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第42話 魔天の行方を追う亡者たちの話
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目覚めたヴァニラから話を聞くため、俺達は客間から食堂へと移動していた。
ミカの作った特製オムライスを食べつつ、ヴァニラに何があったのかを聞いていたのだが――
「お姉ちゃんが……男の人と?」
姉であるサリアの話を聞いて、ミカの顔面は蒼白になっていた。
「驚天動地。わたしもびっくりした。サリアは1年前からこの街で男と会っていたらしい。でも誰と居たのかまでは分からなかった」
「そんな……全然知らなかった……」
ミカは姉である魔天をずっと探していたんだもんな。それがまさか、生まれ育ったこの街に帰ってきていたと聞けばそりゃあ驚くだろう。
「お姉ちゃんは約束を果たすまで、この街には絶対に帰らないって言ってましたから。でもどうして私に黙ってそんなことを……」
「孤児院も自分では直接世話をしないで、冒険者を使うぐらいだったしな。まったく、随分と頑固な女だぜ……ってもしかしてアイツ、実はコソコソと見守っていたのか?」
この街は王都に次ぐ規模の街だ。成長して姿形も変わっているし、たとえ道端ですれ違っていたとしても互いに気が付かないだろう。だから上手いこと身を隠していたのかもしれない。
しかし、男と一緒か……魔天が認めるほどの相手って、いったいどんな奴なのやら。
「そういえば……どうしてミカは最初に、宝玉を使って姉の行方を調べなかったんだ?」
ミカは宝玉を既に手に入れていたじゃないか。それなら、サリアがどこにいるのか聞けば良かったんじゃないのか?
「……私の夢は元々、姉を越えることでしたから。というより、姉は最難関のダンジョンで行方不明になったと思っていたんですよ。探しに行くには姉以上の実力が必要だと思ったので……」
「国選のミカでもか!?」
「国士無双……わたしとサリアぐらいの強さが無いと入れない、国が秘匿しているダンジョンもある……でもわたしが探したけど、そこにも居なかった……」
そんな隠されたダンジョンがあるのか……。たしかに居場所が分かっても、探しに行けないんじゃ意味が無いか。
「しかし、どこを探しても見付からないんじゃ八方塞がりだよなぁ。もはやこの街から移動しちまったと考えた方が――「大変だよぉ~!」……うん?」
なんだ? アレはキュプロの声か?
っていっても、あの間延びした喋り方をするような人物はキュプロしかいない。彼女は調べたいものがあると言って昨晩から外に出ていたのだが、どうやら戻ってきたようだ。
……にしても、アイツは何をそんなに騒いでいるんだ?
「どうしたんだよ、そんな慌てて……」
「ぜぇ、ぜぇ……」
「あらら、汗だくじゃないですか。どうぞ、キュプロさん。お水です」
「ぜぇ……あ、ありがとうミカ君。……って、そんな場合じゃないんだよ!!」
ミカが冷えた水を持ってきて手渡すと、それをひったくるようにしてゴクゴクと飲み干していく。かと思えば、その様子を見ていたミカに掴みかかってブンブンと身体を揺すり始めた。
「ど、どどどうしたんですかキュプロさん?」
「おい、落ち着けよ。ちゃんと俺たちにも分かるように説明しろって」
いつもマイペースなキュプロがここまで慌てるなんて、相当珍しい。
汗で濡れた髪が額にベッタリとついているわ、眼鏡はズレているわで酷い有り様だ。
「……居たんだよ!」
「居た? 何が居たんだよ。誰か有名人でも……ってまさか」
「そうなんだよぉ! 魔天のサリアさ! 彼女を商店街で見掛けたんだ!!」
「マジか……って、おいミカ! 待てって!」
キュプロが最後まで言い終わる前に、ミカは壁に立てかけていた杖を引っ掴んで食堂を飛び出してしまった。俺の制止の言葉なんて一切聞いちゃいねぇ。
「って、もう屋敷の外まで行っちまったし……」
「ご、ごめん。ボクも慌てて。もっと気を遣って言えば良かったかな……」
「そんなことはねぇよ。まったく、せめてミカも詳しい場所を聞いてから向かえば良いのに」
窓の外を見れば、ミカの姿が街の中心部へ消えていくところだった。アレじゃ今から追いかけても間に合わないだろうな。
「急転直下……ジャトレ様、わたしたちも向かおう」
「ジャトレ様!? ちょ、ちょっとジャトレ君? これはどういうことだい?」
「あぁ、あんまり気にしないでくれ。今はあんまり思い出したくないんだ」
ヴァニラが起きた時には居なかったから、キュプロは何が起きたのか知らない。
だが熱烈なキスをされた挙句、熱っぽい視線で『ジャトレ様』と言われる理由を俺が説明しろと? そんなの言えるわけがないだろう!!
「それよりも今は早く追いかけよう。なんだか胸騒ぎがする」
「ぼ、ボクはちょっと……」
「キュプロは大丈夫だ。場所だけ教えて、ここで休んでいてくれ」
彼女はまだ息も荒く、ミカを走って追い掛けるのは無理だ。ここは俺とヴァニラが行けば十分だろう。
「すまない……えっと、魔天は商店街の一番東にある通りで見掛けたよ」
「わかった。行ってくる――ヴァニラ」
「委細承知……行こう」
キュプロを椅子に座らせ、俺たちはミカの後を追う。
対ヴァニラ戦の後、俺の身体はさらに進化したお陰でスピードも大幅に上昇していた。今はもう、あのロイヤルゾンビと同じ種族だ。
街ゆく人ごみの間を風のようにすり抜け、猛スピードで駆けていく。ちなみに隣りに居るヴァニラのスピードは言わずもがなだ。
俺達はそう時間も掛からず、キュプロの言っていた場所に到着することができた。
「……居た」
「ミカももう居るみたいだな。それと正面に居るのが……アレが魔天か?」
視界の先には良く似た背格好の女が2人で立っている。
どちらも金髪の美少女で、誰が見ても姉妹のよう。あれは俺が遠い昔に出逢った――んん?
「どこか見覚えが……いや、それは当然なんだが……うぅん?」
「なんだか揉めてるみたい……ジャトレ様、早く行こう」
「え? あ、あぁ。そうだな……」
何となく違和感があるが、今はそれどころじゃなさそうだ。ミカがサリアと思しき人物に怒鳴っている。2人に何かがあったみたいだ。
「おい、どうしたんだミカ――」
「――どうしちゃったの、お姉ちゃん!! 私だよ! 妹のミカ!!」
「ご、ごめんなさい。誰かと見間違いでは……?」
ミカの作った特製オムライスを食べつつ、ヴァニラに何があったのかを聞いていたのだが――
「お姉ちゃんが……男の人と?」
姉であるサリアの話を聞いて、ミカの顔面は蒼白になっていた。
「驚天動地。わたしもびっくりした。サリアは1年前からこの街で男と会っていたらしい。でも誰と居たのかまでは分からなかった」
「そんな……全然知らなかった……」
ミカは姉である魔天をずっと探していたんだもんな。それがまさか、生まれ育ったこの街に帰ってきていたと聞けばそりゃあ驚くだろう。
「お姉ちゃんは約束を果たすまで、この街には絶対に帰らないって言ってましたから。でもどうして私に黙ってそんなことを……」
「孤児院も自分では直接世話をしないで、冒険者を使うぐらいだったしな。まったく、随分と頑固な女だぜ……ってもしかしてアイツ、実はコソコソと見守っていたのか?」
この街は王都に次ぐ規模の街だ。成長して姿形も変わっているし、たとえ道端ですれ違っていたとしても互いに気が付かないだろう。だから上手いこと身を隠していたのかもしれない。
しかし、男と一緒か……魔天が認めるほどの相手って、いったいどんな奴なのやら。
「そういえば……どうしてミカは最初に、宝玉を使って姉の行方を調べなかったんだ?」
ミカは宝玉を既に手に入れていたじゃないか。それなら、サリアがどこにいるのか聞けば良かったんじゃないのか?
「……私の夢は元々、姉を越えることでしたから。というより、姉は最難関のダンジョンで行方不明になったと思っていたんですよ。探しに行くには姉以上の実力が必要だと思ったので……」
「国選のミカでもか!?」
「国士無双……わたしとサリアぐらいの強さが無いと入れない、国が秘匿しているダンジョンもある……でもわたしが探したけど、そこにも居なかった……」
そんな隠されたダンジョンがあるのか……。たしかに居場所が分かっても、探しに行けないんじゃ意味が無いか。
「しかし、どこを探しても見付からないんじゃ八方塞がりだよなぁ。もはやこの街から移動しちまったと考えた方が――「大変だよぉ~!」……うん?」
なんだ? アレはキュプロの声か?
