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第52話 黄金色のモンスターが生まれた話
しおりを挟む礼拝堂に閃光が走る。
光が収まったかと思えば、今度は爆発が起きたかのような突風が吹き荒れた。俺たちは吹き飛ばされないように床に這いつくばったり、柱にしがみ付くので精一杯だ。
「クハハハッ!! すげぇぞ!力が漲ってくる!!」
片や嵐の中心にいるビーンは、しっかりと立ったまま歓喜の声を上げている。
――やられた。俺たちが苦労して手に入れた呪いの宝玉はアイツの手の中にある。そして願いはどうやらすでに果たされてしまったようだ。
「見ろ! 俺様の腕がかえってきた!!」
ビーンは俺たちに見せ付けるように、新しく生まれ変わった右拳を天へと突き上げた。
「おおっ、なんと素晴らしい! これはまさに、神の奇跡だ……!!」
すぐそばで見ていた豚司教は、その場で膝をついて神に祈りを捧げ始めた。ああ見えて、信心深いらしい。
やはり、宝玉は本物だった。並みのポーションでは再生できない身体を復活させてしまった。それだけじゃない。さっきまでとは比較にならないほどの威圧が奴の身体から放たれていた。
ビーンはさっき『栄光が欲しい』と願っていた。具体的にその願いがどう果たされたのかは分からないが、おそらくは国選冒険者を越える力を得たのだろう。
「マズいぞ。あの奇妙な鎧に宝玉の力が加わったら手が付けられなくなる……」
「あはっ。さて、ビーン。キミはどんな代償を得られたんだい? 僕に見せておくれよ」
……そうだ。力の代償がある。同じく力を願って呪いに掛かったミカのように、ビーンにも何かしらの代償があるはずだ。そこを上手く突けば勝てる可能性が――。
『キハハハハッ!! 力が! 湧いてぇええあああっ!!』
「お、おい!? 危ないぞ……!」
「なっ、急にどうし……ぎゃあああっ!!」
豚司教の悲鳴と共に、ドーンという激突音がフロアに鳴り響く。
そして地面が抉れ、土ぼこりが舞い上がった。
「……なぁ、アイツ。どうみても、暴走していないか?」
「司教が……潰されちゃいました……」
視界が晴れてくると、そこに豚司教の姿はもうどこにもなかった。代わりに、赤色の水溜まりが地面を濡らしていた。
「自業自得。でもアレはアレで強そう」
ヴァニラは冷静にそう言いながら、身体が元の倍ぐらいに膨れ上がっていくビーンを指差した。もちろん、そんな状態になってしまっては服なんてとっくに破けている。奴の裸体なんて見たくもないのだが、代わりにあの生きたように蠢く黄金鎧が拡張して身体をうまく覆い隠していた。
しかし、参ったな。問題は凶悪な見た目だけじゃない。
顔も含めた全身を鎧が覆い尽くしているせいで、一分の隙も無い。アレはもう、巨大な甲冑が動いているようなものだ。まっとうな剣士じゃない俺なんかが剣で斬りつけたところで、鎧には傷一つ付かないだろうな。
「あははは!! 栄光を望み、力に溺れた者が自我を失くしたか。これはミカとはまた違った代償だね。だがそんな状態では、もう国で一番の冒険者にはなれるまい?」
「おい、オスカー。お前、まさか……他人がどんな代償を払うかで楽しんでいないか……?」
「これぞまさに、人間の持つ業と言えるだろうね。ありがとう、ビーン。また一つ、いい経験になったよ!」
「駄目だ、コイツ。人の話を聞いちゃいねぇ」
教皇は独りで高笑いを上げながら、すっかり様変わりしてしまった男に拍手を送っている。
すでにビーンは俺の倍の背丈ぐらいあるモンスターになってしまっていた。
そして鎧と同じく丸太のように巨大化した黄金剣をキャッキャと振り回している。……あの様子ではもう、人間には戻れなさそうだ。
ていうかこの男、最初からビーンが力に呑まれると分かっていて、敢えてやらせたな?
人が何かを失うのがそんなに楽しいのか? 趣味が悪すぎるだろ、コイツ。
「うるさいなぁ。僕はキッカケを与えただけに過ぎないじゃないか。それに、最終的にそう望んだのは本人だろう? あ、気をつけて。彼、こっちを敵だと判断したみたいだよ」
「――っぶね!? だからって、分かっててやらせるのとは違うだろう!」
すっかり理性の代わりに闘争本能が頭を占めちまったビーンは、その凶悪過ぎる体躯をフルに使って今度は俺たちを攻撃し始めた。大振りなのにとんでもないスピードだ。目にも留まらぬ速度でスイングさせてきた黄金剣を、俺は間一髪で避けた。
あんなのに当たったらどうなるかは、豚司教が前もって教えてくれている。正直、かすっただけでも致命傷になるだろう。
「……だが、これなら」
奴は間違いなく、強くはなっているのだが……。
「残念至極。わたしに向かってきた時の方が、まだ技にキレがあった」
「ビーン……貴方が望んだのは、こんな力だったの……?」
二人の言う通り。力とスピードが上がった反面、ビーンが持っていた剣技の冴えが見る影もなくなっている。せっかくのパワーアップも、これではただモンスター化しただけだ。
「――あはっ。やっぱり、そう簡単には強くなれないものだねぇ」
「やっぱりお前、性格最悪だな!?」
ビーンだって、こうなると分かっていたらもっと違うことを望んでいたに決まっている。奴はあくまでも、冒険者としての高みを目指していた。そう、ミカやヴァニラといった憧れの国選冒険者となるために。
それをこの男は、人の想いを踏み躙るような真似を……!!
「――ねぇ、いい加減にしてくれない? そろそろキミ……不敬だよ?」
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