旦那の元嫁と同居することになりまして

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第5話 弁解と和解

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 どうにも話が嚙み合わない。
 冗談抜きで慌てふためく私の様子をおかしいと思ったのか、サシャの顔がみるみるとけわしくなっていく。


「あんっの、無頓着男! まさか本人にひと言も伝えていなかったのかい!」
「え? さ、サシャさん?」
「エミリーは栽培したハーブでお店を開くのが夢だから、アタシに協力しろって。店を開くために、新しい家も買う予定だって言ってたよ!?」
「えぇぇええぇえええ!?」

 どうしよう。そんなこと、一切聞いていない。

 たしかに夢物語というか、そういうことをしてみたいな~、なんてことを言った覚えはあるけれど……。

 そんなことを考えているうちに、サシャは魔法で使い魔を呼び出して、クロードの元へ飛ばしていた。


『ん? アレはサシャの使い魔……どうしてここに?』
「ちょっとクロード! エミリーになんっにも伝えていないじゃないのよ! 大事な話は事前にしろって昔から言ってるのに、アンタって人はもう!」
『うぇ? あ、いや。時機を見てじっくり話そうかと……!?』
「言い訳しない!」

 サシャに叱られて、シュンと肩を落とすクロード。

 今の彼は、まるで叱られた犬のようだ。ちょっと可愛いかも……って、いやいや! そんなことを考えている場合じゃない!


「あの、クロード? お店を始めるって本当なの?」
『あぁ。やっぱり家で閉じ籠っているより、好きなことをしているエミリーの方が生き生きとしているからさ。それに……」
「それに?」
『ほら、今の家だと結構手狭だろう? もし家族が増えたときのことを考えたら、広い家に引っ越した方が良いかなって、お金を貯めていたんだ』

 ちょ、ちょっと待ってよ。
 それってもしかして、クロードは赤ちゃんがほしいってこと!?

 隣では、サシャが満面の笑みを浮かべている。
 もう! 恥ずかしいったらありゃしない。


「だったら、もっと夫婦で話し合いをしなさいよ。アンタだけの問題じゃないでしょうに」
『重ね重ね、申し訳ない……』

 どうやらクロードは、私のために色々と準備を進めてくれていたようだ。

 今回の遠征も、そのひとつ。以降は私のそばにいつもいれるように、配属を変えてもらうためのものだったそう。

 本来は帰った後にキチンと話すつもりだったのだけれど、サシャが協力してくれると聞いて、つい先走ってしまったみたい。


『ごめんなエミリー。迷惑掛けちゃったよな……』
「ううん。驚いたけれど、気持ちはとても嬉しいわ。ありがとう、クロード」

 サシャの使い魔越しに、私たち夫婦のわだかまりは解消された。

 するとサシャは「じゃあ、アタシは荷解にほどきしてくるから」と言い残し、そそくさとその場を後にする。どうやら気を使ってくれたらしい。


(ふふっ……)

 なんだか可笑しくなってしまって、クスリと笑ってしまった。
 未だにしょんぼりしている旦那様に目を向けると、彼も私に気が付いたみたい。目をパチクリさせているけれど、その表情が可愛らしくてついついニマニマしてしまうなぁ……おっといけない!

『エミリー? なんで笑って……』
「んふふ~! これから忙しくなりそうで、楽しみだなぁって!」
『忙しくて、楽しい?』
「そうよ。だから早く帰ってきてね、クロード」

 私がそう言うと、クロードが少し照れた表情で「分かった」と頷いた。

 どうやら周りの同僚たちに会話を聞かれていたらしく、「幸せ者め」と冷やかされたみたい。そんな照れ屋な旦那様を愛しく思いつつ、通信を終えた。



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