っていっても、あの間延びした喋り方をするような人物はキュプロしかいない。彼女は調べたいものがあると言って昨晩から外に出ていたのだが、どうやら戻ってきたようだ。
……にしても、アイツは何をそんなに騒いでいるんだ?
「どうしたんだよ、そんな慌てて……」
「ぜぇ、ぜぇ……」
「あらら、汗だくじゃないですか。どうぞ、キュプロさん。お水です」
「ぜぇ……あ、ありがとうミカ君。……って、そんな場合じゃないんだよ!!」
ミカが冷えた水を持ってきて手渡すと、それをひったくるようにしてゴクゴクと飲み干していく。かと思えば、その様子を見ていたミカに掴みかかってブンブンと身体を揺すり始めた。
「ど、どどどうしたんですかキュプロさん?」
「おい、落ち着けよ。ちゃんと俺たちにも分かるように説明しろって」
いつもマイペースなキュプロがここまで慌てるなんて、相当珍しい。
汗で濡れた髪が額にベッタリとついているわ、眼鏡はズレているわで酷い有り様だ。
「……居たんだよ!」
「居た? 何が居たんだよ。誰か有名人でも……ってまさか」
「そうなんだよぉ! 魔天のサリアさ! 彼女を商店街で見掛けたんだ!!」
「マジか……って、おいミカ! 待てって!」
キュプロが最後まで言い終わる前に、ミカは壁に立てかけていた杖を引っ掴んで食堂を飛び出してしまった。俺の制止の言葉なんて一切聞いちゃいねぇ。
「って、もう屋敷の外まで行っちまったし……」
「ご、ごめん。ボクも慌てて。もっと気を遣って言えば良かったかな……」
「そんなことはねぇよ。まったく、せめてミカも詳しい場所を聞いてから向かえば良いのに」
窓の外を見れば、ミカの姿が街の中心部へ消えていくところだった。アレじゃ今から追いかけても間に合わないだろうな。
「急転直下……ジャトレ様、わたしたちも向かおう」
「ジャトレ様!? ちょ、ちょっとジャトレ君? これはどういうことだい?」
「あぁ、あんまり気にしないでくれ。今はあんまり思い出したくないんだ」
ヴァニラが起きた時には居なかったから、キュプロは何が起きたのか知らない。
だが熱烈なキスをされた挙句、熱っぽい視線で『ジャトレ様』と言われる理由を俺が説明しろと? そんなの言えるわけがないだろう!!
「それよりも今は早く追いかけよう。なんだか胸騒ぎがする」
「ぼ、ボクはちょっと……」
「キュプロは大丈夫だ。場所だけ教えて、ここで休んでいてくれ」
彼女はまだ息も荒く、ミカを走って追い掛けるのは無理だ。ここは俺とヴァニラが行けば十分だろう。
「すまない……えっと、魔天は商店街の一番東にある通りで見掛けたよ」
「わかった。行ってくる――ヴァニラ」
「委細承知……行こう」
キュプロを椅子に座らせ、俺たちはミカの後を追う。
対ヴァニラ戦の後、俺の身体はさらに進化したお陰でスピードも大幅に上昇していた。今はもう、あのロイヤルゾンビと同じ種族だ。
街ゆく人ごみの間を風のようにすり抜け、猛スピードで駆けていく。ちなみに隣りに居るヴァニラのスピードは言わずもがなだ。
俺達はそう時間も掛からず、キュプロの言っていた場所に到着することができた。
「……居た」
「ミカももう居るみたいだな。それと正面に居るのが……アレが魔天か?」
視界の先には良く似た背格好の女が2人で立っている。
どちらも金髪の美少女で、誰が見ても姉妹のよう。あれは俺が遠い昔に出逢った――んん?
「どこか見覚えが……いや、それは当然なんだが……うぅん?」
「なんだか揉めてるみたい……ジャトレ様、早く行こう」
「え? あ、あぁ。そうだな……」
何となく違和感があるが、今はそれどころじゃなさそうだ。ミカがサリアと思しき人物に怒鳴っている。2人に何かがあったみたいだ。
「おい、どうしたんだミカ――」
「――どうしちゃったの、お姉ちゃん!! 私だよ! 妹のミカ!!」
「ご、ごめんなさい。誰かと見間違いでは……?」
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