孤児メイドの下剋上。偽聖女に全てを奪われましたが、女嫌いの王子様に溺愛されまして。

ぽんぽこ@書籍発売中!!

文字の大きさ
上 下
31 / 56
第3章 とあるメイドと王子様

第22話 そのメイド、赤面する。

しおりを挟む
 
「あぁ、クソが付くほど真面目でな。アイツ、弟の癖に兄にメチャメチャ厳しいんだ」

 騎士様は、アモン王子をいさめる人がキチンと身近にいたと言う。

 だけど私はその言葉にどうしても首を傾げてしまった。だって私がこの屋敷でメイド実習を始めてから一月ほどが経ったけれど、その間に見たアモン王子の態度は最悪そのものだったから。

 婚約者候補のお嬢様にはやたら甘ったるい言葉で話しかけるけど、メイドたちには興味が無いのか挨拶しても知らんぷり。お茶を出しても手を出さないし、カップの扱いも雑。

 屋敷の先輩メイドの話では、客間で接待したあとはすぐにお嬢様の部屋に引き篭もってしまい、その中で何をしているのか分からないそうだ。横柄な態度は仕方ないにしても、言動の節々に性格の悪さが出ている。

 そんな話を見て聞いている私には、どうしても騎士様の言う事が信じられなかった。ちゃんと叱ってくれる人がいるなら、もう少し紳士的な態度をとると思うのよね。


「うーん……人は見かけに寄らないっていうけれど。実は良い人なのかしら」

 ていうかこの騎士様。いくら第一王子様の護衛だからって、第二王子のことをアイツとか言っちゃって不敬罪とかにならないのかな。噂じゃ三人いる王子様たちは、お互いに仲が悪いって聞いたけど……もしかして本当の話だったのかしら? 


 ――ま、いっか。王子様なんて雲の上の人、私には関係のない話だしね!!



 その後も私は話題を変え、騎士様とのおしゃべりを堪能した。

 城での話や城下町での話。
 最近の流行りや過去に起こった珍事件など。

 貧乏な田舎者である私では知らないことを、騎士様は面白おかしく話してくれた。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕方ごろになってやっと王子様が屋敷から出てきた。


 ……なんだか来た時と違って、服が乱れていたような?

 侯爵令嬢とナニをやっていたのかしらね。


 ともかく私は何にも気付かないフリをして、お見送りの挨拶をする。

 やっぱり王子様はメイドの私になんて目もくれず、さっさと馬車へと戻っていってしまった。


「ふぅ、まぁいいわ。今日はこれで仕事は終わりね……って、どうしたの? 騎士様が王子様の代わりにお別れの挨拶?」

 仕事帰りに街で夕飯でも食べていこうかしら、なんて考えていたら、さっきまで一緒に居た騎士様が私の元へとやってきた。別に忘れ物とかじゃないと思うけれど、なんだろう?

 彼は頬をきながら金色の目を少し彷徨さまよわせた後、意を決したように口を開いた。


「今日もありがとう。いつもは退屈なんだが、キミが居てくれたお陰で楽しい時間を過ごせたよ」

 お礼なんて珍しいわね。っていうか、そんなことを言われたのは初めてだわ。


「えぇ、こちらこそ。次に此方こちらへいらっしゃる時には、特製のクッキーでも作ってお待ちしておりますわ」


 私は私で、歓迎の意味を込めて返答する。
 どうせまた彼は暇だと言って、私に会いに来るでしょうから。

 そんな私の言葉に、彼はキョトンとした後「キミの手作りか、それは嬉しいな」と微笑んだ。


「それと……」
「まだ何か?」
「いや、何でもない……それじゃあ、また」
「……? はい、お元気で」

 本当に今日はどうしたのかしら? いつになく真面目な顔をして、騎士様らしくないわね。なんだか恥ずかしいじゃないの。

 照れ隠しに、ちょっとだけ芝居臭いカーテシーで礼をとってみる。それがまた彼のツボにまったのか、緊張の表情から一転して笑い始めた。


「クッ、ククク……本当にキミは面白い子だ。……ではアカーシャ。話相手のお礼と親愛の印に、コレを受け取って欲しい」

 騎士様が私の右手を取ると、その中に金色の小さなピアスを置いた。


「え? お礼、ですか?? これは……ピアス?」

 手渡されたのは、クローバーの形をしたピアスだった。中心には紅く綺麗な石が嵌まっている。


「いえ、こんな高価そうなものを受け取るわけには……」
「……頼むよ。なんなら今度会った時まで、預かってくれるだけでもいいんだ」


 うーん? じゃあそういうことにしておきましょうか?
 彼もまた話相手になって欲しいだけなのかもしれないし。


 ……なにより、私も楽しかったからね。
 もしかしたら、初めての男友達かもしれない。彼となら、いつでも気軽にお話したい。

 そんなこと、恥ずかしくて面と向かっては言えないけれど。


「分かりました。ではその時まで、大事に取っておきます」
「そうか、良かった……」

 騎士様はホッとした表情になると、握っていた私の手の甲に唇を落とした。


「えっ……? ちょ、ちょっと!?」
「では、また近いうちに会おう!! その時を楽しみにしているぞ!!」

 慌てふためく私を置いて、今度こそ彼は馬車に乗って去っていってしまった。

 どうしよう、まさかキスをされるなんて……!?

 あまりに唐突過ぎて、何も反応できなかった……。


「……なんだか妙にキザったらしかったわね。何だか腹が立ってきたわ」

 サボり騎士のくせに、してやられた。

 その場でやり返せなかったのが何よりも悔しい。


「――ま、いいか。どうせまた直ぐに会えるでしょうし」

 私はそう思い直し、右手の甲をさする。

 不思議と柔らかいあの唇の感触は、いつまでも消えることは無かった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...