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不幸な再会

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 とつぜん僕たちの背後から現れたのは、豪華な鎧をまとった屈強な騎士だった。
 そしてその隣りには、メイド服を纏った黒髪の少女が無表情でたたずんでいる。

「だ、誰だ――!?」
「えっ、あなたは……?」

 騎士の方はともかく、危険なダンジョンの中にメイド服とは随分と不釣り合いな恰好だ。
 だが、美しい黒髪に黒のメイド服……他にもリアラに聞いていたメイドの特徴といくつか共通している。

 もしかしたらこの少女こそが、リアラが助けたがっていたシーラなのかもしれない。
 実際に姿を見たのはリアラも初めてのはずだが、繋いでいる手を通して彼女の動揺が伝わってくる。

「シーラ……無事だったのね……!!」
「やっぱり、この子が……でもどうしてここに?」

 本当に彼女がシーラなら、リアラを逃がすためにバーラック王国に囚われているはずだ。
 だが今の彼女は特に鎖に繋がれているわけでもなく、自分の意思でそこにいるようにも見える。

「クハハ、驚いたか? コイツは元々我が国バーラックのスパイだぜ。それをコイツは土壇場で裏切りやがって……」
「なっ、スパイだと!?」
「だから俺が捕らえ、調教し直したんだよ。まったく、手間取らせられたぜ」
「そんな、なんてこと……シーラ、私です! リアラですよ!!」

 メイドはリアラの呼びかけに対し、表情を一切変えることもない。
 それどころかまるで他人に挨拶をするかのように、美しい濡れ羽色の髪を揺らしながらカーテシーでお辞儀をした。

「クククッ、残念だったな。コイツはもう俺のモンなんだよ。さぁて、と……」

 騎士は僕たちのことを馬鹿にするように笑ったあと、スタスタと神像に近付いていく。

「おい、何をするつもりだ! 神像は僕たちが先に見つけたんだぞ!?」

 思わず止めにかかったけれど、騎士は聞く耳を持たない。
 それどころかコイツはシーラにナイフを投げ渡すと、彼女の首元に当てさせた。

「それ以上近付いたら、コイツに自死させる。それは創造の女神様も不本意だろう?」
「そ、そんな……っ!」
「ぐっ……卑怯者が!! それでも貴様は騎士か!?」
「ふん、何とでも言うがいい。おっと、下手な真似もすんじゃねぇぞ?」

 こうなったら、リアラに何か騎士の裏をかけるような武器を作って貰うしか……と思ったが、隣りにいたリアラはすっかり取り乱してしまっていた。
 それどころかカタカタと震え始め、出現させていた全ての武装を解除してしまった。

『創造』の能力はリアラの思い通りに出せるけれど、消すのも彼女のメンタル次第なのだ。
 まさかこんな場面で弱点を突かれてしまうとは……。

「では神像よ。死者をも蘇らせる、不老不死のエリクサーを俺にもたらたまえ。……おおっ!?」

 神像は僕らの努力なんて関係なく、騎士の願いをあっさりと叶えてしまった。

 キラキラとした光が神像から騎士へと降り注ぐと、アイツの手の中に小さな小瓶が現れた。おそらくあの瓶の中に入っている液体が伝説のエリクサーなのだろう。


「クッ、クハハハッ!! やった、やったぞ!! 遂に俺は……!!」
「お前……いったいそれをどうするつもりだ!?」
「あん? そんなもの、飲むに決まっているだろうが。この不老不死の身体と創造の女神の力でこの世界を手に入れてやる。所詮、祖国でさえも踏み台にしかすぎぬ……そうそう、貴様はもう用済みだ。俺の『洗脳』の祝福があれば、たとえ盲目だろうと思い通りに動かせるのでな。――シーラ、その男を殺せ」

 騎士の男が命令すると名前を呼ばれたシーラはコクリと頷き、こちらへと駆けだした。

 「やめて!」とリアラが叫ぶも、彼女は止まらない。
 持っていたナイフを片手に、素早い動きで僕へと襲い掛かってきた。

 リアラの武器が消えてしまったせいで、こちらはかなりの劣勢だ。
 仕方なく自分で予備に持っていた剣で応戦するも、相手が早すぎて捌ききれない。

 恐らくシーラは何か戦闘系の祝福を持っているんだろう。
 動きがやたらと鋭く、遂に僕は攻撃を喰らってしまった。

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