孤児メイドの下剋上。偽聖女に全てを奪われましたが、女嫌いの王子様に溺愛されまして。

ぽんぽこ@書籍発売中!!

文字の大きさ
上 下
32 / 56
第3章 とあるメイドと王子様

第23話 そのメイド、関係を疑われる。

しおりを挟む
~アモン王子視点~


 イクシオン侯爵家からの帰り道。
 俺は馬車に揺られながら、窓から見える小麦畑をボーっと眺めていた。


「どうしたんですか。何か侯爵家でトラブルでも?」
「……いや。そういう訳じゃないんだが」

 そう訊ねてきたのは、煌びやかな衣装を着たな王子だった。


「まさかアモン様。あのメイドに正体をバラしたのですか!?」
「いや。俺が本当の王子だという事はバレていないはずだ」

 王子風の男――影武者のレイリーは俺そっくりの顔を真っ赤に染め、こちらを睨んできた。

 ――そう、これは俺が己の影武者と共謀して仕組んだ茶番。この男が言うように、俺こそが本当のアモンであり、この国の第一王子であった。


「あのメイドに心を奪われてしまった……なんて言い出しませんよね?」
「ははは、それはどうだろうな」

 この車内で行われている会話をアカーシャが聞いたら、いったいどんな顔をするだろうか。

 あのすまし顔が驚きに変わる様を見てみたい気もするが……それはさすがに意地が悪過ぎるだろうな。


「アモン様。これは遊びではないのですよ?」
「あぁ、分かってるよ。俺の代わりに御令嬢方の見極めをしてくれているお前には、とても感謝をしているよ」
「ならどうして私が代理で貴方の婚活をしている間に、結婚する本人がメイドと遊び呆けているんですか!!」

 む、それは心外だな。俺はただ、令嬢に既成事実を作られないよう、お前を身代わりにして近寄らないようにしているだけだ。

 それにメイドとの会話だって、情報収集にもってこいなんだぞ?


「しかもあのメイドは平民らしいじゃないですか!? 王妃になんてできませんからね!?」
「むっ。それは違うぞ、レイリー。この国の歴史を見れば、今までだって平民が王妃になった例はあるじゃないか」
「そっ、それは平民が聖女様だった時です!! ただの市井の者では決して許されませんよ!!」

 レイリーは物凄い剣幕でまくし立ててくる。まさにブチギレである。

 うーん。近頃レイリーに負担を掛け過ぎただろうか?……よし、もう少し婚活の頻度を抑えよう。さすがに彼を失うのは惜しいしな、中々に便利だし。


「アモン様!? 私の話を聞いてるんですか!?」
「うんうん、聞いてる聞いてる」
「はぁ……まったく貴方って人は……」

 そういえばアカーシャには俺を叱る人間は母上と弟だと言ったが、ここにももう一人いたな。
 まったく、俺には勿体無いぐらいだ。優しい友人に感謝をしなくっちゃな。


「アモン様、私もこんな事はあまり言いたくないのですが……自分で王妃に相応しい者を探しだすのは、あまりにも無謀な行為だったのでは?」
「……言うな。それは俺が一番身をもって理解しているんだから」

 父であるゼロムス陛下が用意した縁談は、俺の我が儘で断った。自分で自分の嫁探しをすると啖呵を切ったまでは良かったのだが……まさかここまで難航するとは。


「なーにが、『この国のどこかに、俺の運命の相手がいるはずだ』ですか。頭ん中メルヘン過ぎて、思わず正気を疑ってしまいますよ」
「うっさいな。別に王妃に癒しを求めたっていいだろ!?」

 王になれば権力が金がと下の者は言うが、勘違いをしている。王というのは国の奴隷だ。四六時中働いているし、プライベートも監視されて休めたモンじゃない。

 父上の頭を見ていれば分かる。あの薄毛は絶対にストレスからきている。間違いない。


「それに王妃選びが重要なのは、お前にだって分かっているだろう」
「ぐ、む……それは、そうなのですが」
「上っ面の良さだけで選ぶなら誰にだってできる。……俺は父上のように、妻を失いたくはない」

 父上は三人の王妃を娶ったが、大きな派閥争いが起こってしまった。王妃同士の仲は良かったのだが、その縁者が欲を出した。

 最高権力者である父上たちでも、さすがにすべての争い事を抑えきることはできない。小競り合いはやがて発展し、暗殺者を放つまでに憎しみは肥大した。


「お母様のことは残念でありました……」
「俺だけじゃない。弟も母親を失った。あんな悲劇を起こすことだけは、絶対に避けたい」

 あの暗殺事件で、第一王妃と第二王妃が殺された。その結果、仲が良かったはずの俺たち兄弟も疎遠になっちまった。

 愛嬌のある笑顔が可愛かった弟。アイツが浮かべた絶望の表情を、俺は今でも忘れることができない。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。 十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。 そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり────── ※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。 ※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。

鷹凪きら
恋愛
「力を失いかけた聖女を、いつまでも生かしておくと思ったか?」 聖女の力を使い果たしたヴェータ国の王女シェラは、王となった兄から廃棄宣告を受ける。 死を覚悟したが、一人の男によって強引に連れ去られたことにより、命を繋ぎとめた。 シェラをさらったのは、敵国であるアレストリアの王太子ルディオ。 「君が生きたいと願うなら、ひとつだけ方法がある」 それは彼と結婚し、敵国アレストリアの王太子妃となること。 生き延びるために、シェラは提案を受け入れる。 これは互いの利益のための契約結婚。 初めから分かっていたはずなのに、彼の優しさに惹かれていってしまう。 しかしある事件をきっかけに、ルディオはシェラと距離をとり始めて……? ……分かりました。 この際ですから、いっそあたって砕けてみましょう。 夫を好きになったっていいですよね? シェラはひっそりと決意を固める。 彼が恐ろしい呪いを抱えているとも知らずに…… ※『ネコ科王子の手なずけ方』シリーズの三作目、王太子編となります。 主人公が変わっているので、単体で読めます。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

処理中です...