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第9話 もっふもふにしてやるよ
しおりを挟む「ガイ殿、貴殿は何を……」
「あ、いや。間違えた!! エステルじゃなくて、やるなら俺をやれ!!」
「いや、最初からお前のことしか言ってねぇよ?」
その言葉通り、俺の身体は奴の手下によって椅子のある場所まで運ばれていく。
途中でエステルと目が合った。彼女の瞳からは、可哀想なモノを見るような憐みの感情を感じた。
「へへ、よく見ればお前も可愛い顔をしてるじゃねぇか……」
「へっ!?」
「殺したあとに、顔だけ標本にしてみるのもアリだな。その怯え切った口に、俺のブツをぶちこんでやるぜ……」
ヒキョンは俺の顎をクイっと上げると、ペロリと舌なめずりをした。
うわぁ……この男、マジもんの変態だ……。
エステルもヒキョンの言動に本気で引いている。さすがにもう、ヒキョンの嫁になっても良いなんて言わないだろう。
「おい、テシィ。コイツを裸にひん剥け」
「はい」
「ああっ、おい!? 何をする! やめろっ、変な所に手を入れるな!!」
「お、お前らっ! ガイ殿を離せ!!」
俺と一緒にエステルも抗議してくれたが、ヒキョンは聞く耳をまるで持たない。
あっという間に俺は服を脱がされ、部屋の中央に用意された椅子へ括りつけられた。
「クク、さぁショーの始まりだ」
そう言って、ヒキョンは自分の椅子へと戻っていく。
クソ、こんな奴のせいで俺のお口の貞操が……許せねぇ!!
椅子の上でジタバタと抵抗していると、先ほど部屋の外へ出ていったヒキョンの手下が戻って来た。
「支部長、連れてきました」
「おう。ソイツも丁度、腹を空かせていたみたいだな」
『――ガルルルッ!!』
手下が連れてきたのは、人の身長ほどの体高を持つ巨大な犬だった。首元には分厚い金属製の首輪をつけられ、そこからゴツい鎖が手下の手まで繋がっている。
「なんだアレは……モンスターか!?」
「……いや、あの長い銀色の体毛は精霊獣の銀狼かもしれない」
外見は犬型のモンスターで、エステルが勘違いするのも当然だ。だが銀狼は精霊に近い存在とされていて、モンスターよりも気性が荒く、遥かに強い。今も銀狼は鋭い牙をむき出しにし、グルルと喉を鳴らしながら俺たちを食い殺さんとばかりに威嚇していた。
「ひぃっ!」
俺の隣にいたエステルが小さく悲鳴を上げる。もしかして犬が怖いんだろうか?
ヒキョンは威勢の良い銀狼を自身の近くに呼びつけ、愉快そうな表情を浮かべた。
「どうだ? なかなか強そうだろ?」
恐ろしい見た目をしている銀狼を、ヒキョンはまるで犬のように撫でた。フワフワの銀毛は肌触りが良さそうだが、命を捨ててまで触ろうとは思えない。
コイツ、精霊である銀狼まで隷属できるのか!?
「ククッ、ビビっちまって声も出ないか? いやぁ、その顔が見れただけでも高い金で買った甲斐があったぜ」
ヒキョンは口をパクパクとさせている俺たちを煽るように言葉を続けた。
この銀狼を使って何をするつもりなんだ!? ま、まさか――!?
「まぁ、いい。テシーダ、そいつに餌をやってやれ」
「はい」
おいおいおい、待て待て待て!?
この部屋にいる中で、食べ物を持っている人間はいない。つまり餌っていうのは――
『ガルルルッ!!』
「や、やめろ! 来るな!! 俺を食べたって美味くないぞっ!! た、助けてっ」
俺の叫びとは逆に、俺の方へ駆け寄ってくる銀狼。
駄目だ、完全に俺のことを狙ってやがる。このままでは、俺の命は風前の灯だ。
「ガイ殿から離れよ! 下郎がっ!!」
「ぐえぇっ!?」
エステルの制止の声も空しく、勢いよく飛びついてきた。
「ガイ殿ぉー!!」
「ひ、ひいいっ!!」
「おい、銀狼。頭は俺様が使うから食うのは身体だけにしろよ? ははっ」
そのまま俺はそのまま椅子ごと倒れた。その拍子に銀郎の爪が拘束していた縄を切り裂き、手足が自由になった。
だが逃げ出す前に、銀狼はそのまま俺の身体の上に馬乗りになった。
「ぎゃあああ!! やめr異lえ亜sぁああ!!」
「ガイ殿! しっかりするのだ、ガイ殿!!」
必死に叫ぶエステル。だが俺に返事をする余裕はない。
銀狼は俺の身体を貪ろうと、大きな口を開けて襲い掛かってきて――あれ?
今にも鋭い牙が俺の頭を噛み千切ろうとした瞬間、銀狼の瞳に知性が宿った。
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