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第1章 とあるメイドの旅立ち
第4話 そのメイド、顔を突っ込む。②
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「だから予約しておいたって言っただろう!! どうして勝手に売却済みになっているんだ!!」
「そう言われたって、こっちはアンタの予約なんて受けてねぇって言ってんだろ!」
言い合いが起きているのは、どうやら花屋の店先だったようだ。
野次馬の気分で覗いてみると、店主らしき筋骨隆々のオジサンが銀髪の男性に怒鳴り散らしているところだった。
「予約は僕が出した使いの者がしておいたはずだ! 間違いない!」
「はんっ。ならソイツを連れてきな。そもそも、俺っちの店は平民向けの花屋なんだ。おめぇみたいなボンボンは、貴族街で萎れた造花でも買ってりゃ良いじゃねぇか!!」
「僕だってそれができるなら、最初からそうしてるさ!! だけどキンカチョウの花は貴族街じゃ売ってないんだよ!」
予約がどうの……って言っていたけど、何か行き違いでもあったのかしら?
ていうか萎れた造花って、造花なら元から萎れないんじゃないの??
ボンボンと言われた方の彼は、後ろから見ている私でも分かるほどに耳を真っ赤にしている。
身なりはたしかに、平民が着るような服ではないわね。騎士様が着ている軍服かな?
年齢は私と同じ16歳くらいだけど……店長さん、騎士様相手にあんな言い方して大丈夫なのかしら?
銀髪の彼、身体を震わせちゃって怒り出す寸前じゃない。
「ちょっと、どうしたの? 遠くからでも聞こえるぐらい大声だったわよ?」
お節介かもしれないけれど、私は騎士様に用ができた。口を出させてもらうわよ。
突然現れたメイド服姿の私を、二人は同時に睨みつけた。
何よ、二人とも。ケンカ中なのに息ピッタリじゃないの。
「……この店主が、僕にキンカチョウの花を売らないって言うんだ。王都じゃここでしか手に入らないから、三日も前に予約をしていたのに」
「だからその予約なら、別の奴が持って行ったって言ってるじゃねぇかよ。まさかテメェ、貴族の特権だとか言って、俺っちの大事な商品をタダでぶんどるつもりじゃねぇのか!?」
「なんだと!?」
あぁ、駄目だ。
また二人で勝手に言い合いを始めちゃったわ。
「お……騎士である僕がそんなことするわけがないだろう!! だいたい、僕は使いの者に金貨三枚を前払いさせておいたんだぞ!」
「金貨三枚ですってぇ!?」
ちょっと待ちなさいよ!!
何よその花、私の一年分のお給料より高いんですけど!?
店主さん、どれだけぼったくる気なのよ!!
「あん? むしろ安いぐらいだぜ。王都じゃ平民が誕生日に贈る、定番の商品だしな」
「え……? そ、そうなの……?」
やだ、私のお給料安すぎ!?
と、取り敢えずよ。話を聞く限りだと、やっぱり二人の間に何かのズレがあるみたいね。
「騎士様なら、金出して買えば良いじゃねぇかよ! 金持ってんだろ!?」
「アレはキンカチョウじゃない! 日持ちのしない、ギンカチョウじゃないか!!」
「たいして変わんねぇだろうがよ。そっちなら金貨一枚にまけてやるぜ?」
店主は棚に並ぶ花々を指差してそう言った。
「わぁ、可愛い……」
そこには銀色に輝く、小さな星型の花が幾つも置かれていた。
ギンカチョウが銀色なら、キンカチョウは金色なのかしら?
たしかに私も銀色のお金より金の方が好きだけど……これもこれで綺麗だと思うわ。
騎士様はこっちの花じゃ駄目な理由があるのかしら?
