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第6話 進化した亡者が戦闘狂の聖女から逃げだしたくなる話
しおりを挟む「まったく、酷い目に遭ったぜ……」
「ふふ。結局、私が手を貸す必要なんて全然無かったじゃないですか」
「そういうことじゃねぇんだよ……はぁ」
強敵マッシヴベアとの戦闘が終わり、ようやく一息がつけた。
あんな中級ダンジョンに出るようなモンスターが沸いてくるなんて、さすがの俺も思ってもみなかったぜ。
そもそもここは街近くの雑魚ダンジョンだぞ? こんな普通のフロアであんなトラップがあったら、普通の奴は死ぬっつーの。
「お疲れさまでした。はい、どうぞ。水です」
「……いや、俺はアンデッドだから飲食は不要だ。気持ちだけ受け取っとく」
そういってミカが差し出した水筒のコップを断った。
戦闘であれだけ動き回っていても、俺の身体は汗一つ掻いていない。
もちろん、理由なんてモンは知らん。
俺も含め、アンデッド共が飲み食いせずにどうやって動いているのかは謎だ。
まぁおそらく。俺の場合は、あの宝石からエネルギーが来ているのかもしれないが。
「んぐ、んぐ……ぷはあっ! やっぱり教会謹製の聖水は美味しいですねぇ~」
「おい、お前。ソレを今、俺に飲ませようとしていなかったか? こっちはマジで昇天すんだぞ!」
「あはは、ついウッカリですよ~。それに、ジャトレさんは聖水ごときじゃ簡単には死なないでしょう?」
ウッカリで人を殺しかけておいて、なにをケラケラと笑ってるんだコイツは。
たしかにそう容易く死にはしない。だが、浄化の力は結構ダメージを喰らうんだぞ?
身体を走る痛みとはまた違って、魂がこう、締め付けられるような感覚になる。
そんな思いをしてまで、いったい誰が聖水なんか飲むんだっての。
「あ、そうだ。ジャトレさん、おめでとうございます。どうやらさっきの戦闘で、ノーマルゾンビからリーダーゾンビに進化したみたいですよ?」
「進化? 俺がリーダーゾンビに?」
進化ってアレか? モンスターが偶に突然強くなったりする現象の、アレのこと?
そんなこと言われても、自分自身では分からんぞ?
自分の身体を見ても……うーん? やっぱり生前から変わっていない。
「本当ですか? 見た目以外にも変わったところは?」
「見た目以外に? ……そういえば、戦闘が始まる前よりも全身に力が漲っている気がする。もしや、これが進化なのか!?」
ってことはだ。今の俺はモンスターと同じく、進化する身体になっている!?
「恐らくそうみたいですね。私の“貧乏になるほど強くなる呪い”と同じように、ジャトレさんはお金と経験で強くなるみたいです」
ミカは「経験は金にも匹敵するってコトワザがありますしね♪」なんて言っているが、本当にそんなもんなんだろうか?
まぁ確かにノーマルゾンビの時は、生前の俺よりも格段に弱かった。復活できることや耐久性以外はまるで屑みたいなもんだ。ほとんどパワーもスピードもない。
だが……うーん、微妙じゃないか?
リーダーゾンビは下から数えて二番目のランクモンスターだ。だからまだまだ雑魚の部類に入るだろう。
……いや、逆に考えれば、更に強くなれるって事か?
「恐らく、あの中ボスはジャトレさんよりも種族では格上だったのでしょう。今回はそれを倒したので、進化が可能だったのかもしれません。……いいなぁ、私も進化して強くなりたいですぅ」
「おい、そんな目で俺を見るのをやめろ!! お前はモンスターじゃないだろうが。俺を倒したって、進化なんてできねぇぞ!?」
「……本当に残念です」
くっ、コイツは……!!
決して冗談なんかじゃなく、ミカは心底がっかりした表情をしている。
今も杖はしっかりと握られ、いつでも俺を殺せるようにスタンバイしたままだ。
危険を感じた俺はすかさず距離を取り、戦闘の構えを取る。
「む、やっぱりスピードが上がってますね?」
「やめてくれ。こんな事で進化の効果を感じたくはねぇよ」
「……ねぇ、ちょこっとだけ試しに「浄化したら金は渡さねぇぞ!」もうっ、ジャトレさんはつれないですねぇ」
はぁ~、まったく。油断も隙もあったもんじゃねぇ。
少しでも気を抜いたら、いつ後ろからザックリ刺されるか分からん。
「大丈夫ですよぉ~。今のジャトレさんを天国に送るなんて勿体ないこと、私がするはずがないじゃないですかぁ~」
「その言い方だと、その時が来たらアッサリ殺すって言われているようにしか聞こえないんだが?」
「ふふふっ。私はもう、貴方を本当に気に入っているんですよ?……逃がしたりなんて、絶対にさせませんからねぇ~」
「うわ、こわっ」
気に入ったって、そりゃ戦う獲物としてだろうが。
あ~、マジで失敗したな。
コイツを利用して金儲けをしようだなんて、考えるべきじゃなかったぜ。
今回のダンジョンアタックが終わったら、何か理由をつけて教会に送り返すか……?
ルンルン気分で洞窟の中を進んでいくミカを見ながら、どうやってコイツを追い出そうか真剣に悩むのであった。
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