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第18話 マッドサイエンティストの興味が金の亡者にいく話
しおりを挟むキュプロはおもむろに腰元に手をやった。
そしてベルトに括り付けられていた宝玉を外し、俺たちに見せてくれた。
「ボクも宝玉についてはあまり詳しいことは知らない。なにせ専門外だからね」
彼女の宝玉は緑色だった。
玉の中ではオレンジ色の竜巻がグルグルと渦巻いている。
色も中身も違うが、やはり俺たちと同じ呪いの宝玉のようだ。
それを手のひらの上で転がしながら、キュプロは話を続ける。
「個人的な伝手を使って調べたんだけどねぇ。今までこのような宝玉がダンジョンで見付かった、という例は幾つかあった」
ほう? それは俺も知らなかった情報だな。
ミカの方を見ると、首を横に振っていた。
どうやら元国選の冒険者でも、そんな話は知らないらしい。
「くひひひ。まぁあまり表には出せないネタだからねぇ~。で、ボクもすぐさま宝玉を使ってみたのさぁ」
宝玉の輝きに反射して、アイツの目が怪しく光る。
コイツは研究者というよりも、物語に出てくる悪い魔女みたいだな……。
「で? お前は何を願ったんだ?……まぁだいたいの予想はつくが」
「きひひひ。いいねぇ~、ミカ君に次いでジャトレ君も話が分かる」
「お世辞はいいから、早く言えって」
一々話がなげぇんだよ、お前は。
お喋り大好きかよ。
「もちろん、ボクは神鳴りについて願ったよ。『神鳴りをもっと知りたい。あわよくばボクにもその力を使わせてくれ』ってね」
マジかよ。
随分と強欲なお願い事をしたもんだ。
アレは神のみぞ行える御業だ。
それをあろうことか、人間である自分が使いたいだって?
力の一端だろうが、なんだろうが。
この女、自分が神になりたいと願ったも同然だぞ?
「あぁ、認めるよ。ボクは究極の馬鹿だった。たしかに勉強は人よりも何倍もできる。だけどボクは、やって良い事としてはいけないことの分別がどうしても苦手なんだ。そして願いの代償は……ボクにとって、とても重いものだった」
キュプロは眉を下げ、少し悲しげな表情を浮かべた。
そして腰元にあった金属棒を2本取り出し、スッと目を閉じた。
「おい、キュプロ。なにをするつもりだ……?」
――バチバチバチッ!!
「きゃあっ?」
突然の破裂音にミカが驚きの声をあげた。
俺も反射的に剣を振るいそうになる。
「ま、マジかよ……」
「まさか、本当に……」
二人揃って口があんぐりと開いている。
だが目の前で起きているものを見れば、それも当然だ。
キュプロの持つ、何の変哲もない2本の金属棒。
その棒の間をバチバチと音を立てながら、小さな神鳴りがそこに存在していたのだ。
「これがボクの得た能力。『威神電針』という、極小規模の神鳴りを発生させることができるんだ」
神にしかできないはずの業であると言った手前、目の前で起きていても俄かには信じがたい。
それほどまでにこれは衝撃的な行為なのだ。
「くひひ、凄いだろぅ?……でもね。神鳴りというのは、人間の脳に多大な悪影響を及ぼすみたいなんだ」
「やはり、呪いがあったのか」
「そうなんだ。お陰でボクは、記憶という重すぎる代償を払うことになってしまった……」
記憶の代償……!?
まさか、使う度に記憶を失っていくということか!?
「……はぁ。本当にこれには困らされてしまってね。神鳴りの研究をする度に、ボクはその研究の内容を忘れてしまうんだ。きひひ……滑稽だろう?」
「いや……そんなことは」
「キュプロさん、貴女って人は……」
そんなの、ちっとも笑えねぇよ。
俺も……そしてミカだってその苦しみは痛いほど分かる。
「だからボクはこうして、ダンジョンに再び潜ることにした。この世のどこかに、脳をも再生させる神薬のレシピがあるはずなんだ」
「神薬って、あの伝説のか!?」
「そうさ。ボクはどうしても神鳴りの研究を完成させなければならない。ボクを除け者にし、夢を馬鹿にした研究所の奴らを見返してやりたいんだ。この研究さえ完成すれば、ボクは……!!」
そうか……。
コイツも譲れないものがあるんだろう。
たとえ、命の危険があったとしても。
「それにモンスター相手なら、存分にこの力を振るえるっていう理由もあるんだけどね! くひひひ」
「おい……」
「うわぁ。モンスターって選択肢が無ければ、確実に人間相手に能力使ってましたよこの人……」
俺もミカと同意見だ。
つまりコイツは、このダンジョンのゾンビを実験体にしていたってことだろ? あの『威神電針』を使って。
……ん?
でもひとりじゃゾンビは手に負えない。コイツはそう言ってなかったか?
「まさか、お前。新ダンジョンから逃げ返ってきた本当の理由って……」
「き、きひひ。その通りだよぉ。能力を使い過ぎて、行きも帰りも道を忘れてしまったんだ……」
馬鹿だ……!!
コイツ、本物の馬鹿だった!!
「いや、アンデッドが手に負えないってのも本当だったんだよ? ボクが持っているこの金属棒は貴重な鉱石を錬金術で創り上げたもので、たった2本しかないんだ。だから大量のモンスター相手にはどうしても不利なんだよね」
キュプロはそういうと、通路の影から飛び出してきたリーダーゾンビに向かって持っていた金属棒を投擲した。
『グギャッ!?』
先端が尖っていたため、そのまま金属棒はゾンビに突き刺さる。
だがそれだけでは痛覚の無い奴らにはあまり効果が無い。
「見ててねぇ~。『威神電針』!!」
『――ゴギャッ!!』
轟くバチィッという破裂音が轟く。
残っていたキュプロの右手の金属棒から、まばゆい閃光が走る。
そして瞬きをする間もなく、棒の刺さったゾンビが爆発四散した。
「「……」」
ビチャビチャという何かが飛び散る嫌な音を聞きながら、俺とミカは立ち尽くす。
……これはすげぇ。
たしかに攻撃するまでが手間だが、威力は間違いない。大魔法をぶっ放せるミカでさえ、目を真ん丸にしている。
「どうだい? 凄い威力だろう?」
「あぁ。範囲は狭いが、まさにあの神鳴りみたいだったな」
「……なんだか私、神鳴りに興味が湧いてきちゃいました」
あ、ミカの目が獲物を狙う目に変わった。
「くふふ。まぁこれぐらいはね。それより、今度はキミ達の番だよ。ジャトレ君、キミは神の宝玉に何を願ったんだい?」
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