14 / 57
第14話 花屋から得た得た情報から再びダンジョンアタックに向かう話
しおりを挟む「そうですねぇ。死者に手向けるための花なら、丁度良いのがありますよ?」
「墓場、ね。生憎と今まで縁が無かったな。それはどこにある?」
「街の東。人気はありませんが、その分新しく墓標を立てるには丁度いいですよ。少し変わっているバラも咲いているようですし」
売り子の少女は東の方角を指差しながらニコリと笑った。
愛嬌のある仕草だが、見た目で侮ってはいけない。彼女は裏の人間だ。そこらの冒険者よりも実力はあるし、躊躇いなく人を殺せる。
「あの、ジャトレさん……」
「あぁ。悪かったな。ちゃんと説明するよ」
いくら国選の冒険者だったとはいえ、裏の家業をやってる奴らの隠語は分からないもんな。
「墓標は危険度が高い案件、という意味だ。リスクがある分、リターンはでかい。要するに街の東にあるダンジョンはまだ未踏破で、今なら狙い目だってこった」
さすがはこの街トップの情報屋。
俺が提示した条件に合致した場所をピックアップしてくれたんだろう。
変わったバラがある……つまりはモンスターである俺でも使える、特殊な武器がゲットできるかもしれない。
よし、これで情報は十分だろう。
あんまりここに長居すべきじゃないしな。早々に立ち去ろう。
情報料を少女に渡し、「また御贔屓に!」という言葉を背に受けながら再び歩き出す。
一連のやり取りを見ていたミカは呆気に取られている。
しばらく無言で何かを考えていたようだったが、おもむろに口を開いた。
「ジャトレさんって本当は何者なんです? ただの剣士なんかじゃないですよね?」
「んなことねぇよ。俺はただの金の亡者さ。ただ人より、金の稼ぎ方を知っているだけの醜い男だよ」
「……またそんなこと言って。だいたいあの情報料はなんですか。あの売り子さんに渡していたのって、ビーンから奪ったアクセサリーですよね?」
あはは、バレてたか。
ミカの言う通り。
俺があの情報屋に対価として渡したのは、金の装飾品だった。
酒場でミカに気を取られている内に、金ぴか男からちょいっと拝借したものだ。
そうじゃなきゃ、俺があんな無駄な話を大人しく聞くわけがないだろう?
「まったくジャトレさんは……。だったらもっとビーンから奪っておけば良かったのに」
「ぷっ、くくっ……お前も聖女の癖にほんとガメツイ性格してるよな」
「えへへっ。ジャトレさんから移ったのかもしれませんよ?」
「おいおい、人のせいにするなっての」
すかさず俺は嫌味で返す。
だがミカは気にした様子もなく「てへっ☆」と舌を出して誤魔化すのであった。
◇
情報を得た俺たちは一度、帰宅することにした。
今日は準備に充てて、明日からダンジョンアタックをするためだ。
とはいっても、そこまで念入りに用意をするわけではない。
元々俺がダンジョンに行っていた時も革の背負い袋ひとつだけ。
ミカなんて“無償の愛”の呪いがあるから、ほとんど装備もできない。
だから持っていくのは食糧と武器、そして宝玉ぐらいなもんだ。
前回のダンジョンアタックの時より多少食糧が増えた程度。
そんなわけで夕方までに準備はあらかた済ませた。後は明日に向けてしっかりと身体を休めておこう。
「意外と早く終わってしまいましたね~」
「まぁな。他の冒険者だとこうはいかないんだろうが」
一息ついた俺たちは朝と同じように食堂で顔を合わせていた。
思いの外ミカの作った朝食が美味かったので、夕飯も再び御馳走になっている。
今日は魚のポワレだ。この街、レクションのそばを流れる川で獲れた魚を使っている。
「しっかし、魚がこんなに美味いとは思わなかったぜ。いや、ミカの腕が良いんだろうけどよ」
「えへへ。ありがとうございますぅ! やった、また褒めて貰っちゃった!」
俺も別にお世辞で褒めたりなんかしない。
マジで店でも出せるんじゃないかってレベルで美味いのだ。
ちなみに俺は知らなかったのだが。
この魚はレクションの名産だったらしい。
だが今まで俺は調理の手間がかかる魚が嫌いで食べてこなかった。
うーん、なんだか勿体ないことをしてきた気がする。でもなぁ。俺ひとりじゃ絶対に料理なんてしないし。
おそらくミカが居なきゃ味わえなかったな。
……アレ?
強くて容姿も良く、料理までできる。
案外ミカってかなり優良物件なんじゃないか?
「なぁ、ミカ……」
「はい? なんですかジャトレさん」
ミカは丁寧にナイフとフォークを使って魚の骨を除けているところだった。
一旦その手を止め、目をパチクリとさせながら俺を見つめ返した。
「今日は……悪かったな」
「え? なんのことですか??」
「いや、その……本当はさ。ビーンと仲間になった方がミカとしては良かったんじゃねぇかって、ふと思ってな」
あの時は思わず気絶させちまったが……。
ビーンの言うことにだって、たしかに一理ぐらいはあったのだ。
少なくとも、俺と居るよりかはずっと良い。
国選に戻れる可能性だって高かっただろうし。
「ふふふっ。そんなことを気にしていたんですか? もしかして、嫉妬して……」
「んなわけねぇだろうが。俺の大事な相棒を、あんな脳まで金メッキされたような奴に奪われたくないってだけだ!!」
「……ジャトレさんってもしかして、言うことが結構大胆だとか言われません?」
は? なんでだよ。
俺は誰かに奪われるのが嫌なだけ……あれ?
いやいやいや、俺は金の亡者だぜ?
大事なのは金だ。
あくまでもミカは俺が金を稼ぐための道具だ。それを奪われたくなかっただけに違いない。
「ふぅ。ミカが良いならこの話は終わりだ。それより今はダンジョンだもんな。今度こそ成功させて、ガッポリ稼ごうぜ!」
機嫌良さそうにニヤニヤとしているミカはこの際無視だ。
とにかく、明日からのダンジョンアタックは絶対に成功させよう。
残った魚の尻尾を齧りながら、改めて俺はそう決意するのであった。
◇
そして次の日。
俺たちは街の東にあるダンジョンへと来ていた。
ここは古くからある、通称“街の墓場ダンジョン”。
百年ほど前に起きた疫病で街が滅び、そしてダンジョン化した場所だ。
冒険者によって既に何度も攻略され、財宝も出尽くしたとされている。
「たしか発生するモンスターはアンデッドでしたよね……」
「臭いし弱い、そしてドロップ品も旨味が無い。嫌な三拍子が揃っているからな。このダンジョンも随分と廃れちまったようだ」
ダンジョンと言っても、俺たちの目の前に広がっているのは廃墟だ。
モンスターもちらほらと居るのが見えるが……
「何となくモンスターも寂しそうですね」
「まぁ、客が来ないんじゃな……」
俺とは違い、本物のアンデッド……ノーマルゾンビたちが街を徘徊している。
しかしどの個体も覇気が感じられない。
ぼけーっとした表情で、その辺をよたよたと暇そうに歩き回っている。
いや、ゾンビなんだから元々そんなもんなんだろうが。
ただなぁ……。
あれじゃあ何のためにここにいるんだ?って感じだ。
同じモンスターとして同情しそうになっちまうぜ。
だがそんな可哀想なアンデッド共にも朗報だ。
情報をくれた花屋曰く、この街の墓場ダンジョンは進化を遂げたらしい。
なんでも最深部だと思われていたフロアに、更に奥へと続く道が現れたって話だ。
しかもその新しくできたエリアは未攻略だという。
つまりはだぜ?
ダンジョンで一攫千金を狙っている俺たちにとって、これは絶好のチャンスというわけだ。
「ふっふっふ。未攻略のダンジョンなんて初めてだぜ。腕が鳴るな、相棒よ」
「えへへへ。そうですね、ジャトレさん。思いっきり暴れ回っちゃいましょう」
邪悪な笑みを浮かべる金の亡者と強欲な聖女。
これから出逢うであろう宝物を夢見て、仲良く足を踏み入れるのであった。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる