世界最強アンデッドだけど引き篭もりたい!なのに聖女が俺を昇天させようと狙ってくるんだが!?

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第25話 オスカー教会に侵入するアンデッドの話

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 ここリーザルは、ミカの所属するオスカー教会の総本山があることで有名な街だ。
 街全体がこの教会の統治下にあり、住人の大半がオスカー教の信者である。

 街の中心には大聖堂がデーンと建っていて、信者はそこで毎日祈りを捧げている……らしいのだが。


「うーん、宗教かぁ。今まで神の存在なんて感じたこともねぇしなぁ」

 俺は目の前にそびえ立つ巨大な大聖堂を見上げながら、そんな不遜な事を呟いていた。

 日は既に落ち、夜の帳が降りている。
 大聖堂はかがり火に照らされて、不思議な神々しさを漂わせていた。


「この中に教皇も住んでいるのかねぇ。ミカは実際に会ったことがあるみたいだが。うぅん、いったいどんな奴なんだか……」

 信者たちの噂じゃ、教皇は100年以上も生きているだとか、奇跡を起こせる神の使徒だなんて言われているらしい。
 その話が本当だとしたら、絶対にソイツは人間なんかじゃない。

 どちらにせよ、絶対に近寄りたくないたぐいの存在である。


 そもそも、今の俺はアンデッドだしなー。
 浄化魔法を使う輩は、俺にとって最も避けなければならない相手だ。

 ――あぁ、うん。
 じゃあ何でこんな場所に、自分からノコノコとやってきたのかって話だよな……。


「俺だって用が無きゃ一生来なかったぜ、こんな場所。でもミカの為には必要だってんだから、仕方がない……」

 
 キュプロにお願いしたミカの新装備。
 製造にどうしても必要なモノが、この大聖堂にあるというのだ。


 ……はぁ。どうしてミカの為に俺がここまでしているんだろう。

 金のため?
 いや、たしかに初めはそうだったはずだ。

 俺の呪いを解くのに、ミカと協力する必要があった。

 だから俺はアイツの為に……


「しかも寄りよって必要なのが、オスカー聖水ねぇ。これまた随分と胡散臭いネーミングだこと……」

 数ある宗教の中でも、オスカー教会が最も多くの信者を抱えている。
 その最大の理由が、このオスカー聖水と呼ばれるアイテムの存在である。

 回復効果や弱い浄化の力を持つこのアイテム。ダンジョン以外で、そんな癒しの効果を持った便利なアイテムは出てこない。

 つまり病気やケガを治療しようと思ったら、このオスカー聖水を頼るのが一般的なのだ。
 だから一般人だけでなく、荒くれ者が多い冒険者でさえこのオスカー教の信者であることが多い。


「名前は兎も角、ダンジョンから生まれるっつーんなら信用はできるけどな」

 大理石で造られたような見た目の、汚れ一つない真っ白な大聖堂。
 信者が寄進した金で建てたのかと思いきや、そうじゃないらしい。

 実はこれ、ダンジョンなんだそうだ。

 ただダンジョンと言っても、モンスターは出現しない。
 ただ聖水が湧き出る泉があるだけで、害は全くないという。

 そんな非常に珍しいダンジョンなのだが……それを聖域として住んでいる教会の連中って、本当に変わってるよな……。


 おっと、そんなどうでも良い事を考えてる場合じゃなかった。


「問題は、聖水をどう入手するかなんだよなぁ」

 困ったことに、キュプロが必要だと言っていた量の聖水を手に入れるのはかなり難しい。

『ジャトレ君。キミには、樽1個分の聖水を持って来てほしいんだ』
『聖水を? それを買ってくればいいのか?』
『いや、信者には1日にコップ1杯分ぐらいしか売らない決まりなんだ。だから……』
『おいおい。まさか俺に奪って来いって言うんじゃねぇだろうな!?』

 ニヤァと悪い笑みを浮かべるキュプロ。それに対し、俺の顔は引き攣りっぱなしだった。

 無茶なことを簡単に言ってくれたぜ、ホント。もし教会の関係者にバレたら、怒られるだけじゃ済まないんだぞ!?


「だいたい、なんで売る量に制限なんて掛けてるんだよ。どうせ定期的に信者を来させるのが目的だろ……ケチな宗教だぜ、まったく」

 とてもじゃないが、信者の列に並んで毎日チマチマと買ってなんかいられない。
 つまり、マトモな方法じゃ無理だってこった。


「――はぁ。いつまでも愚痴っていてもしょうがないか。行こう……」

 仕方なく、俺は素直に(?)大聖堂へと忍び込むことにした。

 こうして夜になるのを待ち。大聖堂の中に居る信者が最も少なくなった時間を狙う。
 正面の扉は既に施錠されてしまっているが、俺には何の問題も無い。

 使い慣れた道具を使い、2階の窓の錠を開けて侵入した。
 ダンジョン自体はどうやっても破壊できないが、居住部分の後から設置した窓なら話は別だ。


「ここは司教の執務室か? 本が多いな……」

 部屋の中に入り、グルリと中を見渡してみる。

 壁いっぱいに本の詰まった棚が並べられ、机の上には沢山の書類が積み上げられていた。
 他のインテリアも随分と質の良さそうなモノばかりだ。

 ふむ、俺の屋敷に欲しいくらいだな。


「さて、と。司教クラスならもしかしたらここに住んでいるかもしれない。見つかる前にさっさと聖水が湧き出る泉に向かおう」

 事前に調べた情報によると、礼拝堂に置かれている神像のところに泉はあるらしい。

 そっとドアを開き、暗闇が広がる廊下に出る。

「……なんだ? 誰かいるのか?」

 気配を消し、下に降りる階段を見付けたところで、人の話し声が聞こえた。
 どうやら階下に教会の人間が居るようだ。

 こんな遅い時間に?
 誰かが密会でもしているのか?


「(……ん? おいおい。なんでアイツがここに居るんだよ!?)」


 声の主を確かめようと、壁際から覗き見た俺は心中で驚きの声をあげる。

 俺の視界に映っていた人物。
 それは司教と怪しげな会話をしている、聖女ミカだった。
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