奴隷にされた美人聖騎士を助けたら、なぜか落ちこぼれ魔術師から賢者(笑)に成り上がっちゃいました~俺の奇声はルール無用のチート呪文~

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第6話 それぞれのプライド

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「……あの時、首輪のようなものが嵌められた感覚があった」

 そう言って自分の首元を指差すエステル。そこには鎖の首輪に似た刺青が浮かび上がっていた。


「間違いない、それは隷属されたことを証明する隷属紋だ」

 ……ヒキョンの野郎、とんでもないことをやりやがったな。禁忌魔法を使ったことが表沙汰になったら、簡単に首が飛ぶんだぞ!? しかも隷属紋が残ってるってことは、効果は継続しているってことだ。俺が金を払って解放させた意味が無いじゃねぇか!


「クソッ、なにが『後で借りを返す』だ。アイツが去り際に言っていたのは、こういうことだったのかよ……」

 道理でアッサリと引き上げたわけだ。あの野郎、最初からすぐにエステルを回収するつもりだったな!?


「おかげで鎧と同等に大切な剣をヒキョンに奪われてしまった。こんな状況では王都に帰還することもできぬ」
「あぁ、剣と鎧は陛下から貰った騎士の誇りだもんな。しかしそれらは奪い返せばいいが、隷属魔法はなぁ……」

 人の自由を奪う凶悪な魔法だ。掛けるのも解除するのも難しく、本来ならもっと手順を踏んで行われるはずなんだが……おそらく、それまでのやり取りの中に何かが仕込まれていたな。


「……む? そういえばガイ殿はやけに魔術に詳しいようだが、もしかして魔術師なのか?」
「え? あ、あぁ。まあな……」

 曖昧あいまいに頷くと、エステルは目を丸くした。まぁたしかに、俺の見た目は薄汚い浮浪者だ。世の中の魔術師は、もっとちゃんとした身なりをしているだろうしな。


「それよりも、その魔法を解除しないとだよな……」

 問題はその解除方法だ。ヒキョンの目の届かない場所まで逃げればいいという話でもないし、隷属紋が首にある限り、エステルは王都に帰れないだろう。

 俺が腕を組みながら悩んでいる一方で、エステルは首を横に振った。


「いや、ガイ殿はもう私と関わらない方が良い」
「え……?」
「さすがにこれ以上、貴殿に迷惑を掛けられぬ。礼の方はあとで私の家の者から届けるよう、手筈を整えておくのでな。ガイ殿は安心して日常に戻られよ」

 おいおいおい、ちょっと待て。いくらなんでも、それはないだろう。

 俺は帰ろうとするエステルの腕を掴むと、強引にこちらを振り向かせた。


「おい、ふざけんなよ。ここまで話を聞いておいてハイさよならって、そりゃねぇだろうが!」
「しかし、この先は本当に命の危険があるんだ! 出逢ったばかりの善人を私情で巻き込むわけにはいかないっ!」

 あぁ、そうか。そうだよな。
 騎士ってのは、そういう真面目ちゃんばかりだもんな!

 お前がそういうつもりなら、俺は冒険者らしくいかせてもらうぜ!?


「俺がお前を助けたいのには理由がある! お前が美人だからだ!!
「……はっ? び、美人??」
「あぁ、そうだ。美人を助けて、あわよくば恋人にしたい! どうだ、不純で馬鹿な理由だろ!?」

 あまりにも予想外だったのか、エステルは口を開けて間抜けな顔になっている。せっかくの美人が台無しだ。

 へへ、その顔が見れただけでも啖呵を切った甲斐があったぜ。


「それに危険だからって、一度助けた女を手放せだって? 日々を命懸けで暮らしている冒険者を舐めるんじゃないぜ」

 呆然とするエステルを前に、俺は顔を真っ赤にしながら捲し立てるように言葉を続ける。

 分かってる。本当はすぐに漏らすような超絶ビビりだし、人助けをするような柄じゃないってことは。

 だけど、憧れの聖騎士が目の前で困っているんだぜ? エステルがとびっきりの美人ということを差し置いても、どうにか助けてやりたいって思うのが男ってモンだ。


「それに俺だって、アイツに大金を騙し取られたんだ。このまま黙って引き下がるわけにもいかないだろう?」
「そ、それはそうなのだが……私のために命を懸けるなど……」

 はぁ、やっぱりコイツはポンコツだな。自分の価値をまるで理解していない。

 俺はエステルの両肩に手を置くと、じっとその瞳を見つめた。


「なぁエステル。お前は自分が思っている以上に魅力的な女性なんだよ。まずはそれを自覚しろ」
「な……ななな……何を言っているんだ貴殿は!?」

 顔を真っ赤にして狼狽うろたえる彼女を見て、俺は確信する。聖騎士だとなんだといって、中身は年頃の少女なのだ。彼女の魅力に気付いていないのは本人だけ。


「安心しろ、俺は冒険者だ。依頼さえあれば、報酬次第でどんな危険な仕事だって引き受けてやるさ。……どうせこんな状況じゃ、他に頼れる人も、行く当ても無いんだろう?」
「うぐ……たしかにそうだが……」

 エステルは言い淀んだ。やっぱり独りで無茶しようとしていたな。

 初対面でも分かるほどに不器用な性格なんだ。普段から誰にも頼らず、なんでもかんでも独りで解決してきたんだろう。だからこそ、俺みたいな落ちこぼれ魔術師にさえ遠慮しているのだ。


「さっきも言ったが、俺は金を稼ぐために冒険者をしている。そのついでにお前さんを守るだけだ。もちろん、必要経費は請求するがな」
「しかし、そこまでしてもらう訳には……」

 はぁ、まだ駄目か? こいつも頑固だな……。


「おい、エステル。お前まさか、俺に恩を返さないつもりか?」
「えっ? いや、恩は家の者を介して必ず返す!!」
「なら他の誰かじゃなく、エステル自身が返してくれ。それが誇り高き聖騎士ってモンだろ?」

 エステルは目を大きくみはった。

 しばらくそのまま時が過ぎ、彼女は小さくふぅと息を吐いた。


「……分かった。まさかスラムの人間に聖騎士を説かれるとはな」

 はは。これでも男の子なんでね。ハートは騎士に憧れたガキの頃のまんまなのさ。


「では私の方からも一つ頼みたいことがある」
「なんだ? 言ってみてくれ」
「――もし私が再び窮地におちいった時は、命懸けで助けて欲しい」

 ほっほーん、なるほど?

 それは俺の騎士道を試したいって事か。


「面白ぇ。その挑戦、乗ってやろうじゃねーか」

 俺はニヤリと笑ってみせる。

 エステルも腹をくくってくれた。それでこそ聖騎士ってもんだ。だったら俺も冒険者としてのプライドを見せなくっちゃな。

 協力の証に俺は右手を差し出すと、エステルはしっかりと手を握り返した。


「ふっ。やはり貴殿は変わった男だな」

 さっきまで漂っていた悲壮感は吹き飛び、すっかり調子を戻したエステル。

 不敵に微笑む彼女の顔は、これまでで一番魅力的に見えた。


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