6 / 8
不幸な再会
しおりを挟むとつぜん僕たちの背後から現れたのは、豪華な鎧をまとった屈強な騎士だった。
そしてその隣りには、メイド服を纏った黒髪の少女が無表情で佇んでいる。
「だ、誰だ――!?」
「えっ、あなたは……?」
騎士の方はともかく、危険なダンジョンの中にメイド服とは随分と不釣り合いな恰好だ。
だが、美しい黒髪に黒のメイド服……他にもリアラに聞いていたメイドの特徴といくつか共通している。
もしかしたらこの少女こそが、リアラが助けたがっていたシーラなのかもしれない。
実際に姿を見たのはリアラも初めてのはずだが、繋いでいる手を通して彼女の動揺が伝わってくる。
「シーラ……無事だったのね……!!」
「やっぱり、この子が……でもどうしてここに?」
本当に彼女がシーラなら、リアラを逃がすためにバーラック王国に囚われているはずだ。
だが今の彼女は特に鎖に繋がれているわけでもなく、自分の意思でそこにいるようにも見える。
「クハハ、驚いたか? コイツは元々我が国のスパイだぜ。それをコイツは土壇場で裏切りやがって……」
「なっ、スパイだと!?」
「だから俺が捕らえ、調教し直したんだよ。まったく、手間取らせられたぜ」
「そんな、なんてこと……シーラ、私です! リアラですよ!!」
メイドはリアラの呼びかけに対し、表情を一切変えることもない。
それどころかまるで他人に挨拶をするかのように、美しい濡れ羽色の髪を揺らしながらカーテシーでお辞儀をした。
「クククッ、残念だったな。コイツはもう俺のモンなんだよ。さぁて、と……」
騎士は僕たちのことを馬鹿にするように笑ったあと、スタスタと神像に近付いていく。
「おい、何をするつもりだ! 神像は僕たちが先に見つけたんだぞ!?」
思わず止めにかかったけれど、騎士は聞く耳を持たない。
それどころかコイツはシーラにナイフを投げ渡すと、彼女の首元に当てさせた。
「それ以上近付いたら、コイツに自死させる。それは創造の女神様も不本意だろう?」
「そ、そんな……っ!」
「ぐっ……卑怯者が!! それでも貴様は騎士か!?」
「ふん、何とでも言うがいい。おっと、下手な真似もすんじゃねぇぞ?」
こうなったら、リアラに何か騎士の裏をかけるような武器を作って貰うしか……と思ったが、隣りにいたリアラはすっかり取り乱してしまっていた。
それどころかカタカタと震え始め、出現させていた全ての武装を解除してしまった。
『創造』の能力はリアラの思い通りに出せるけれど、消すのも彼女のメンタル次第なのだ。
まさかこんな場面で弱点を突かれてしまうとは……。
「では神像よ。死者をも蘇らせる、不老不死のエリクサーを俺に齎し給え。……おおっ!?」
神像は僕らの努力なんて関係なく、騎士の願いをあっさりと叶えてしまった。
キラキラとした光が神像から騎士へと降り注ぐと、アイツの手の中に小さな小瓶が現れた。おそらくあの瓶の中に入っている液体が伝説のエリクサーなのだろう。
「クッ、クハハハッ!! やった、やったぞ!! 遂に俺は……!!」
「お前……いったいそれをどうするつもりだ!?」
「あん? そんなもの、飲むに決まっているだろうが。この不老不死の身体と創造の女神の力でこの世界を手に入れてやる。所詮、祖国でさえも踏み台にしかすぎぬ……そうそう、貴様はもう用済みだ。俺の『洗脳』の祝福があれば、たとえ盲目だろうと思い通りに動かせるのでな。――シーラ、その男を殺せ」
騎士の男が命令すると名前を呼ばれたシーラはコクリと頷き、こちらへと駆けだした。
「やめて!」とリアラが叫ぶも、彼女は止まらない。
持っていたナイフを片手に、素早い動きで僕へと襲い掛かってきた。
リアラの武器が消えてしまったせいで、こちらはかなりの劣勢だ。
仕方なく自分で予備に持っていた剣で応戦するも、相手が早すぎて捌ききれない。
恐らくシーラは何か戦闘系の祝福を持っているんだろう。
動きがやたらと鋭く、遂に僕は攻撃を喰らってしまった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
たったひとりのために
まつめぐ
恋愛
生まれつき重い障がいのある女性と有名アーティストの男性とのシンデレラ・ストーリーです。
(作者自身も障がいありで気軽に妄想小説につきあってくれたらうれしいです。)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
たとえこの想いが届かなくても
白雲八鈴
恋愛
恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。
王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。
*いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。
*主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる