急に。今さら分かったっていうの?」
それはもはや八つ当たりだったのだろう。私が何も言い返す気がないことを示すと、ミレーユ姉様は最後にこう言い放った。
「いい気にならないでちょうだい! あんたなんか勇者に玩具のように弄ばれて、辺境の地で死ねばいいのよ!」
そう、私はこれから、勇者と共に辺境の地へ行くことになる。
魔族領と人族の国境にある村。魔物が跋扈し、いつ死ぬかも分からないほど危険な土地だ。
「あ、あの……」
「大丈夫です。身支度もこの程度でいいでしょう。私は勇者の待つ貴賓室へ向かいます」
ミレーユ姉様が部屋から出ていったあと。
遠慮がちに差し伸べてきた侍女の手を取らず、私は一人で立ち上がる。
体に走る痛みなんて、心の痛みに比べたらなんてことはない。
私はこれから、勇者の妻となる。だけど――
「たとえ勇者に体を許そうとも、私は、あの人を愛し続けるでしょう。それが私にできる、ささやかな反抗だとしても」
――それが私に残された、唯一の生きる意味だから。
「では、さようなら」
短い別れの言葉を呟いて、私は部屋の扉へと向かう。その去り際に見えた侍女の顔には、暗い影が落ちているように思えた。
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