17 / 57
第17話 奇妙な女研究者と宝玉の話
しおりを挟む「ビリビリ……ってなんだ?」
新ダンジョンへと続くフロアで出逢ったキュプロという女。
白衣と眼鏡を纏ったコイツは自身を研究者と名乗り、ここであるモノを探しているという。
「あぁ。キミたちも冬の寒い日なんかに、ビリビリを経験したことが無いかい?」
「冬の……」
「寒い日に?」
俺とミカはお互いに顔を見合わせる。
冬にビリビリ?……って、あぁ。あの事か?
「服を脱いだり、何かに触った時に感じるアレか?」
「そう、ソレだよ! あとは激しい雨の日。天より轟くあの爆音と光。アレもきっとビリビリの一種なのさ!!」
キュプロの言っているのは神鳴りだ。
でもこれってたしか……。
「アレは神の怒りだって教会では言ってますけど……」
「そうだよな。悪いことをすると、神様が怒って天罰を~ってやつだろ?」
よく親が子供を躾ける時に言う、決まり文句みたいなモンだ。
いちおうは教会の聖女であるミカも、そこで習ったのだろう。
実際に神鳴りの威力は凄まじく、直撃したものは人でも建物でも関係なく破壊する。
畏れの対象としては俺ですら信じている現象のひとつだな。
「ボクはアレを幼い時に間近で目撃してね。それ以来、あの神鳴りに取りつかれてしまったんだ」
「神鳴りに取りつかれた……?」
「そうなんだよぉ。あの神々しい光。瞬きの間に全てを蹂躙する力……ボクはアレに痺れてしまったんだ」
思い出して陶酔に浸っているキュプロを見て、俺とミカは再度顔を見合わせた。
なんだろう、すごく変態な匂いがする。
方向性は違えど、コイツも俺たちと同じなのかもしれない。
「以来ボクは、神鳴りについての研究に没頭したのさ。まぁこれは歩きながらでも話そうか」
「は? 歩くってどこを?」
「この先のダンジョンさ。大丈夫。キミ達ならアンデッドがどれだけ出たって、簡単に倒してしまうだろう? なにせここには、聖女サマが居るんだしさ~」
いや……それはそうなんだが。
まだ俺たちはこの女を信用したわけじゃないぞ?
今だって、コイツとはさっさとサヨナラしたいと思っているぐらいだ。
「仕方がないですね。どうせ私たちだけで先を進んでも、この人は勝手に後からついてきそうですし」
「お、おいミカ!?」
「くひひひっ! いいね、良く分かってるじゃないかキミ~!!」
勝手についてくるって本気かよ!?
お、俺は嫌だぞ!?
こういう奴に限って、後で何か大変なことをしでかすタイプなんだ。
そもそも、財宝を見付けたらどうするんだ?
分け前が減っちまうなんて、俺は絶対に御免だぜ。
「大丈夫ですよ、ジャトレさん。どうせこの人は研究以外に興味なんてないですよ。むしろ協力だけさせて、タダ働きしてもらいましょう」
「ひぃ~っひっひ!! 凄いよ、正解だ!! まさか初対面でそこまでボクのことを理解してくれるなんてね!」
キュプロは魔女みたいな笑い声を上げながら、ミカを褒めそやす。
ミカも思わず苦笑いを浮かべている。
「ってことはお前。本当にダンジョンの報酬は要らないって言うのか?」
「いいよいいよ!! ボクの目当てのモノはお金や宝石なんかじゃないからね。見つけたものは全部、キミたちが持っていってくれたまえ!」
えぇ……本当かよ。
金の亡者な俺からしたら、到底信じられない考えなんだが。
「ほらぁ~、ボクは丸腰だろう? キミ達の寝首を掻こうだなんて、とうてい不可能さ」
「こう言ってますし。私がアンデッドの相手をしますから、ジャトレさんはこの人から目を離さなければ大丈夫ですよ」
……はぁ、仕方ない。
そういうことなら同行を許してやるか。
だがミカはどうしてそこまで、キュプロを一緒に連れて行きたがっているんだ?
若干の疑問は残るものの、俺たちは結局この女を引き連れて新ダンジョンへと潜ることにした。
◇
どうやら新ダンジョンは古い石造りをした迷宮のようだった。
両手を広げられるほどの幅がある通路をミカ、キュプロ、俺の順番で歩いていく。
「それで? さっきの続きを話してくれよ」
何かあればいつでも切り伏せられるように剣を抜いたまま、俺は前に居る白衣の女に話し掛ける。
ミカはああ言ったものの、情報は多いに越したことはない。
何か話に矛盾点があればコイツを糾弾できるしな。
「んん~? キミも神鳴りに興味があるのかい!? いいとも。ボクの研究について詳しく教えてあげよう」
興味深げに周りを観察しながら歩いていたキュプロは、壁に触れながらそう答えた。
自身の研究に興味を持ってもらえたのが嬉しいんだろう。とても楽しそうに語り出した。
「神鳴りを研究対象としたまでは良かったんだけどねぇ。アレはいろんな条件が揃わないとちっとも起きなかったんだ。ボクが14歳の時に研究を初めてから10年が経ったけど、結局一度もマトモに観測できていない」
そりゃあ、そうだろうな。
いくら雨の日に待っていたって、狙った場所に落ちるもんでもないし。
「雨の日に死刑囚を柱に縛り付けて放置したり、そいつに神に祈りを捧げさせたりもしたんだけどねぇ。全くの成果無しさ」
「その罪人も可愛そうになぁ。風邪ひいちまいそうだ」
「ははは。そうだねぇ。でもソイツは、ちょっと目を離していた隙に死んでしまったよ。それも、神鳴りに打たれてね」
あの時は自分の運の無さを呪いたくなったね、とキュプロは残念そうな表情を浮かべる。
やっぱりやべぇな、コイツ。
人の命をいったい何だと思ってやがるんだ?
「とまぁ、そんな事をしているとね。研究所の他の連中も、あまり良い顔をしなくって」
「そりゃあ狂人扱いされるだろうな」
「きひひ。それである日、研究所を追い出されてしまってね。それからは自分ひとりで細々とやってきたってわけさ」
うん、俺でも追い出すと思うぜ。
元々研究所はおかしな連中が多いことで有名だろう?
そこでも疎外されるって相当だぞ。
「だからお金も自分で稼がなくっちゃだろぅ? こればっかりは仕方がない。ダンジョンに篭もって日銭を稼ぎながら、コソコソと研究を続けていたんだよぅ」
こんな頭のオカシイ奴でも一応は人間なんだろうしな。そりゃ飯も金も必要にはなるだろう。
「……そしてある日。遂にボクはダンジョンの奥地で、神鳴りを解明するための手掛かりを見つけたんだ!!」
「もしかして、それってお前の腰にある……」
キュプロはこちらを振り返った。
そしてニヤァ、と気味の悪い笑みを浮かべて頷いた。
「やっぱりキミたちも知っていたね。そう、ボクは神の宝玉を手に入れたんだ……!!」
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる