27 / 56
第3章 とあるメイドと王子様
第19話 そのメイド、ツンデレに溺愛される。
しおりを挟む私がキーパーメイド学校に入学してから、約半年が経った。
元々メイドとして働いていた経験が活きたってこともあるけれど、やはりプロが教える学校は凄い。男爵家に居た頃では知らなかったような、高級な茶葉の扱いや貴族の礼儀作法もしっかり学ぶことができた。
クラスもブロンズからカッパーへと上がり、学ぶことも格段にレベルアップしている。もちろん、ルームメイトのルーシーも一緒だ。
ツンツンしていたルーシーだったけれど、どうやら吹っ切れることができたみたい。メキメキと才能を伸ばし、私なんて到底追いつけないほどの実力を見せていた。たぶんそれまでの彼女は貴族のプライドが邪魔していただけみたい。自身の鎖魔法に対しての苦手意識が無くなってからは、日常的に活かせるようになっている。
「う~ん、紅茶は習った通りに淹れられるようにはなったんだけど。どうしてか、ルーシーが淹れた方が美味しいのよね。何故なのかしら?」
私は今、シルバークラスに上がる為の試験勉強をしている最中だ。
今回の課題は基本的な給仕から始まって、客人への応接がひと通りできればオッケー。
念願のシルバークラスになれば、実習という形でお屋敷で働くことができるのだ。
そう、やっと働くことができるのだ!
つまりお賃金が発生するということ!!
ちなみに私が騎士様に貸していたお金は戻っていない。でもお給料が手に入るようになれば、少しずつでも生活費を返済できるし、いずれは自立して生活できるようになる……はず。
「アカーシャさん! 授業の合間にケーキを焼きましたの! 味見をしてくださらない!?」
「え? いつの間に!? うわぁ、美味しそう~っ!! ありがとう!!」
「うふふふ。そんなに喜んでくださると、作った甲斐がありますわ」
実習室で紅茶を淹れる練習をしていたら、後ろからニコニコ顔のルーシーがやって来た。
手に持っているトレーの上には、作りたてのフルーツケーキ。
赤や黄色などの色とりどりの果実がバランスよく飾られ、一種の芸術品のよう。
確かに試験には料理の項目もあったよ?
でもこんな本格的なケーキなんて誰も求めていないし、そもそも作ろうとしたって普通は作れないと思う。ルーシーったら、パティシエの才能まであったのかしら……。
「アカーシャさんが以前、好きだって言っていたドライフルーツを使ってみましたの。お口に合うといいのですが……」
そういってルーシーはキラキラとした瞳を向けながら、私の反応を窺っている。
出逢った当初はあれだけ不愛想でツンツンしていた、あのルーシーがだ。
(な、なんなのよ……この可愛い生き物は……!!)
まるで恋する乙女のような振る舞いだ。このまま見ていたい気もするけれど、出来立てのケーキを放置するわけにもいかないし……。
「い、いただきます……」
ありがたく差し出されたケーキを、フォークとナイフを使ってひと口食べてみる。
「おいしーい!! 甘酸っぱいベリーと完熟した桃の甘さが交互にやってきて、幾らでも食べられちゃう!……はっ!? まさかこのフルーツの配置って、全部計算されているんじゃ……!?」
「ふふふっ。それはどうでしょう~?」
悪戯が成功したと微笑むルーシーは女の私でも心を奪われそうになった。この場に男が居なくて良かったわ……。
胸をドキドキさせながら、残りのケーキを咀嚼していく。ケーキなんて贅沢品、こんな時でしか食べられないからね!
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。
捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。
鷹凪きら
恋愛
「力を失いかけた聖女を、いつまでも生かしておくと思ったか?」
聖女の力を使い果たしたヴェータ国の王女シェラは、王となった兄から廃棄宣告を受ける。
死を覚悟したが、一人の男によって強引に連れ去られたことにより、命を繋ぎとめた。
シェラをさらったのは、敵国であるアレストリアの王太子ルディオ。
「君が生きたいと願うなら、ひとつだけ方法がある」
それは彼と結婚し、敵国アレストリアの王太子妃となること。
生き延びるために、シェラは提案を受け入れる。
これは互いの利益のための契約結婚。
初めから分かっていたはずなのに、彼の優しさに惹かれていってしまう。
しかしある事件をきっかけに、ルディオはシェラと距離をとり始めて……?
……分かりました。
この際ですから、いっそあたって砕けてみましょう。
夫を好きになったっていいですよね?
シェラはひっそりと決意を固める。
彼が恐ろしい呪いを抱えているとも知らずに……
※『ネコ科王子の手なずけ方』シリーズの三作目、王太子編となります。
主人公が変わっているので、単体で読めます。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
踏み台令嬢はへこたれない
IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる