世界最強アンデッドだけど引き篭もりたい!なのに聖女が俺を昇天させようと狙ってくるんだが!?

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第35話 中ボスラッシュをする羽目になった三人の話

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「くっそ、あの金メッキ野郎がぁああ!!」

 岩の壁に囲まれたフロアに、恨みのもった叫びが木霊《こだま》する。

 ダンジョン内でそんな大声を上げれば、モンスターを引き寄せてしまう。だが、今はそんな場合では無かった。
 隣りに居るミカとキュプロは息も絶え絶えの状態。俺に文句を言う余裕もない。

 それに引き寄せるも何も、敵の大群は既に迫っているのだから――


『『ギャギャガガアァッ!!』』

 三つ首の豚、巨大な蟻、手足のついたスイカ……大小さまざまなモンスター達が鳴き声の合唱アンサンブルをしながら、獲物である俺達に向けて猛ダッシュをしている。

 俺達3人に逃げ場はない。なぜなら、部屋のすみに追い込まれてしまっているからだ。壁に背を向け、正面からやって来ようとしている者達を待ち構えている。


「ジャトレさんっ! 次来ましたよ!!」
「くっ、俺が引き寄せる! キュプロっ、そっちは!?」
「き、きひっ……じゅ、準備できたよぉ」
「よしっ。今だ、やってくれ!!」
「りょ、了解~!! 『威神伝針いしんでんしん』!!」


 キュプロが金属棒を振り上げた瞬間。薄暗かった部屋にまばゆい閃光が走る。

『ギャゴァアアッ!!』

 さすがは神の御業みわざを真似た技だ。出入り口にウジャウジャと溜まっていたモンスター達を、たった一撃で黒く丸焦げにしていく。

 しかし――


「ちっ、キリがねぇ!!」
「私が一度押し返しますっ! 疾風封塵エアーダスト!」

 黒い壁となった残骸もあっという間に後続に破壊され、新たな顔ぶれのモンスター達が再び襲い来る。それを今度はミカが風の魔法で押し返していった。


「はあっ、はあっ……」
「大丈夫か2人とも!?」
「はいっ!」「う、うぅん……」

 2人とも高威力の遠距離攻撃を放つことができる。だがそれも無限に、というわけにはいかない。合間で俺が間引きをして時間を稼いでいるが、そろそろ体力の限界が訪れようとしていた。


「クソッ、途中まで順調だったのに……!」

 こんな危機的状況に陥っちまった全ての原因。それはあの金ぴか野郎、ビーンの所為せいだった――。


 ◇

 さかのぼること数十分前。
 俺達3人は中ボスの出現する部屋へやって来ていた。


「ふむ。やっぱり前に来た時よりもモンスターのレベルが上がっていたな……」

 道中で出逢ったのはどれも、筋肉熊マッシヴベアみたいな中級以上のモンスターばかりだった。

 前回は中ボスとして出てきていたレベルなのだから、やはり俺たちが撤退した後に上級ダンジョンに進化したみたいだ。
 最初からそんな奴らがポンポン出て来たら、進化前の俺はあっという間にひねり潰されていただろう。


「それでもジャトレさんとキュプロさんのお陰で、ここまで楽に来れたじゃないですか!」
「まぁな……」
「ボクは結構ヒヤヒヤだったけどねぇ~」

 キュプロは謙遜しているが、俺はミカの意見に賛成だ。
 新装備である腕輪のお陰で、防御に回す分の労力がだいぶ軽減された。俺が進化して火力が上がったって理由もあるが、やはり防御面の不安が解消されたのは大きい。

 2人とも攻撃は強力なものの、詠唱や準備が必要だからどうしたって固定砲台になってしまう。
 つまり、向こうからすれば良いまとなのだ。その分のフォローが不要になったお陰で、連携がかなり楽になった。

 あの街の墓場ダンジョンでキュプロと出逢えた俺たちは、マジでラッキーだったぜ……。


「そういえばこの部屋の中ボスが出てこないな? 場所が変わったのか?」

 俺達がこの部屋に入ったというのに、一向にモンスターが出てこない。
 ……というより、呼び出すための神像が見当たらないのだ。

 来た道を見ても、他に分かれ道があったとも思えない。途中ですれ違った冒険者も居なかったしな。

 先へと進む道はあるから、無視して先へ進むこともできるのだが……。

「「「……うーん?」」」

 思わず俺たちは互いの顔を見合わせ、首をかしげてしまった。


「まさか、部屋の模様替えじゃないんですからそんなことは……」
「ボク達の前に行ったパーティが倒していった直後とかって可能性はないのかい?」
「いや、そんなことは無いと思うが……ん?」

