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第32話 亡者と宝剣の真価を見せる話
しおりを挟む俺は今、単身でダンジョンボスと対峙していた。ここまで一緒に居たミカとキュプロには、後方に控えてもらっている。
「よぉ、ゾンビの王様。前に会った時は随分と俺を弄んでくれたよなぁ? 今回はあの時の借りをキッチリ返しに来たぜ」
『――ガァアアアアアッ!!』
既に奴の上半身は地上へと這い出しており、俺のことを睨みながら雄叫びを上げている。
雰囲気でつい「借りを返す」なんて言っちまったが、コイツはダンジョンボスとして召喚されているだけだ。挑戦者を排除する以外の知性なんて存在していないだろう。
そもそも、前回倒した奴とは個体が違うかもしれない。つまりこれは俺の完全な八つ当たりなのだが……まぁそんな話はどうでも良いか。
「早くやっちまわないと、余計に時間が掛かりそうだしな」
奴の周りに見えるのは、数えるのも億劫になるほどの雑魚ゾンビたち。まるで砂糖にわらわらと群がる虫のようだ。
それも際限なく次から次へと湧いている。早く大元を倒さないと、もっと厄介なことになるに違いない。余裕ぶっていないで、さっさと倒しちまおう。
前回は何も見せ場もなく囚われの姫状態になっちまったしな……ちゃんと良い所を見せねぇと恥かいちまう。
それに今の俺には、ミカの聖なる魔力で作られた光の盾がある。
「はははっ。誰かに護られてるってのも、不思議と嫌な気分じゃねぇな……」
お陰で俺はロイヤルゾンビに支配されることもなく、こうして理性を保っていられる。
苦労して腕輪を作ってくれたキュプロには、後でまた感謝を伝えなくっちゃな。
「あとはどう攻略するかだが……」
問題は相手の物量の多さだ。
奴の身体は無数のゾンビたちが覆っている。ただ破壊するだけじゃ、次が補充されて一瞬で元に戻っちまうだろう。それは俺自身が再生能力持ちだということもあって、あの厄介さは良く分かる。
あれではまるで、動くゾンビの鎧だ。
ここはやはり――。
「ジャトレ君! 君の持っているクロスペンダントに魔力を籠《こ》めるんだ!」
「分かった!!」
使い方は腕輪と同じ。
首に掛けた十字架のアクセサリーを握りしめ、闇魔法の魔力をぶち込むだけ。
「くっ、腕輪の比じゃない量の魔力が持ってかれるな……おおっ!?」
一定の魔力が溜まったからだろうか。
ペンダントから黒い靄が発生し、俺の身体を薄く纏い始める。
「な、なんだ? この溢れ出る力は……!?」
「それは本来、闇を祓《はら》い、光の力を強めるアクセサリーだっただろう? それをボクが属性を反転させ、ジャトレ君の力を増幅できるようにしたんだよ」
「す、すげぇ!! 武器を握っていても、全く平気になったぞ?」
アンデッドになったせいで長時間持つことができなかった、付与宝剣。この宝剣も、今ではすんなりと手に馴染む。
ククク、俺の相棒がようやく戻って来やがった。これなら、もしかしたら……!!
「覚悟しやがれゾンビ共。もう今までの俺だと思うなよ?」
俺は自分の身体だけじゃなく、宝剣にも黒の靄を纏わせてみる。
――よし、成功だ。剣が反応し、ボンヤリと刀身が光り始めた。
宝剣、月光の旋律。
その名の由来の通り、闇夜に浮かぶ月のような神秘的な光だ。
エンチャントの発動の合図を確認した俺は、ゾンビたちに向かって駆けだした。
『ガアアァアァッ!!』
闇の眷属であるゾンビ共は付与宝剣の放つ光に怯《おび》え、威圧の咆哮《ほうこう》を上げている。
だが俺はそんな雑魚の遠吠えになんてビビったりはしない。
『グギャッ!!』
――銀光の一閃。
横一文字に剣を振るえば、ノーマルゾンビの腹に光が走る。身体が上下に泣き別れになり、自重でズレて地面にベチャリとこぼれ落ちた。
「まだまだっ!!」
俺は休むことなく、更に隣りの個体へと連撃を重ねていく。
袈裟懸け、突き、逆袈裟。
どう斬っても、しっかりと手応えを感じる。
あぁ、この感覚が懐かしい。切れ味も最高だ。ノーマルもリーダーゾンビも全て一刀両断に切り捨てられる。
奴らも必死で俺に対抗しようとするも、攻撃はミカとキュプロの盾に阻まれ、逆にこちらの攻撃で倒される。向こうは防具もマトモに装備していない裸の状態なので、剣筋も殆ど気にしなくて済んだ。
こうなると、俺を止められる者はもはや居ない。生まれ出る数よりも早く切り伏せ、ゾンビ達は次から次へとその数を減らしていく。
そして――
『ゴガァアアアッ!!』
為す術がないのはロイヤルゾンビも同様だった。
王を護るゾンビを減らしたことで、肉の鎧に空間ができた。その隙を逃さず、俺は付与宝剣を滑り込ませる。
『グ、グォアアアッ!!』
「へっ。痛みは無くとも、腕が無くなったことぐらいは分かるだろう?」
ゾンビの鎧が修復されるのは、頭や胴といった急所らしき部分が優先されていた。
だから俺はまず、奴の右腕を落としてやった。そしてお次は左の腕。下半身はまだ地面の中だから……くははっ、今度はそのご大層な王冠を被った頭にしようか。
『ゴギュッ、ゴギギギ……!!』
「あー、修復しようと思っても無駄だぜ? ――俺が喰っちまったからな」
宝剣の特性は何も切れ味を上昇させるだけではない。コイツの本来の力、それは斬った相手を奪うという特殊な能力だ。
雑魚ゾンビ共を倒している時から、俺はコイツらを片っ端から喰って自分の力にしていた。自身を満たしていく力の奔流《ほんりゅう》に、俺はもう口角が上がりっぱなしだ。
こうしている間にも、俺は敵の全てを喰らい続ける。文字通り打つ手のないロイヤルゾンビは抵抗すらできていない。
「――なんだ、もう終わりか?」
ダンジョンの主は観念してしまったのか、闇の空間しかない眼窩を俺に向けて最期の時を待っている。
「じゃあな、王様。お前の経験値ごと、俺が全部奪ってやる」
ズンッという手応え。
確かなトドメの感触と共に、俺は自分の種族レベルが更に高みへと上がったことを感じていた。
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