孤児メイドの下剋上。偽聖女に全てを奪われましたが、女嫌いの王子様に溺愛されまして。

ぽんぽこ@書籍発売中!!

文字の大きさ
上 下
35 / 56
第3章 とあるメイドと王子様

第26話 そのメイド、こき使われる。

しおりを挟む

「だから私は不審者なんかじゃないって、何度も言ったじゃないですかぁ……」

 涙目になりながら頭を押さえてそう言うと、御婆さんは私を叩いていた杖をようやくおさめてくれた。


「ふん。勝手に他人の家に入ってくる方が悪い」
「いや、ノックは何度もしたんですけど……」

 した。私は何度も玄関のドアノックを叩いた。そりゃあもう、バンバンと。


「この家にはあたしゃ居ないからね。年のせいで、耳が遠いんだよ」
「こっちは本気で心配したのに、このクソババア……(小声)」
「誰がババアだって!? この小娘が!」
「いっ、痛いです! 冗談ですから、杖で叩くのは止めてくださいってば!!」

 嘘つき……やっぱり聞こえてるじゃないの……。

 それにこの人、めっちゃ元気だ。腰の折れたちんまい御婆さんなのに、力が物凄く強い。

 ……って、あれ?


「この家に一人しかいないって、まさか……」

 良く見ればこの御婆さん。一般市民みたいな質素な服ではなく、見るからに上等な質の服を着ている。煌びやかな宝石類は身に着けてはいないけれど、高貴なオーラが漂っていた。


「あたしがこの家の主だよ」
「ってことは、シルヴァリア公爵閣下!?」
「その呼び名は嫌いだよ。エミリー様とお呼び」

 ほ、本当にこの人が公爵様だったの!?
 ていうか私、とんでもないことを口走っちゃったじゃない!?

 どうしよう。メイド学校を退学にされちゃったりするのかな!?
 いや、貴族で一番トップの公爵様を怒らせたりなんかしちゃったんだ。捕まって牢屋行き、最悪は打ち首にされちゃうんじゃないの!?


「まぁ、アンタがあの子が言っていたメイド見習いだってのは分かったよ」
「それは……良かったです……」
「随分と生意気な小娘だってのもね」
「も、申し訳ありませんでした……」

 はぁ、と溜め息を吐いたシルヴァリア公爵あらため、エミリー様。

 良かった。どうやら私を殺したいほど怒っているわけじゃないみたい。

 っていうかあの子って誰? キーパー理事長のこと? あの人とは同い年ぐらいらしいけれど、そんなに仲の良いご友人なのかしら。


「だけどあたしゃ一人でも生きていけるんだ。だから、ただのメイドは要らないよ」
「うっ……でも実務実習ができないと、私も困るんです!」

 実習をクリアしないと、こっちは路頭に困るのだ。

 許しを請うために、ペコペコと必死に頭を下げる。


「そんなこと、あたしにゃ関係無いさね」
「そ、そんなぁ!?」
「だけど、一度は引き受けちまったのは仕方がない。ここでアンタを追い返しちゃ、あたしが後で怒られちまうからね」

 えっ!? それじゃあ……。

 エミリー様は杖で床をコンコンと叩きながら、意地の悪い笑みを浮かべた。


「精々こき使ってやるから、覚悟するんだね」
「ひ、ひゃい……」


 ◇

 そうしてその日から、シルヴァリア公爵家でのメイド実習が始まった……のは良いのだけれど。

 ~朝9時、業務開始~

「ほら、早く水を汲んできな! これじゃお茶も入れられないじゃないか!」
「はい!!」
「その後は薪割りだよ!」
「えぇ!?」



 ~業務開始1時間後~

「取り合えず、全部の部屋の掃除をしてもらおうかね」
「ぜっ、全部!? あの、部屋の間取り図なんかは……」
「あると思うかい?」
「……頑張ってメモして覚えます」



 ~業務開始3時間後~

「もう昼食の時間じゃないか。主人を腹ペコで殺す気かい?」
「えぇ? それも私が作るんですか」
「もう音を上げるのかい? やっぱり最近の小娘は、根性がないねぇ」
「やっ、やります!! けど……あの、御貴族様が食べるような食事なんて、私には作れないんですけど……」
「別にアンタにコース料理なんて期待なんかしちゃいないよ。ただもし、あたしが腹でも壊したりなんかしたら……あとは分かるね?」
「ひゃい……」


