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第2章 とあるメイドの入学

第13話 そのメイド、笑いを堪える。

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「あの先生は魔法を使ったメイド術を教えている先生よ」
「へぇ、魔法でメイドを……」

 隣の席のルーシーが、教室の壇上にいる先生を見ながらコソッとそんなことを教えてくれた。
 
 ちょっと小太り気味なのに、手足の動きだけはシャカシャカと素早い。黒板に文字を書く速さなんて目に留まらないほどだ。

 でも魔法を使えるということは、あの先生も貴族の血を引いているのだろう。私の目には愛想の良い、ただのおばちゃんにしか見えないけれど……。


「それにしても、貴族だけが使える魔法をメイドの仕事のために使うというのも……何だか贅沢な話ね」
「そう? メイドってそういうものじゃないの?」
「貴族生まれのルーシーは、そういう感覚なのかもしれないけど……庶民からしたら、魔法ってとても貴重なのよ?」

 そもそも魔法は人によって使える種類がまったく違う。だから人に教える行為自体が難しいとされている。それなのに魔法の授業ができるのは、この学校が優れた人材に溢れている証拠だろう。そして少数精鋭のクラス制をとっているということも理由のひとつだ。


 学校全体で生徒が百人ほどだから、一クラスがだいたい二十人。
 これが習熟度に合わせて五クラスあって、上からプラチナ、ゴールド、シルバー、カッパー、ブロンズと大まかに別れている。

 プラチナクラスで卒業試験をクリアすれば、晴れて一人前のメイドとして社会に出られるという仕組みだ。

 もちろん、私が今居るのは一番下のブロンズ教室。ここから私は成り上がってみせるつもりだ。


「今日は魔法を応用した仕事の効率化について学んだあと、実際に演習を交えてみなさんにも体験していただきます。……ああ、勘違いをしてはいけませんよ。仕事の効率化というのはもちろん、雇い主を魔法で洗脳したりする行為ではありませんからね?」

 壇上で先生が黒板に大きく“上手に主人を操るには“と書いてから、赤いチョークで大きくバッテンをつけた。先生はお茶目なメイドジョークがお好きなようだ。


 ・残業はしないこと。時間厳守は就業時間も同様です。
 ・身体を求められたら、それに見合う対価を求めなさい。決して自分を安売りしないこと。
 ・雇い主に手や口が出てしまったら、速やかに学校へ報告すること。理事長が対応します。


「ふふふっ。本当にそんな無茶苦茶なメイドがいたのかしら」

 続けて黒板に書かれた文章を見て、私はつい笑ってしまった。他の生徒たちも真剣に話を聞いているけれど、誰もが笑いをこらえるのに必死のようだ。
 
 ルーシーでさえも口を抑えている。だけど先生が実際に経験した職場の話を交えて解説を始めると、全員がもれなく噴き出した。


「あぁ、おかしい。てっきりメイドの授業は厳しいのかと思ったけれど、そうでもないのね」

 笑い過ぎて文字がミミズのようになったノートを必死に修正しながら、私はそんなことを呟いた。


「ふふっ、そうね。でもアカーシャさん。ああ見えて、あの先生はとても凄い人なのよ?」
「え? そうなの?」
「えぇ。実は――」

 一見すると気さくで面白い人だが、彼女をただのお喋り上手なおばちゃんと侮るなかれ。なんと王城でメイド長を経験したことがある、大ベテランなんだそうだ。


「みなさんお分かりのように、神様から授かった魔法は千差万別です。たとえ自分の魔法が一見使えなさそうでも使い方次第なのです。これは上司も部下も一緒ですからね~?」
「先生!! 私は水を出せるので水汲みが楽です!!」

 生徒の一人が自慢げに喋り始めた。
 
 あれはたしか、さっきルーシーを見て笑っていた子ね。見るからにプライドが高そうな子だと思ったけど、有用な魔法が使えるから天狗になっちゃっているのかしら?


「あら、素晴らしい魔法ですね。でも魔法は楽をするのではなく、どうすれば質の高い奉仕を提供できるのかを考えてみましょうね?」
「……はい」

 あらあら、たしなめられちゃった。自分の魔法の自慢をしたかったのに、水を差されて不満顔をしている。

 でも私なら何ができるかしら? 秘書みたいにメモを取るだけならできそうね!

 
「ねぇ、そういえばルーシーの魔法って何「でもまぁルーシーさんの魔法は凶悪過ぎてメイド業には使えなさそうですわね!」……えっ?」
「こらっ、人の魔法をけなすとは何事ですか!!」

 ルーシーの魔法って何が使えるのか聞いてなかったな~なんて思ったら、さっきの女の子がそんなことを言い出した。先生もさすがに注意をするが、彼女は止まらない。

 
「だって……ルーシーさんの魔法って、人を殺す魔法なんですもの!」

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