孤児メイドの下剋上。偽聖女に全てを奪われましたが、女嫌いの王子様に溺愛されまして。

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第5章 とあるメイドの初恋

第45話 そのメイド、睨まれる。

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「グリフィス家は戦争を起こそうとしているのかもしれない」

 ジークは私たちにそう告げたあと、難しい顔をしながら腕を組んだ。

 謁見の間に重苦しい空気が漂う。ここに居るのは玉座のゼロムス国王陛下と、その隣に立つ第一王子のアモンさん。そして第二王子のジークと……ただの平民メイドである私。

 用意してもらったドレスだって何だかぎこちないし、私一人だけ随分と場違いな気もするんだけれど……。

 だけどそんなことを気にしているのは、どうやら私だけ。他の三人は真剣な表情をして話し合っている。

 なんせ今、目の前では一国の未来を決める大事件が起きているのだから。
 ジークが言ったことがどこまで当たっているのかはまだ分からないけど、もし本当に戦争になったらこの国は大変なことになってしまうだろう。


「グリフィス家の狙いはおそらく、このアレクサンドロス王国で偽金貨を使って大量の物資を購入し、それをグラン共和国で売りさばくことだろう」
「アモン兄上の言う通り。多少安く融通すればグラン共和国に恩を売ることもできるしね。戦争で勝利した後は、グランの貴族にでもしてもらうつもりだったのかな?」

 ジークが青筋を立てながらそう言ったところで、今度は陛下が口を開いた。


「だが仮に戦争が起こったとして。どうやって我が国を破滅させるつもりだったのだろうな?」
「方法はいくつかありますが、一番簡単なものはやはり『聖女』を使った方法ですね」
「聖女を? ジーク、それってどういうこと?」
「まず最初に考えたのは、聖女の力で他国からの支援を断つことかな」

 ジークは地図を広げると、アレクサンドロス王国の周りを指でグルっとなぞった。


「面倒なことに、聖女の価値を周辺諸国は嫌というほど分かっているからね。なにより僕たちの国という実例があるから」
「聖女の価値……」

 どうして聖女という名が生まれたのか。それは平民である私でも知っている。

 別に凄い魔法が使えるとか、世界を脅かす巨悪を倒す使命があるとか。そういう物語のヒロインみたいな力は持っていない。だけどどの代わりに、聖女は国ひとつを豊かにするほどの“神の知識”を持っているのだ。


「二十年前。異界から先代の聖女が現れ、飢饉で荒れていたウチの国を、僅か一代で復興させたんだよな?」
「もたらされた異界の知識により、多くの国民が救われた。まさに神が遣いを寄越してくれたのだと感謝したほどだった。……まあ、そのおかげで周辺の国にはたいそう恨まれてしまったがな」

 顔のしわを深めながら、苦笑いを浮かべる国王陛下。それがキッカケでグラン共和国とも小競り合いが始まったんだっけ。飢饉と外交に、きっと苦労させられてきたんだろうなぁ……。


「まぁ、そういうわけで。今代の聖女候補のネームバリューがあれば、他国からの干渉を遮断できるかもっていう予想なんだ」
「ジークの言うように、聖女の知識を取引の材料にすれば、戦争の間はちょっかいを出さないように交渉できるってワケだな。あのマヨネーズもその布石だったってのか? あのオリヴィアって女、マジでこえーな」

 食い物に釣られて婚約しなくて良かったぜ、とアモンさんは笑っていた。
 いや、笑いごとじゃないと思うんだけど……。

 それにそのマヨネーズだって、私がサクラお母さんから教えてもらったレシピだったのに。あんな女、間違っても聖女なんかじゃないわよ。


「しかしグリフィス家はすでに物資に調達に動いているのか? 動きはまったく掴めていなかったのだが……」

 ゼロムス陛下は半ば呆れたようにため息を吐いた。

 んー、何かが引っ掛かっているのよね。どこかでそういうような話を聞いたような……なんだったかしら。世間話か、誰かの愚痴だった? 難しい話だったから、途中から聞き流して……あっ、思い出した。


「そういえば最近、農業や鍛冶をしている貴族家の羽振りが良いと、実習で言っているお屋敷で聞いたような……ひっ!?」

 そこまで言いかけたところで、三対の恐ろしい瞳が私に向いた。

 やっぱり、ちゃんと聞いておけば良かったかしら? 私の背中に大量の冷や汗が流れた。
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