孤児メイドの下剋上。偽聖女に全てを奪われましたが、女嫌いの王子様に溺愛されまして。

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第2章 とあるメイドの入学

第16話 そのメイド、おののく。

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 魔法を使ったメイド術の授業は仕切り直しとなり、今度は実技をすることになった。

「それでは皆さん。先ほどのアカーシャさんのように、自分の魔法を使って実際にお仕事をしてみましょう」


 隣の教室に移動した私は、目の前に並ぶ実習用の教材たちにおののいていた。

 この部屋は実際のお屋敷と同じような造りをしていて、様々な状況に対応できるようになっている。

 たとえば、執務室を模した一角。貴族や商家の主が使う立派な執務机が置いてあり、壁には書類や本が詰め込まれた棚が設置されている。

 また別の区画には、来客を迎えるための豪奢なソファーや、宝石や金で装飾のされた茶器などなど。


 ……私がお世話になっていた男爵家にはこんな贅沢品、何一つ無かったわよ? 旦那様なんて、キッチンのテーブルで仕事をしていたし。

 他にもキッチンやトイレ、寝室などがあったりして、ちょっとした豪邸の様相をしている。

 いいなぁ。私、ここに住んでみたい……実習でしか使わないなんてもったいないわ。理事長にお願いしたら住まわせてくれないかしら?


 私がそんなアホな事を考えている間に、他のクラスメイト達は自分の魔法が使えそうな場所に移動していた。各々が自分の魔法をアレンジした方法で、掃除や給仕に挑戦している。


「熱魔法よ、温めろっ!」
「風魔法、舞いなさいっ!!」
「闇魔法……起動……」

 それぞれの魔法に応じた魔法陣が教室中に浮かび上がる。
 魔法陣は緻密な模様が描かれていて、発動と同時に線に沿って魔力が流れていく。それはまるで複雑な絵画みたいで、ちょっとした幻想的な光景になっていた。


「おおっ、王道ながらアレは便利な使い方だわ!」

 熱の魔法を使った子は紅茶を冷まさないように、ポットを温めたまま運んでいた。沸騰させることなく上手に調節しながらカップに注いでみせると、その様子を静かに見守っていた生徒たちから歓声が上がった。


「一々火を使わなくても温められるのは羨ましいわ。お風呂を沸かすのにも使えそう……」

 別の場所では魔法を掃除に使っている。
 風魔法が床に撒いたゴミを巻き上げ、竜巻のように一か所へ纏まっていく。そのゴミは闇魔法で作った小さなブラックホールみたいな穴に吸い込まれて……綺麗サッパリなくなってしまった。


「みんな凄いわね……って一人だけおかしい子が居る!! なによ、闇魔法って! 怖すぎるわよ!」

 ルーシーの鎖魔法なんて目じゃないくらい恐ろしい魔法だ。あれが塵とか埃だからまだいいけれど、人間が吸い込まれたら一巻の終わりじゃない。

 セクハラをした雇い主が泣き叫びながら闇に消えていく……そんな姿を想像していたら、その魔法を使っていた厨二っぽい子がニタァとコッチを見てきた。


「あ、あの子にはなるべく近寄らない様にしよう。怒らせたら存在を消されそうだわ……」

 何となく触れてはいけない予感がしたので、他の子たちを観察してみる。
 他にもリラックスする香りを出す子や、服のシミを一瞬で抜く子もいた。
 うんうん、そういう平和な使い方が良いよね。


「あれ? あんな端の方で何をしているんだろう……?」

 グループから少し外れたところには、さっき問題発言をしてしまったハイドラさんが居た。

 先生に叱られた後、彼女は一人でずっとブツブツと呟きながら、何かを考えていた様子だったけれど……水魔法の使い方、何か思いついたのかしら?


「水魔法、発動……」

 ハイドラさんは魔法で生み出した水を床にビシャっと打ち付けてみたり、薄く伸ばして水たまりを作ったりしている。何ができるのか分からないから、おそらく片っ端から試しているのだろう。


「……これじゃ駄目。やっぱり私には水汲みしかできないのかしら」

 さっき私が言ったセリフが心に刺さってしまったのか、ションボリと項垂れてしまうハイドラさん。

 うーん、別にそんなことは無いと思うんだけど、固定観念に縛られているのかしら。水汲みというのも、焚きつけるつもりで言っただけなのに……。

 何となく罪悪感を覚えた私は、彼女にアドバイスをすることにした。
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