世界最強アンデッドだけど引き篭もりたい!なのに聖女が俺を昇天させようと狙ってくるんだが!?

ぽんぽこ@書籍発売中!!

文字の大きさ
上 下
37 / 57

第37話 剣聖が本気を出してきた話

しおりを挟む

 俺達が神像のある最後の部屋へとやって来ると、そこでは予想通りの惨状が広がっていた。


「う、ぐ……クソが……」

 地面にあるのは無数に散らばる黄金色の破片。そして片腕を失った状態で無様に転がされている、ビーンの姿だった。


「ビーン!! 大丈夫!?」
「く、来るんじゃねぇ!! コイツは俺の獲物なんだっ……」
「何を言ってるんですか!! ほら、回復薬ですっ。飲んでください!」

 ビーンはミカに抱きかかえられながら、貴重な回復薬を口に運ばれている。これで止血はできるだろうが、失ってしまった右腕は神薬エリクサーでもない限り再生しない。


「ぐうぁああっ……!!」

 傷口が塞がる際の痛みは相当なものなのだろう。ビーンは苦しそうなうめき声を上げている。ついさっきまでの自信満々な態度とは違い、非常に弱々しい姿だ。


 しかし、腕を失っちまったのか……。

 冒険者にとって手足の有無は重要だ。万全の状態でない限り、この生業なりわいを続けていくのは厳しい。
 つまり、奴はここでリタイアが決定してしまったも同然というわけだ。気落ちするのも当然だな。

 さっきは本気で殺されかけた手前、コイツには同情なんてしないが……こうなってしまうと、少しだけ哀れみの感情が湧いてくる。

 っと、今はそれよりも――


「……よう。絶好調みたいじゃねぇか、吸血女王さんよ」
「……」

 相変わらずつまらなさそうな表情だ。元剣聖はやはり自我が無いのか、挨拶をしても返事は全くない。

 ビーンの返り血で赤く染まっているシルバーの鎖。まるで意識を持っているかのようにウネウネと動きながら、彼女の周囲を常に守護している。……なんだか本体よりも、鎖の方が感情豊かな気もするな。


「ヴァニラ先輩……やっと、解放しにきましたよ」

 ビーンとキュプロを避難させ終わったのか、ミカも俺の隣りにやって来た。
 普段の馬鹿っぽい態度は鳴りを潜め、真剣な表情で戦闘モードに入っている。

 クク……ついこの間ここへ訪れたばかりなのに、なんだかあの頃が懐かしいな。


「さて、リベンジマッチといこうじゃないか。進化した俺と一緒に踊ろうぜ?」

 腕輪を起動し、宝剣を握る。ミカもほぼ同時に起動したのか、白と黒の魔法盾が二人をそれぞれ包み込んだ。

 コイツヴァニラの実力はもう、十分に分かっている。防御はしっかりとしないと、簡単にやられちまうからな!!


迂闊うかつに近寄らない方が良いですよ! あの時だってこの人、本気じゃなかったんですから」

「え……本気じゃないってどういうことだ?」

「ごめんなさい、ジャトレさん。実はあの晩、私はソロでこの人と手加減なしで殺し合ったんです。私の本気でも、ほとんど手も足も出ませんでした」


 ちょ、ちょっとミカさん? そんな話、俺は全然聞いてなかったんですけど……?

 ……ん、まてよ?
 あの晩ってまさか、朝起きたらミカがボロボロになっていた日の話か!? お前、なんちゅう無茶しやがったんだよ!!


「第二形態……とでも言うんでしょうか。鎖を束ねて作った大剣を振るっていました」
「そういう大事な情報は前もって共有しとこうぜぇええ!?」

 前動作なしノーモーションで吹っ飛んでくる鎖を避けながら、遅すぎる情報を告げるミカに叫ぶ。

 前回は避けられもしなかったから、進化した甲斐かいはあったようだ。……でもコイツにはこれ以上があるってことだろう?
 ていうか剣聖が剣を持ったら、それこそ誰もかなわないんじゃ?


「大丈夫です。今のジャトレさんと、キュプロさんの装備。そして私の魔法があれば!!」
「ホントだな!? その言葉を信じるからな!! もう死にたくねぇぞ俺は!!」

 宝玉の中に残っている財宝も少ない。つまり俺の命のストックもあと僅かだ。
 いくら俺が相手の攻撃を見て覚えるのが得意だといっても、そのたびに殺されていたらマジで金も命も尽きちまう。


「ほら、もう第二形態が来ますよ!!」
「え? もうかよ……ってなんだアレは!?」

 会話中もシルバーチェーンを避けまくっていたら、ミカが叫び声を上げた。

 ふと吸血女王の方を見ると、たしかに様子がおかしい。こちらへの攻撃を止め、自身を鎖でグルグル巻きにし始めたのだ。


「な、何をしているんだ!?」
「以前私がボッコボコにされた、大剣モードの準備ですよ! 気を付けてください。あぁなったヴァニラ先輩は、パワーもスピードも段違いでしたから!」
「ま、マジかよっ……くぅ!? なんて重たい殺気だ!!」

 まるで卵か虫のサナギのように丸くくるまったかと思えば、火の中にくべた木の実のように突然爆発した。

 その瞬間、とんでもない圧力が俺達を襲う。さっきよりも数倍以上の殺気が暴風のようにあふれ出ている。

 マズい、ちょこまか動きすぎてイラつかせちまったか?


「アレが、剣を持った本当の剣聖……」

 鎖を限界まで圧縮することで無理やり作られた、銀色に輝く大剣。それは切れ味を重視するよりも、叩き潰すことに重きを置いた鈍器のような風貌をしている。

 とにかく、デカい。彼女の小さな体格にはあまりにも不釣り合いなほど巨大だ。
 だがヴァニラはそれを自身の身体の一部のように、片手で軽々しく振るっている。


「はは、こりゃマジで死ぬかもな……」

 視認できない程の速さで剣を素振りしながら、こちらへ近づいて来る銀髪の処刑人。

 だけど俺だって引くわけにはいかない。


「――ミカ」
「はいっ!!」

 隣りに居るミカと頷き合うと、俺はもう一つの新装備であるクロスペンダントを力を込めて握りしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。 果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...