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第37話 ようやく見つけた
しおりを挟む「私がですか? ……そうですね、試してみます」
私は言われた通り、植物の種を生み出して地面に植えてみた。
するとすぐに芽が出て茎が伸び、葉が茂り、やがて蕾をつけた。そして紫色の花が咲いた。
「これは……なんという花でしょうか?」
「スミレの花だな。まさかこんな一瞬のうちに生えてくるとは思わなかった」
アルベルトさんは枝をワサワサと揺らしながら驚いていた。
それからいくつか質問を受けつつも、次から次へといろんな種類の植物を生やしてみる。
私が生やすことのできる植物には限りがあるものの、木・草・草花・果実のどれもが成功していた。
「凄まじい能力だな」
「そ、そうでしょうか……」
畑一面に広がってしまった植物たちを眺めながら、アルベルトさんは半ば呆れたようにそう言った。こうして誰かに育てた植物たちを見てもらうのは初めてだったし、アルベルトさんの反応が良いから、つい調子に乗ってしまったかも……。
地下牢獄は無駄に広かったので、私は好き勝手に植物を生やしていた。
光はなかったけれど、必要としない植物も多かったし、さいわいにも地下水脈があったので水には困らなかった。
それらはもちろん、私が生きていくための食糧を育てるためというのが一番の理由。けれど、気分転換のために育てることも多かった。
「しかしすぐに枯れてしまったな」
「はい……やはり、元の原因が改善されないとだめみたいですね」
私が生み出した植物ですら、結局はすぐに萎れてしまった。果樹の若木もどんどん元気が無くなってしまっている。
「しかし、世界樹の森にある木々には影響がないようだな」
「そうなんですよね……」
昔からある大木たちは変わらずそこに立っている。葉っぱも生い茂り、枯れそうな気配はない。
「儂らが手を加えた植物だけが枯れるのか? だが、その理由が分からん」
「でも、もっといろいろと試す価値はあると思いますよ。私もお手伝いしますので、やってみませんか?」
「うむ。そうだな。だが急用を思い出した。まずはそちらを片付けるとしよう」
他に……? なにか大事な用があるのだろうか?
「ヴェルデはここで待っていてくれ。すぐに戻る」
「はい」
アルベルトさんはそう言うと、ノシノシと歩いてどこかへ向かっていった。
でも……うーん。ここで待てと言われても、することがなくて手持ち無沙汰だ。
私は手ごろな切り株を見付けると、そこに座ってぼんやりと森を眺めた。
「のどかだなぁ……」
あの地獄から連れ出されて、まだ数日。だけどあまりにも環境が変わり過ぎて、未だに夢のようだ。
「ふぅ……。色々と植物を出していたら、ちょっと疲れちゃったな」
温かな日差しを浴びて、このまま眠ってしまいそうになる。
「あー……でも、今日くらいはいいよね?」
この森の景色を見渡して、そっと目を閉じた。
「ようやく見つけたぞ……!」
「え!?」
突然の声に驚いて振り返ると、そこには驚くべき人物が立っていた。
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