奴隷にされた美人聖騎士を助けたら、なぜか落ちこぼれ魔術師から賢者(笑)に成り上がっちゃいました~俺の奇声はルール無用のチート呪文~

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第1話 落ちこぼれの魔術師

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「あばばばばば!!!!!!」

 薄暗い洞窟の中を、全力疾走する男。

 彼の名はガイ。
 世間から落ちこぼれ魔術師と呼ばれている男は今、絶体絶命の危機に瀕していた。


 ~数十分前~

 冒険者の街、ファースヘイム。そこから半日の距離にある初級ダンジョンへ俺はやってきていた。

 ここへ何をしに来たかって? そりゃあ当然、ダンジョンで生活費を稼ぐためさ。

 俺は冒険者だが、同時に魔法を扱う魔術師でもある。
 10歳で魔術師の適性があると言われ、それから冒険者をしながら6年ほど魔法の腕を磨いてきた。世間で言えば、中堅魔術師になっていてもおかしくない頃合だ。

 だというのに俺は、未だに初級の促成魔法と美化魔法の2つしか使えなかった。字面じづらからも分かるように、どちらも非戦闘用の生活魔法だ。

 な? とんでもない落ちこぼれだろ??

 ロクに戦えない俺は、普通の冒険者のようには稼げない。だからモンスターの出ない表層フロアで安いドロップ品を拾うことでしか、生活費を得ることができなかった。

 だが、それでいい。弱いくせにイキってモンスターに挑む馬鹿どもに比べたら、よっぽど賢い生き方だ。

 だから俺はこの初級ダンジョンで、安全に稼ぐんだ。

 ……そう思っていたはずなのに。


『ゴァアアアァァッ!!』

「ど、どうしてドラゴンがこんな初級ダンジョンに出てくるんだよぉおお!?!?」

 突如目の前に現れたのは、中級ダンジョンのボスモンスターであるファイアドラゴンだった。

 赤い鱗をした巨大なドラゴンは恐ろしい雄叫びを上げ、俺を威嚇してくる。その瞬間に俺は、戦わずに逃げることを決めた。

 きびすを返し、来た道を全力で走り出す。大丈夫だ、地図なら頭に入っている。俺なら絶対に逃げ切れるはず。


「――あぁもうっ! しつこいなあのトカゲ! まだ追い掛けてきやがるっ!」

 俺の装備は、中古の魔法杖とボロボロの皮鎧のみ。身軽といえば身軽なのだが、ドラゴンはデカい図体のくせに足がメチャクチャ速い。逃げる俺をどこまでも執拗に追いかけてくる。このままではいずれ追い付かれてしまうだろう。 


「はあっ、はあっ……マズいぞ、俺のレベルじゃコイツには絶対にかないっこない……!!」

 初級と中級の間には、パッと見でも分かるほどの戦力差がある。ましてや相手は屈強なドラゴン様だ。

 そのファイアドラゴンの体高は3メートルほど。体表には中級魔法の火炎球ファイアボールすら耐えきる、強靭な紅い鱗を持っている。それにあの腕にある鋭い爪だ。かすっただけで、俺の身体なんて簡単に真っ二つにされるだろう。

 そんな相手に俺の攻撃が通るはずもない。いや、そもそもの話。落ちこぼれ魔術師の俺には、戦う術なんて持っていなかった。


「やべぇ、追いつかれてきてる!?」

 そうこうしているうちに、ファイアドラゴンとの距離は既に10メートルを切っていた。

 さらに不運は続く。


「くそっ! やっちまった!」

 焦るあまり、逃げる途中で曲がる道を間違えてしまった。この先にあるのは行き止まりだ。


『ガアアッ!!』

「あぁもう、こうなったら破れかぶれだ!! 殺られる前にやってやろうじゃねぇか!」

 追い込まれた壁を背に、俺は迫りくるファイアドラゴンを迎え撃つ。

 顔を汗だくにしながら、鞄から急いで魔法杖を取り出した。その杖を前に突き出し、息を整えながら促成魔法の呪文を叫ぶ。


グロウシャワー植物よ育て!!」

 その瞬間。俺の持つ杖の先端から、綺麗なエメラルド色の光が一気に溢れ出した。

 だが――


『わさわさわさ……』

「あああああっ、ダメだぁあああ!! 促成魔法じゃ雑草しか生えねぇええ!!!!」

 光が降り注いだ地面に、小さな草がワサワサと生えてきた。……そう、促成魔法でできるのはそれだけだ。

 当然、足止めなんてできるわけもなく。ジワジワとドラゴンが目の前に迫ってきている。俺の身体はガタガタと震え、下半身なんて漏らしたションベンでビッショビショだ。

「あばばばっ……もぐもぐもぐ」
『ギャギャギャギャッ!!』

 恐慌状態で地面の雑草を食べている俺に向かって、ファイアドラゴンはその凶悪な爪を振りかざしてきた。


「ぴゃあ安謝jfr化hgfじゃ;えxplじょnkてぃんぽこあいやああ!!」

 俺はもう何を叫んでいるのかも分からない。全てを諦め、目を固く閉じ、頭を抱えてその場でうずくまった。


『グゥオオオオオッ……ぴゃっ?』


 ――ぱぁん。


「……あれ?」

 いつまで経っても、死の瞬間がやって来ない。

 それどころか変な破裂音がした後、ドラゴンの声が消えた。


「なんだ? 俺はもう、あの世に来たのか?」

 そのまましばらく待ってみても、何かが起こる気配はない。仕方なく、俺は勇気を出して目を開けてみることにした。


「な、なんだこれ?」

 そこにファイアドラゴンの姿はすでに無かった。代わりにあったのは、バラバラになった何かの肉片。それが視界いっぱいにゴロゴロと転がっていた。


「これは……ファイアドラゴンの死体!?」

 唯一形を残していたのは、ファイアドラゴンの巨大な頭部だけ。目を見開き、何が起きたのか理解できないといった表情だった。……俺にはドラゴンに表情があるかどうかは知らないけれど。


「えぇっと……どうしてこうなっちまったんだ?」

 辺りを見回してみても、なんの気配もない。誰かが助けてくれたワケでもなさそうだ。

 他に変わったところも特にない。いつも通りの薄暗い洞窟だし、地面に生やした雑草たちも元気そうにユラユラと風に揺れている。


「……まさか、この草たちがファイアドラゴンを倒したんじゃないよな?」

 足元に落ちていた緑色の葉っぱを拾って、まじまじと見つめる。一見すると何の変哲もない普通の植物に見えるけど……これがドラゴンを倒すほどの力を持っているというのか?

「うえっ、苦っ! まずっ!!」

 試しに草を一口食べてみるが、ゲロ不味かった。俺が食費を浮かせるためにいつも食べている、雑草の青臭い味だ。普段と別に変わりはない。


「とにかく、ドロップアイテムを回収しよう」

 幸いにも他にモンスターはいないようだし。せっかく倒したんなら、その報酬を回収しない理由はない。

 ファイアドラゴンの死骸に近づくと、その身体が少しずつ光り始めた。そして次の瞬間、俺の目の前に大きな宝箱がドカンと出現した。


「おおっ!? これってもしかして!?」

 俺はこの時初めて、ダンジョン産の宝箱を目にした。というより、モンスターを倒したこと自体が初めてだ。

 わくわくしながら宝箱の蓋をギギギ、と開けてみる。


「うおおおっ!?」

 中身を見た俺は思わず叫んでしまう。

 そこにはファイアドラゴンと同じ紅い色の宝剣と、虹色に輝く大量のジュエル貨幣が入っていた。

 魔術師の俺には残念ながら剣の良さは分からないが、ジュエルの凄さは一目瞭然。ざっと見た感じでは、50万ジュエルぐらいはありそうだ。これだけあれば、数ヵ月は遊んで暮らせるに違いない。


「やったぜ!! これで借金生活から抜け出せるぞぉ!!」

 冒険者生活を始めて早6年目。落ちこぼれ魔術師として馬鹿にされ、マトモなクエストも受注できずに苦しい生活を送る毎日。

 この日、俺はついに念願の大金とお宝を手に入れることができたのであった。
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