53 / 57
第53話 教皇が神に願う話
しおりを挟む「……グッ!? な、なにを……」
コイツ、一体何をしやがった!?
オスカーからビーンと同じぐらいの威圧感が放たれたせいで、俺は思わず身体を硬直させてしまった。
「ジャトレさん……大丈夫ですか!?」
「――平気だ。殺気を飛ばされただけで、特に何か攻撃をされたわけじゃねぇ!」
身体は細いし、軽い言動ばっかりだったが……やはりコイツも化け物かよ。戦えるくせに、力を隠してやがったな。
「それに僕だって混沌神の悪戯の恐ろしさは身をもって承知しているさ」
「は? おいまさか、お前も――?」
「当たり前だろう? 普通の人間が何百年も生きているワケないじゃないか。そう言う意味では、僕はキミの先輩なのかな。……ね、キュプロ?」
突然話を振られたキュプロの身体が、ビクっと跳ねた。
どうしてここでキュプロが出てきたんだ……? いや、まさか……。
「神の力、か……?」
「結果的に言えば、そうとも言える……かな」
「もしかして教皇様も、宝玉を使っていたってことですか……?」
攻撃魔法でビーンをけん制しながらミカが驚いたセリフを吐いた。そりゃ、いちおうは聖女として教会に所属していたんだから驚きもするか。
「でも僕が願ったのは、そんな大仰なコトじゃなかったんだ……そう。かつて昔に願った望みは、『誰からも愛されたい』。ただ、それだけだったんだよ。だけど神は、そんな僕に天罰を下した」
愛されたい……? たったそれだけの願いで、この男は何万もの教徒のトップに立ったっていうのか……?
俺が驚いた顔をしたのを見て、オスカーは苦笑いを浮かべた。自分でも荒唐無稽な話だと思っているのだろう。
「僕は孤児だったんだ。そうそう、ジャトレと同じ境遇だね。だから愛に飢えていたんだと思う。ただ、僕は僕を拾ってくれた義父に愛されたかっただけなのに……」
まさか、教皇ともあろう人物が俺と同じ孤児だったとは……。
誰かに愛されたい、見てほしいというのは痛いほどわかる。今はもう思い出したくもないが、母親代わりだったアイツには、自分の事を男として特別視して欲しいという願望があったぐらいだしな。だが、宝玉には代償があるわけだが……
「代償は酷いものだったよ。たしかに、こうして教徒のみんなが僕を慕ってくれるようになった。その代わり、僕はみんなを愛することができなくなってしまった」
「愛することができない……?」
「僕が彼らを愛そうとする度に、どうしても逆の感情が湧いてくるんだ。本当はこの手でみなを守りたいのに、滅茶苦茶にしてやりたくなるんだ」
オスカーは両手を宙に彷徨わせ、空気を掴むように握り潰した。
ミカとサリアは二人揃って悲痛そうな顔で眺めている。そこには敵視はなく、ただ宝玉に翻弄された男の境遇を憐れんでいるだけだった。
「……この悲しみは誰にも理解できないだろう。それはもう仕方のないことだと、とうの昔に諦めたよ」
「オスカー……」
「そして神に与えられた呪いで、自分では死ぬことも赦されず……ただ自分を愛する人たちを憎みながら、だらだらと数百年もの間、無為な時間を生き続けてしまった。僕はこんなこと、ちっとも望んでいなかったのに……!!」
オスカーは双眸からツゥと涙を流しながら慟哭する。
「だから僕は、ずっと待ち続けていたんだ。オスカーという救いようのない人間を、終わらせてくれる存在をね。だからこうして、可能性のありそうな人間を裏から援助していたんだ」
それがキュプロだったってことか。神鳴りは神に近付く研究だ。同じ神に届く力があれば、オスカーを殺すことができるかもしれない。
「すまない、ボクもずっとジャトレ君たちに言いたかったのだけれど……いつ神の反感を買って、ボクの記憶を消されてしまうかが怖くて……こんな言い訳をしても、ただの臆病者だと思うかもしれないけれど……」
「キュプロ……」
「彼女は長い時の中でも、もっとも僕に近い存在だったんだ。もし僕を殺せるとしたら、キュプロか……もしくはキミ達だと思った」
俺たちが……?
ミカ達と顔を見合わせるが、誰もがいまいちピンと来ていない。たしかに宝玉の使用者ではあるが、二人ほどの力が無いことは自覚している。
『グォオオオッ!!』
「一触即発。みんな、逃げて」
俺たちが会話している間、ヴァニラが必死にビーンを抑えてくれていたのだが、そうも言っていられなくなってしまったようだ。肥大した身体の使い方を覚え始めたのか、先程よりも奴の動きが洗練され始めている。ヴァニラも上手く鎖の大剣で捌いていたのだが、少しずつ押されてしまっていた。
これは一度、態勢を整えないとヤバい。せめて教会の騎士たちに応援を頼みに行こう。
「一度、ここは引きましょう……!!」
「わ、分かった。ごめん、ボクが巻き込んだせいで」
「キュプロは悪くない。……サリアも。行こう」
「……はい」
とにかく、文句があるとしたら無事に帰ってからだ。誰も言わずとも、全員の意見がそれで一致した。さっそく礼拝堂から退避しようと走り始めたところで、オスカーだけは逆にビーンに向かって呑気に歩いていく。
「おい、危ないぞ……!」
アイツ、一体何をするつもりなんだ――!?
「あぁ、この際ならモンスターが相手でも構わないさ。さぁ、ビーン。僕を殺せるものなら、殺してみたまえ!!」
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる