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第49話 出逢っていた二人の話
しおりを挟むコイツ今、なんつった……?
俺だけじゃない。その場にいた全員が固まっていた。それは敵であるビーンや豚司教でさえも。
「俺と……サリアが恋人……?」
「ジャトレさん……?」
「ジャトレ君……」
「ジャトレ様」
「いや、待て待て待て!! 何かの間違いだろうが!?」
教皇の意味不明なセリフにポカンとしていたら、急に背筋を冷気が襲ってきた。
その原因を探ると、ミカとキュプロ、そしてヴァニラが三方向から俺を睨んでいた。
ま、待て待て。
どうして二人まで俺をそんな目で見るんだよ!?
俺はそんな記憶なんてちっとも無いんだぞ!?
「それにサリア本人だって何のことか分かっていないじゃねぇか! 教皇だがなんだか知らねぇが、デマカセだろうがよ!?」
「……教皇様が言うのなら事実かもしれません」
「おいっ!? お前まで何を言っているんだよ!」
ちくしょう、どうして誰も俺の言うことを信じないんだよ!?
小さい頃に孤児院の件で揉めてから今日まで、俺はサリアと会っていないって言ってんだろうが……!!
「あはっ。ゴメンゴメン。意地悪はこの辺にしておくよ」
「おい、お前。教皇だかなんだか知らねぇが、少しは空気を読めよ!」
すっかり変な雰囲気になっちまったが、こっちは殺し合いの最中だったんだぞ!? 急に現れて邪魔をしてきたと思ったら、今度は面白くもねぇ冗談を吐きやがって。
「いや、意地悪は言ったけれど。キミ達が恋人同士だったのは本当だよ」
「はぁ? いや、そういうのはもういいって……」
「それに、キミは元々そこまで金の固執するような青年ではなかったはずだ」
「クソ、気持ち悪い表情を俺に向けるんじゃねぇ!!」
ニコニコと、まるで親が子を褒めるかのような慈愛に満ちた表情で俺を見下ろしやがって。お前が俺の何を知っているっていうんだ――。
「キミのことは良く知っているよ。むしろ、知らないのは……ジャトレ、キミ自身だ。だがそれも仕方がない話。覚えていないのは――サリア。キミがコレを使い、ジャトレの記憶を消したからだ」
オスカー教皇はそう言うと、懐から光り輝く宝玉を取り出した。
「それは……!!」
「そう。キュプロから進呈してもらった、『混沌神の悪戯』さ……あぁ、キミ達は呪いの宝玉って言っているんだっけ?」
手の平でコロコロと転がしながら、奴は目を細めて宝玉を興味深げに見つめている。
それに反応しているのか、宝玉の中を黒い光が揺らめいていた。まるで宝玉の中に精霊が住んでいて、遊んでもらって喜んでいるようにも見える。
「心優しき金の亡者、ジャトレ。キミは約半年前、僕の前に一度現れているんだ。病の床に伏したサリアを救ってくれってね」
◇
「今から一年ほど前。国内で最強の魔法使いとなった魔天、サリアはジャトレに会いに行っていた」
サリアとミカの父であった父が経営していた孤児院は、もはや破たん寸前だった。
父であり貴族家の当主だった彼は、孤児院を自身の欲望の発散するための人間牧場程度にしか思っていなかったためだ。
「彼がジャトレの母親代わりであり、初恋の相手を奪い去ったことも聞いているよ。そしてそのことに関して、サリアが罪悪感を深く感じていたことも」
自分の父親が非人道的な行いをしていたことに、そして被害者が苦しんでいる光景を実際に目にしたサリアは、俺に必ず健全な孤児院を取り戻すと誓っていた。
そしてその約束は果たされていた。孤児院をあらゆる方面から支援し、経営者を貴族から冒険者に任せるという、根本な部分まで変えてしまったのは俺でも知っている。だがそれは陰からであって、サリアはあくまでも、俺たち孤児院の者の前には一切顔を見せなかったのだ。
「己も国選冒険者となり、国で一番の魔法使いとなった。キチンと約束を守ったサリアは、ようやく大手を振ってキミに会いに行ったそうだね。そして、キミも彼女を受け入れた」
「そんな、まさか……」
「そして、あの屋敷で二人で住み始めた。誰にも気付かれぬよう、ひっそりとね」
そんなことを言われても、信じることなんてできるわけがない。
だが俺はもうオスカーの言うことを否定するよりも、その先を聞きたいと思ってしまっていた。
「だが、サリアがキミに会いに行ったのは、他にも理由があった。――彼女は不治の病に侵されていたんだ」
「病……? お姉ちゃんが、病気に!?」
「そうだよ。可哀想にねぇ。せっかく約束を果たして愛し合うことができたのに、サリアにはもう時間は殆ど残されてはいなかったんだ」
わざとらしく悲しげに目を伏せ、首を振るオスカー。
いや、それはおかしいだろう。現に俺たちの目の前にはそのサリアが生きて立っているじゃないか。やはり、コイツのデマカセだったのか?
「だからジャトレはこの大聖堂に忍び込み、僕に会いに来た。何でもするから、サリアを助けてくれってね」
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