「……無いんだ」
「はぁ?」
「だから、金が無いと言っている。……今日は仕事の合間を縫って、大事な人に手渡そうと急いできたんだ。だから、財布を持ってくるのを忘れて……」
その言葉を聞いた瞬間、店主が盛大に噴き出した。
「クァーッハッハ!! こりゃ傑作だ。マヌケな上に、金のないボンボンかよ!! なら話は早い。さっさと帰ってパパにでも泣きつくんだな。お金が無くてお花が買えませんでちたぁ~ってなぁ!!」
馬鹿にしたような表情で、店主さんはこれでもかと煽っている。
うわぁ、酷いこというなぁ。銀髪騎士様、またプルプル震え始めちゃったじゃない。
だけど、大事な人へのプレゼントかぁ。
急いでるってことは、時間もあまりないんだろうな。
……はぁ、仕方ないか。
「分かりました。その金貨一枚、私がお支払いします!」
「そう言われたって、こっちはアンタの予約なんて受けてねぇって言ってんだろ!」
言い合いが起きているのは、どうやら花屋の店先だったようだ。
野次馬の気分で覗いてみると、店主らしき筋骨隆々のオジサンが銀髪の男性に怒鳴り散らしているところだった。
「予約は僕が出した使いの者がしておいたはずだ! 間違いない!」
「はんっ。ならソイツを連れてきな。そもそも、俺っちの店は平民向けの花屋なんだ。おめぇみたいなボンボンは、貴族街で萎れた造花でも買ってりゃ良いじゃねぇか!!」
「僕だってそれができるなら、最初からそうしてるさ!! だけどキンカチョウの花は貴族街じゃ売ってないんだよ!」
予約がどうの……って言っていたけど、何か行き違いでもあったのかしら?
ていうか萎れた造花って、造花なら元から萎れないんじゃないの??
ボンボンと言われた方の彼は、後ろから見ている私でも分かるほどに耳を真っ赤にしている。
身なりはたしかに、平民が着るような服ではないわね。騎士様が着ている軍服かな?
年齢は私と同じ16歳くらいだけど……店長さん、騎士様相手にあんな言い方して大丈夫なのかしら?
銀髪の彼、身体を震わせちゃって怒り出す寸前じゃない。
「ちょっと、どうしたの? 遠くからでも聞こえるぐらい大声だったわよ?」
お節介かもしれないけれど、私は騎士様に用ができた。口を出させてもらうわよ。
突然現れたメイド服姿の私を、二人は同時に睨みつけた。
何よ、二人とも。ケンカ中なのに息ピッタリじゃないの。
「……この店主が、僕にキンカチョウの花を売らないって言うんだ。王都じゃここでしか手に入らないから、三日も前に予約をしていたのに」
「だからその予約なら、別の奴が持って行ったって言ってるじゃねぇかよ。まさかテメェ、貴族の特権だとか言って、俺っちの大事な商品をタダでぶんどるつもりじゃねぇのか!?」
「なんだと!?」
あぁ、駄目だ。
また二人で勝手に言い合いを始めちゃったわ。
「お……騎士である僕がそんなことするわけがないだろう!! だいたい、僕は使いの者に金貨三枚を前払いさせておいたんだぞ!」
「金貨三枚ですってぇ!?」
ちょっと待ちなさいよ!!
何よその花、私の一年分のお給料より高いんですけど!?
店主さん、どれだけぼったくる気なのよ!!
「あん? むしろ安いぐらいだぜ。王都じゃ平民が誕生日に贈る、定番の商品だしな」
「え……? そ、そうなの……?」
やだ、私のお給料安すぎ!?
と、取り敢えずよ。話を聞く限りだと、やっぱり二人の間に何かのズレがあるみたいね。
「騎士様なら、金出して買えば良いじゃねぇかよ! 金持ってんだろ!?」
「アレはキンカチョウじゃない! 日持ちのしない、ギンカチョウじゃないか!!」
「たいして変わんねぇだろうがよ。そっちなら金貨一枚にまけてやるぜ?」
店主は棚に並ぶ花々を指差してそう言った。
「わぁ、可愛い……」
そこには銀色に輝く、小さな星型の花が幾つも置かれていた。
ギンカチョウが銀色なら、キンカチョウは金色なのかしら?
たしかに私も銀色のお金より金の方が好きだけど……これもこれで綺麗だと思うわ。
騎士様はこっちの花じゃ駄目な理由があるのかしら?
「……無いんだ」
「はぁ?」
「だから、金が無いと言っている。……今日は仕事の合間を縫って、大事な人に手渡そうと急いできたんだ。だから、財布を持ってくるのを忘れて……」
その言葉を聞いた瞬間、店主が盛大に噴き出した。
「クァーッハッハ!! こりゃ傑作だ。マヌケな上に、金のないボンボンかよ!! なら話は早い。さっさと帰ってパパにでも泣きつくんだな。お金が無くてお花が買えませんでちたぁ~ってなぁ!!」
馬鹿にしたような表情で、店主さんはこれでもかと煽っている。
うわぁ、酷いこというなぁ。銀髪騎士様、またプルプル震え始めちゃったじゃない。
だけど、大事な人へのプレゼントかぁ。
急いでるってことは、時間もあまりないんだろうな。
……はぁ、仕方ないか。
「分かりました。その金貨一枚、私がお支払いします!」
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