世界最強アンデッドだけど引き篭もりたい!なのに聖女が俺を昇天させようと狙ってくるんだが!?

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第36話 嵌められた亡者たちと嵌めた男の話

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 冒険者ビーンにめられ、俺達はモンスターの大群に足止めを喰らっていた。

 中ボス部屋から止めなくあふれ出てくる多種多様なモンスターを片っ端から叩いていく。
 そうして魔法や剣を振るい続けること、約1時間。俺たちの体力が切れる前に、どうにかモンスターの波が途切れた。


「ようやく……収まったか……」
「し、死ぬかと思いましたよぅ……」
「き、きひ……」

 最後にボールみたいに丸いコウモリモンスターが絶命し、ようやく部屋が静かになった。
 その瞬間、3人が揃って床にズルズルと崩れ落ちる。あー、マジで危なかった。もう少しでダンジョンのやしになるところだったぜ……。


「途中でジャトレさんが犠牲になってくれたお陰で、私達も少しは休めましたしね……」
「うぅん。仲間がグチャグチャにされる光景なんて、ボクは見たくなかったけどねぇ」
「俺だってあんな何度も死にたくなんかないわ……」

 幾ら俺たちが強くなったとはいえ、さすがにミカも魔力が切れたり、キュプロが怪我をしたりなんかした。だからどうしても休憩が必要だったのだ。

 その間、俺は文字通り自分を盾にしてモンスターを食い止めたわけなんだが……うん、アレはただのリンチだった。
 アイツら、ヤンチャな子供が人形を引き千切るみたいに俺を手荒にもてあそびやがって。……まぁ、モンスター相手に手加減を覚えろってのも無理な話だけどよ。


「ったく。あの金メッキ野郎のせいでまた俺の金が減っちまったじゃねぇか」
「ごめんなさい。私があんな人と知り合いになんてならなければ……」
「――いや、ミカのせいなんかじゃねぇよ。単にアイツが究極の馬鹿だったってだけだろう。っつーか、なんでアイツはあんなミカに執着しているんだ?」

 いつだってあの男はミカばかりに注目していて、俺たちに興味なんかちっとも示さなかった。あの異常な行動には何か理由があるんだろうか?


「それは私にも……ただの冒険者仲間の一人って認識でしたから。彼が新人冒険者だった頃は素直な青年だった気もするんですが。先輩だった私に色々冒険のイロハなんて聞いてくるぐらいでしたし」

「……それってもしかして」

「いや、ジャトレ君。それよりも今のことを考えなきゃだよ~? どんな理由があったにしろ、いくらなんでも今回の事はやり過ぎだ」

「……そうだな。生きて帰ったらキチンと落とし前をつけさせてもらおう」


 ミカへの恋心をこじらせた結果? そんなもん、俺達には無関係だ。
 奴が起こした爆発災害アウトブレイクはこのダンジョンに挑んでいる全ての冒険者達を危険にさらしたんだ。その罪は絶対につぐなってもらわなければならないだろう。


「さて、先を急ごう。ビーンが吸血女王ヴァンパイアクイーンに勝てるとは思えないが、これ以上ここで好き勝手やらせるわけにはいかねぇ」

 疲れた身体に鞭打つように立ち上がり、ミカとキュプロの手を取る。
 大丈夫。俺達はこの日の為に準備をしてきたんだ。あんな卑怯な奴なんかに負けないさ。


 ◇

 ※ビーン視点


「嘘だろ……なんでこんな所に……」
「ちょっとビーン!? こんなの聞いてないわよ!!」
「ど、どうするの? 私達じゃあんなバケモノ、勝てっこないわよぉ!!」

 目の前に現れた。その姿を見た俺様達は一様にして、絶望の表情を浮かべていた。


「剣聖ヴァニラ……そんな、どうして……」

 アイツらを犠牲にして時間を稼ぎ、ようやく最深部に辿り着いた。後少しで俺様も国選に……と思ったのに、現れたダンジョンボスはまさかのモンスター……否、人間だった。

 しかもただの人間なんかじゃない。
 この銀髪、幼い容姿から発せられているとは思えない殺気。どういうわけか剣ではなくチェーンを纏ってはいるが、間違いない。この女はこの国最強の冒険者、剣聖だ。


「魔天に続き、最近は剣聖まで姿を見せていないと聞いてはいたが……クソッ、使えねぇ情報屋め。そんなこと、ひと言も言ってなかったじゃねぇか。やはり教会の情報屋は信用ならねぇな!」

 冒険者にとって大事なのは、なにも腕っぷしだけじゃねぇ。ありとあらゆる情報が武器になり得るんだ。どんなくだらねぇ情報だって、時には自分の身を救うことだってある。

 ……あんまり認めたくはねぇ話だが。
 国選や上級の冒険者と比べると、俺様はそこまで強くねぇ。その代わり、情報を操る術に関しては誰にも負けるつもりはなかった。

 俺様よりも強い冒険者を情報戦で出し抜くこともあれば、有益な情報を商人より先に手に入れて、大金で売りつけてやったこともあった。
 中には俺様を卑怯者呼ばわりする奴もいるが、そんな馬鹿に限って情報に踊らされ、思わぬ落とし穴に引っ掛かって死んでいった。

 ……そうだ。情報さえあれば、格上にも勝てるんだ。賢い俺様は莫大な金で優秀な装備や人材を集め、実力以上の成果を上げてきた。今なら国選ミカにだって、手が届くはずなんだ!!

 だが……クソッ。このダンジョンは何かが変だ。こんな情報は――


「に、逃げようよビーン!!」
「うるせぇ!! 黙って戦闘の準備をしやがれ! お前らにも払った金の分は働いてもらうぜ!」
「そ、そんなぁ……」

「この為にクソ教会にまで莫大ばくだいな金を……こっちはもう、己の全てを賭けたんだぜ。今さら逃げられるかってんだ……!!」


 気に入らねぇ教会を頼ってまで、高ぇ金で仲間と情報を買ったんだ。相手が何だろうと関係ねぇんだよ。

 それに俺様には、あらゆる攻撃を防ぐ最高の黄金鎧がある。コイツがある限り、俺様は絶対に負けるわけがねぇ!!


「――おい、剣聖サマよ。俺様の野望の為にも、その首はいただいていくぜ……!!」
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