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第12話 奇声を上げる男
しおりを挟む「さて、これ以上大ごとになる前に、我々は引き上げるとするか」
すっかり銀狼と仲良くなったエステルが、うーんと背伸びをしながらそう言った。
「おう……とはいえ、今後はどうするんだ? 親父さんの呪いを解くカギだったヒキョンは死んじまったし……」
銀狼の頭を撫でて慰めながら、床に転がるヒキョンを見下ろす。唯一の手掛かりがこうなってしまっては、聞き出すこともできない。
まぁあの卑怯者のことだ。嘘でエステルを釣りだすのが目的で、どうせ初めから情報なんて持っていなかったんだろうけど。
だがふふん、と不敵な笑みを浮かべたエステル。なんだ、なにか当てでもあるのか?
「安心しろ。私の父を助ける方法はすでに見付けた」
「えっ!? それは本当なのか!?」
いつの間に!? ってまさか、最初から知っていたとか言わないよな。
「あぁ。私には頼れる魔術師殿がいるからな」
そう言ってエステルはニッコリと微笑んだ。
おいおい、なんだよ。そんな奴がいたんなら、俺なんかに頼らずにソイツへ助力を頼めばよかったじゃねぇか。
「……って、」
「隷属魔法を打ち破り、銀狼を手懐けるほどの男。実力はS級ながら、どういうわけか質素な生活を送る賢者……ふふっ、これが運命の出逢いというやつか……」
エステルは神に祈るようなポーズになると、どこか夢見る乙女ような表情で俺のことを見つめた。
おいおい。まさかその賢者って、俺のことじゃないだろうな?
「エステルは何か重大な勘違いをしているようだ。俺はビビる度にションベンを漏らすような、情けない男なんだぞ?」
「ふふ、照れなくてもいい。私には分かっているぞ? ガイ殿の瞳の奥には、どんな難敵でも打ち倒す情熱の炎が燃え上がっている……さぁ、私と共に困難の道を歩んでいこうじゃないか」
エステルがそっと俺の手を握った。そしてそのまま俺の手を自分の胸へと導いた。柔らかい感触が手のひらに広がる。
やめて……良い雰囲気にして断りづらくするの、ホントやめて……
「何よりガイ殿は私との約束を守り、命懸けで私を助けてくれた。その寛大な心で、次は私の父上を救ってくれ」
「いやでも……」
「お願いだ、私の御主人様……」
「し、仕方がないなぁ!?」
助ける方法なんてぜんっぜん分からないけどな!
だけど不思議と何とかなる気が湧いてくる。
「ははは、さすがガイ殿。それじゃ早速、私の父上に会ってもらおうか。呪いが解けたら、そのまま私との婚姻だ!」
「ちょ、ちょっと待て!! 婚姻って早すぎないかな!?」
慌ててエステルから離れようとするが、彼女はガッシリと掴んで離さない。
『わふわふっ!』
「助けてくれ銀狼~!!」
結局この後、俺たちは銀狼に乗って王都へ向かうことになった。
「エステルが公爵令嬢!? あびゃばぱrひcちおん……」
エステルの実家だと言う豪華な屋敷へと連れていかれた俺は、そこでエステルが公爵令嬢だということを初めて知ることになる。
しかも彼女は俺が伝説の賢者だと紹介してしまったせいで、俺は発狂。大惨事となった。
だがそのお陰なのか、なぜか公爵に掛けられた呪いが綺麗サッパリ無くなってしまった。
その結果、エステルの言う通り、俺は彼女の伴侶となることに(有無を言わさず)決定。銀狼もなぜか俺たちと一緒に住むことになった。
こうしてスラム生活だった俺の日常は、奇声を上げているうちに様変わりしてしまった。
――だがそんな生活も、悪くはない。
「旦那様、ドラゴンがそっちにいったぞ!」
『わふわふっ!!』
「ぎゃあぁあはえxplじょnlk神skさh……!!」
――ぱぁん
元聖騎士の美女と獰猛な銀狼、そして奇声を上げる謎の魔術師という異色の三人組が、前人未到の最上級ダンジョンを踏破することになるのだが……それはまた、別のお話。
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