旦那の元嫁と同居することになりまして

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第4話 私の知らない夫

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 キスをしていない? キスって口付け、接吻……つまりはそういう行為よね?

 訳が分からず、頭がフリーズしてしまった。


「サシャさんたちは夫婦、だったんですよね……?」
「口調が元に戻っているよエミリー。そうだよ。だけどアレはなんていうか……仮初かりそめの夫婦? まぁ言い方は悪いけど、互いに好きとかそういった感情は無かったのさ」

 私が用意した香草入りクッキーに手を付けながら、サシャはあっけらかんと言った。ポロポロとこぼれ落ちる粉を見つめながら、私は首を傾げる。

 謎は深まるばかり。じゃあ、どうして夫婦になったの?


「アイツとアタシは、同じ街で生まれ育った幼馴染でね。小さいころは、よく一緒に遊んでいたものさ」
「お二人が……幼馴染……」

 そういえば私と違って、クロードは別の街出身だ。彼はあんまり自分のことを喋らないから、小さい頃の話って全然知らなかったな……。


「ほら、ガキの頃って友人同士で約束をするもんだろう? 互いに大人になったら結婚しようね、とか。そんなオママゴトの延長みたいなのがあってね」
「ってことは、その約束を果たしたってことですか?」
「そうそう。クロードも律儀な男だからさ、十年以上も昔の約束をしっかり覚えていたんだよ。まったく、愚直すぎるよねぇ」

 サシャは当時、夢を叶えたばかりの新人商人だった。駆け出しで女性だったこともあり、商売相手に信用してもらうのが難しかったそうだ。

「アタシも焦っていたんだろうねぇ。それを見かねたのか、クロードが声を掛けてきてね。自分を利用してくれって。ふふっ、そんなプロポーズの仕方があるかい? ロマンも何もあったもんじゃないよ」
「……なんだか、クロードらしいですね」

 そんな頃から、女心をガン無視した言動をしていたのね、貴方……。


「とまぁ、その話に有難く乗らせてもらったってワケ。でもねぇ、やっぱり互いにすれ違ったっていうか……やっぱり友人以上の関係にはなれなかったんだよ」

 少し気まずそうに、カップの中を覗き込むサシャ。ミントグリーンの水面には、彼女の違った表情が見えた気がした。


「で、綺麗サッパリ別れてからは別々の道を歩んでいたってワケ。どう、安心した?」
「……そう、ですね」

 最初は心配だったけれど、今はちょっと嬉しいというか。自分の知らなかった旦那様のエピソードを聞けて、なんだか新鮮な気持ちだ。

 私があからさまにホッとした表情になったのを見て、サシャも眉を下げて微笑んでいた。


「今後は程良い距離間の友人っていうか、ビジネスパートナーだね。むしろクロードよりも、エミリーとの付き合いが長くなるだろうし。今後とも頼むよ」
「そうですか、こちらこそよろしくお願いし――うん? ビジネス?」

 どっからビジネスって単語が出てきた?
 今までの話に、そんな流れなんてありましたっけ?

「あはは、何をすっとぼけているんだい。今度の商売は、エミリーが中心になるんだろう?」
「う、うん? 待ってください、いったい何の話ですか?」



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