 一応確認しようとして、先へ進む方の出口へと振り返る。すると、部屋の出口がやたらまぶしいことに気が付いた。


「よぉ、ミカ。どうやらお困りのようだなぁ?」

 光の発生源は出口の中央でたたずんでいた男。ダンジョン内に似つかわしくない、黄金色の輝きを放つ奇妙な……あぁ、いや。そんな奴はあのビーンしか居ないわけだが。

 しかしこの男がここにいるのは明らかにオカシイ。なにしろコイツは、俺たちよりもずっと前にダンジョンへ潜っていたはずなのだ。なにか理由でもない限り、こんな場所にいるはずがない。


「ビーン!? どうしてここに!!」
「お、おい。アイツの右手に持っているアレって……」
「うわぁ。なんだかボク、すっごく嫌な予感がするよぉ~」

 ニヤニヤとこちらを見ていたビーンの手には、この部屋に鎮座していたはずの神像の頭が握られていた。

 マジかアイツ!?
 とんでもないことをやらかしやがった!!


「おっと、気付いちまったか? いやぁ、悪い悪い。ついウッカリ壊しちまってよぉ」

「ウッカリじゃ済まねぇぞビーン!! お前、それを壊したらどうなるか分かってねぇのか!?」

「ガーガーうるせぇなぁ。分かってるよ。モンスターがなく湧いてくる爆発災害アウトブレイクが起きるんだろ? だから悪ぃって言ってるじゃねぇか」

「ビーン、貴方って人は……!!」


 傍若無人ぼうじゃくぶじんでやりたい放題なイメージがある冒険者だが、最低限のルールは絶対に守っている。
 仲間殺し、阿漕あこぎの人間に手を出さない、酒場を壊さない……そういったいくつかの禁忌タブーと言われる行為。それを犯せば冒険者仲間から袋叩きにあうか、最悪の場合は死をもっつぐなうことになるのだ。

 そんな禁忌の中でも、トップクラスにヤバいのがこの爆発災害アウトブレイクだった。
 ダンジョン内でそれが一度ひとたび起こってしまうと、中ボスクラスのモンスターが無数に飛び出してくるようになるのだ。

 更には普通ならこの部屋から出ることのないモンスターも、檻から出た獣のようにダンジョン中を駆け巡るようになる。端的に言って、今から起きるであろうことは最悪な事態だ。


「ククク。それじゃあ俺は先を急ぐんでな。この辺で失礼するぜ」

 ビーンは自分がやらかしたことを全く理解していないのか、神像の破片を俺たちの方へポーンと投げ込んだ。その衝撃で、美しい顔の女神が無残にも粉々になってしまう。


「――っ!? マズい……!!」

 途端、部屋が異様な圧に包まれた。まるで神の怒りに触れてしまったかのような、身体の芯が震えるような恐ろしい感覚だ。
 おそらく、これはもう手遅れなのだろう。間もなく、この部屋に大量のモンスターが現れる。

 だが原因となった人物はまるで気にした様子もなく、俺達に背を向けて歩き出した。


「お、おい。待て……ちっ、もう来やがった!!」

 慌てて引き留めようとするも、1体目のモンスターが現れて俺の行く先をはばむ。


「あぁ、クソ。しかもなんで狙いが俺達なんだよ。神像を壊したのはアイツだろうが!」

 慌ただしく戦闘の準備を始めた俺たちを嘲笑あざわらうかのように、あのクソ野郎は手を振っている。


「あぁ、そうだ。忘れてたわ」

 ――と、ビーンは急にピタリと足を止め、頭だけでこちらを振り向いた。


「俺様が無事に帰還した時には、お前らのことを『元国選たちがこうを焦って神像を壊し、その後始末をして死んだ』って伝えといてやるからよ。安心してモンスターに食われてくれや。クハハハッ!!」
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