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第16話 新ダンジョンに現れた不審な女と共に冒険をする話
しおりを挟む「おやぁ? 珍しいねぇ。ここでボク以外の人に会うだなんて」
新ダンジョンへ続く階段を上ってやって来たモノ。
それはモンスターではなかった。
「人間の……女……?」
「油断しないでください、ジャトレさん。モンスターが化けている可能性もありますよ」
あぁ、うん。
ミカの言う通りだ。
たしかに、そのとおりではあるのだが……。
「こんな変わった見た目の人間に、モンスターが化けるのか?」
「……そうですよね」
目の前に突っ立っている女は、あまりにも特徴的過ぎた。
赤縁眼鏡にショートカットの茶髪。
ワインレッドのシャツの上から長い白衣を羽織っている。
……こいつは医者なのか?
少なくとも冒険者には見えない。
だとしてもだ。
どうしてこんな奴がダンジョンに居るんだ?
「んふふふ。正解だよぉ~? こんなところでは警戒するべきだよね~」
ったく、なにが正解だ。
分かってんならもう少しマトモな恰好しろっての。
それにコイツの声、妙に粘ついていて耳がゾワゾワする。
だいたい、警戒すべきと言っている本人は手ぶらじゃねーか。
なのに武器を向けている俺たちをちっとも恐れていない。
最初はただの狂人か?と思ったが、そうでもなさそうだ。
なによりコイツはダンジョンの奥からやってきた。つまり、ここまで独りで来れる実力者ってことだ。
「で? キミ達はどうしてここへ来たんだい? もしかして、この先へ進むつもりなのかい?」
魔法の光球が眩しいのか、目をすぼめながら更にこちらへと近づいて来る。
おいおい、コイツ。軽装どころか、こんな所へハイヒールで来ていたのかよ。
歩くたびに石畳の床がカツカツと鳴っている。
「……ジャトレさん」
「あぁ。コイツも持ってやがるな」
何がかって?
さっきこの怪しい女の装備を確認した時に、アレが見えたんだ。
ミニスカートの腰ベルトに吊るされた、怪しい道具の数々。良く分からない金属棒に手帳、懐中時計……そしてオレンジ色に輝く宝玉。
そう、あの宝玉だ。
「それ以上近付くな。……お前は何者なんだ? そんな形をしといて、まさか冒険者だなんて言わないだろ?」
軽装の俺たちが言うのもなんだが、この女はどうみても普通の冒険者じゃない。
「ん? あぁ、そうだよ? ボクは研究者だからねぇ」
はぁ? 研究者だって……?
いったい何の研究だ?
だいたい研究者なんて、一日中部屋に引き篭もって実験をしているような連中だろうが。
なんで街の外にあるダンジョンに居るんだよ。
「んー、ボクはとあるモノを探していてねぇ。……ところで~、先に質問をしたのはボクの方じゃ無かったかな?」
「(いちいち嫌味くせぇなコイツ)……俺たちはただの新人冒険者だ。ここへは新しいダンジョンの探索に来た」
「ふぅん、新人冒険者ねぇ。そうかぁ……」
俺たちを観察するように目を細める女。
まぁ普通に考えれば俺たちだって怪しい人間だろう。
なにしろ、このダンジョンの情報はまだ一般には広まっていない。
だから新人の冒険者が知っているのは明らかにオカシイし、こんな軽装をしているはずもない。
「新人でここまで来れるなんて、キミ達は優秀なんだねぇ。でもここは危ないよ!? ボクもさっきまで一人で潜っていたけど、あまりにも数が多くてさぁ。泣く泣く引き返してきたところなんだ」
……って信じるのかいっ!?
「ジャトレさん、この人……」
「うーん、俺には分からん! とりあえず敵意は無いみたいだが」
殺意も感じられないし、攻撃をしてくるそぶりも無い。
取り敢えずこちらも警戒を怠らないようにしつつ、研究者の女に近寄る。
もう少しだけ、コイツから情報を集めてみよう。
「俺はジャトレ。隣りのコイツは……」
「こんにちは、私が聖女のミカです。実は私たち、前回ここに訪れていて……」
「その時に偶然、このダンジョンの奥を見付けたんだよな」
「今回は準備を整えて、再チャレンジしようかと思って……」
おーおー。
俺もだが、ミカも良く口からデマカセがスラスラと出るなぁ。
「ふぅん、なるほどなるほど。先にここを見つけていたのは、キミ達の方だったんだねぇ」
この女も割と信じている様子だ。
聖女の肩書きのお陰か?
「あぁ、失礼……ボクの名前はキュプロという。ここへは研究に必要なモノを探しにやって来たんだ」
「研究に必要なモノ、ですか……?」
「そうなんだよぉ!! 聞いてくれないか!? 少し前に、とある宝玉を手に入れてね。そうしたらちょっと困ったことに……」
研究の話になった途端、突然早口で捲し立て始めた。
ていうか早口過ぎて、何を言っているのか全く分からないぞ?
それよりも重要なのは別の点だ。
やはりコイツは宝玉の持ち主だったか。
それも使用済みということは、キュプロも何かの呪いを受けているとみていいだろう。
……今のうちに殺すか?
どう考えても俺たちの邪魔にしかならない。
「ジャトレさん、手を出しちゃ駄目ですよ?」
「……まぁ待て。質問をすれば、どうせ勝手にペラペラしゃべるんだ。もう少し情報を引き出してから判断する」
小声で話し掛けてきたミカにそう答える。
コイツが何者であろうと、宝玉を使用者だというのは確実だ。
であれば、何かしらの情報は引き出しておくべきだろう。
「へぇ、そりゃ災難だったな。ところで、その素晴らしい力っていうのは?」
「ジャトレ君!! ナイスな質問だよぉ~。良くぞ聞いてくれたね!!」
「うおっ!?」
キュプロは喜色満面で俺の両肩を掴んだ。
おいおい、こっちは抜き身の剣持ってんだぞ? 危機感ってのはマジで無いのか!?
「ボクは神の御業について研究していてね」
「神の御業!?」
「そうさ!! もしかしたら、キミ達も寒い日や雨の日にアレを感じたことがあるかもしれないな!!」
……アレ?
なんのことだろう、嵐とかか?
「ボクはね……あのビリビリを解明したいんだ!!」
……ビリビリ?
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