 ~お昼~

「まぁ見た目はともかく、味は良いだろう。ただ普通の貴族家だったら、即クビだろうけどね」
「ありがとうございます……? すみません、ミートボールなんか作って」
「別にモノは何でも構わないさね。夜もこんな感じで頼んだよ」

 ひき肉を固めて作った私特製ミートボールをフォークで華麗に口へと運びながら、エミリー様はさも当然のように言った。

 夜も私が作るんですか。たしかに文句は言われなかったから良かったけれど。平民の私が作れるレシピなんて、高が知れているのに。


「うぅ、プレッシャーがすごいよぅ」

 正直、やりたくない。だけど、無理とは言えない。

 私は分かりましたと言いながら、ガックリと頭を下げた。


「それより、何をボサっとしているんだい」
「え?」

 自分の席であろうテーブルの上座についていたエミリー様が突然、私を叱りつけた。


「席はたくさん空いているだろう。アンタもさっさと喰っちまいな」

 エミリー様は食堂の中をぐるっと見渡した。たしかにこの部屋にあるテーブルには、他にも数名座れるほどの席があった。


「メイドが主と食事なんてして、良いんですか!?」
「あたしゃ忙しいんだよ。食事が終わったら、庭の整備だ。しきたりなんて気にしてる暇なんて無いよ!」

 ソ、ソウデスカ……。


 ~夜6時、業務終了時間~

「はぁ……つ、疲れた……今までの、どの家よりもハードだった……」

 ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、私は玄関の床にベッタリと尻餅をついてしまう。

 結局、庭木の剪定や落ち葉の掃除などをやる羽目になり。私の足腰はボロボロになり果てていた。

 ねぇ、これって本当にメイドの仕事なの?

 ある程度のメイド業については学校でも学んではきたけれど、ここまで多様な雑務をやることになるとは思ってもみなかった。


「ていうか、今までこの家の整備ってどうしていたんだろう」

 今の私のように、派遣で仕事をしている人がいるのかとも思ったのだけれど。エミリー様が最初に言った通り、誰かが出入りしている様子はなかった。


「掃除用具や備品とかの場所はすべて、エミリー様が知っていたし。本当に独りでこの家で過ごしていたんだろうけど……何者なのよ、あの人」

 その張本人であるエミリー様は疲れたとか言いながらも、一人で花壇の水やりを続けていた。

 花壇だけは私には手を付けさせたくないらしく、おかげで私はこうして屋敷の玄関で一休みすることができているのだけれど。

 正直言って、エミリー様は異常だ。若者の私よりも、よっぽど体力がある。


「こんな調子で、週に二度も実習ができるのかしら……」

 私は今、七日ある一週間のうち、三か所の貴族家で実習している。各貴族家を二日ずつだ。つまり、今週はもう一度来なければならない。

 今日だけでヘトヘト。それに他の家の実習もある。それらを考えると、思わず私はその場で頭を抱えてしまった。


「……? エミリー様、もう花壇の世話は終わりですか?」

 私が絶望に染まっていると、床に一人分の影が差した。

 ――だけどおかしいな。エミリー様のものよりも、ずっと長い。


「あはは、やっぱりこうなっていたか」
「え?」

 顔を上げると、思わず驚きの声を上げてしまった。


「やぁ、アカーシャ。キミとの再会を楽しみにしていたよ」

 そこにはなんと、王都の花屋で出遭った騎士のジーク様が立っていた。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...